テラーノベル
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遥の腕の中で、私は巨大な水槽に揺れる青い光をじっと見つめていた。
幻想的にゆらめく魚たちの影を目で追っていると、いつか病院の屋上で小谷先生が言った、あのぶっきらぼうな声が蘇ってくる。
『星空だけじゃない。空も夕日も夜景も。どんな景色でも、誰といるかで違ってくる。……紗南、お前は、誰とそんな素敵な景色を見たいかだ』
先生の言葉の本当の意味が、今なら痛いほど分かる。
凌先輩と一緒にいる景色は、どこか夢の中みたいで、キラキラしすぎていて、少しだけ背伸びをしている自分がいた。
でも、今、こうして遥の腕の中にいると、心臓の音がうるさいくらいに響いてくる。この泥臭くて、必死で、不器用な熱。
(……先生。私、もう分かったよ。私がどんな景色でも、一番に隣にいてほしいのは——)
私は、自分を包む遥の腕にそっと手を重ね、深く息を吸った。
「……遥」
「……なんだよ」
「私、決めたよ。……私、これからもずっと、遥とこういう景色を見ていたい。空も、夕日も、夜景も……全部、遥の隣で見たい。……遥のことが、大好きなの」
遥の体が、びくんと大きく震えた。
彼はゆっくりと腕を緩め、信じられないものを見るような、それでいて泣き出しそうな目で私を見つめた。
「……お前、それ……本気で言ってんのか。兄貴じゃなくて、俺でいいのかよ」
「遥じゃなきゃ、ダメなんだよ。遥とじゃなきゃ、この景色も意味がないの。待たせてごめん。私、自分が楽しい時も、嬉しい時も、悲しい時も、辛い時も、遥がそばに居てくれたのにずっと気付けなかった」
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