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「ネイだって同じだよ」
彼女は言った。
僕は、振り返った。彼は、嘘をつきたくなかったと言っていた。フェレンさんの前では、ネイと偽り、僕にはネクトだと名乗った。それは、本当に素性を隠そうとしたのではないか。僕とネクトの友情の中に、嘘が隠れていたのか?自分の名前を忘れるのはどういうことだ。確かに、自己紹介した時の記憶を否定はしなかったけれど。
「そんなに人はすぐ忘れないですよ。都合よく言ってませんか」
僕は、言い返した。
そもそも、僕が船に乗ってから1年も経っていないはずだ。何もかも忘れるなんて、非現実的すぎる。
「でも、君は君の目的を忘れていたじゃないか。そんな、すぐに他人を忘れていたのは一体、誰かな」
フェレンさんは、僕に言葉を押し付ける。それが引き金を引いたのか、僕は言い返した。
「それは誰かの話と勘違いしているんじゃないですか!フェレンさんだって、僕を忘れているんだ!」
僕は、止まれなかった。
「だいたい、フェレンさんだって、この船の何を知ってるんです!他人の忘却を言ったって、作り話を僕の記憶にされても困ります!」
そうだ、僕がこの船に乗った記憶なんて覚えていない。忘れているのかもしれないけど、ないものに有などない。だって、現にそんな彼女はいないじゃないか。
「ネクトさんやネイの気持ちを忘却と呼ぶのは、どうかと思います!」
だから、海軍長さまは世界を壊すなんて言ったんだ。僕は、腹の底から滾るこの感情を、衝動でぶつけたかった。
「嘘になったってい…」
そこまで言いかけて僕はやめた。だって、ネクトやネクトのお兄さんに嘘をつかれた時の心は、寂しいものだったから。それを繰り返し受けるのは、嫌だと思ったから。
「忘れるってなんですか…嘘になるって。思い込みも自論も意味ないですよ…」
僕もまた、目的を忘れているのも忘却のせいなのだろうか。それはあまりに弱々しい声になった。
「私だって、誰のために作っていたのか思い出したいよ」
フェレンさんの呟きが落ちる頃、僕は部屋を出ていた。
「人のために頑張っていたのに、人外の…それこそ人類の害悪を集めているかどうかの判断を」
月の光が彼女の頬を照らす。
「忘れたくなかったよ」