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偉猫伝~Shooting Star

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偉猫伝~Shooting Star

10 - 第10話 過ぎ行く日々は溢輝が如く①

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2025年05月31日

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オレ達二人は――すまん二匹だったな。女神とその他、これはどうでもいいが、献身的な介護もあり、特にトラブルも無く、走れる程までに成長を遂げた。



特にその他に可愛がられていたのは、意外にもオレではなく雌の方だった。



人間もそうだが、どの種も例外無く雌には弱い。



本能に忠実で現金な連中に、普通なら抗議の雨あられだが、オレはきっちりと現状を把握出来る。



とにかくこの雌の兄弟は人懐っこいのだ。



活発かつ愛くるしくすり寄っていく姿は、単純な連中からすれば、心落とされるのにそう時間が掛かる訳なかろう。



その策士ぶりに失笑しながらも、雌の世渡り上手ぶりには目を見張る所もある。



それはオレも感心せざるを得ない。



『何がいいかな?』



『迷うね……』



話が脱線したな。今日屯所内にはずれ者含む、全員総出でオレ達を取り囲んでいるのは、目出度い襲名式だからだ。



何故こんなに遅れたのか不明だが、それは人間の事情ってやつだろう。



無名だったオレにも、ようやく名前がつくと思うと、オレもやはり猫の子。期待混じりの高揚を隠せないでいた。



『じゃあこの子は“シロ”ね』



『決まり~』



女神の一言は鶴の一斉となり、強制的に雌の兄弟のネーミングが決定した。



白毛だからシロ。



「プッ……ククク! 良かったなぁシロ?」



普段は冷静で寡黙なオレでも、今回ばかりはこの単純明快さに吹き出してしまった。



「シロ……駄目っ!」



きっとオレを殺す算段に違いない。



恥も外見も捨て、オレは畳の上で転がり回ってしまった。



「何が可笑しいのよ!? 良い名前じゃない? と言うより御主人様が付けてくれたんだもん。何であれ、それらは全て宝物になるわ」



雌の意外な言葉に、オレの回転も止まる。



コイツはこの単純な名前を、喜んで受け入れたのだ。



“シロ”



やっぱり駄目だ! オレは再度回る。



しかしその気持ちも分からんではない。



その他大勢からは断固否定だが、女神が名付け親になるのならオレも受け入れよう。



ただしオレに相応しい、格好いい名前にしてくれよ?



幸運な事にオレは雌兄弟とは違い、白と茶に彩られた神の黄金比率の如き毛並みを誇るから、恐れ多くて間違っても“シロチャ”なんて、訳分からん名は付けないだろう。



オレは期待して女神の命名を、回りながら待った。



『この子の名前は……』



うんうん。それで?



女神の艶やかな唇から紡がれる次の一声に、オレの心臓はショート寸前。



まだこんなに興奮する事が出来るのだ。つまりこれはオレが期待してるという証な訳で――



『ほし……この子は“ほし”』



期待とは裏腹に、オレは耳を疑った。きっと幻聴だろう。



『あなたは“ほし”よ。ねえ~?』



女神がうわ言のように寝惚けながら、オレの頭に手を差しのべてくる。



よく耳をかっぽじっても、どうやらそれで間違いないらしいがちょっと待て。



何だその“シロ”以上に、何の関連性も脈絡も無いネーミングセンスは?



オレは疑いたくなくとも、女神のセンシリビティを疑い始めた。シロの事例もある。



ほら、もっとあるだろ? ジャン・グリード・ダンディムとか、レオパルド・デカプリンとかオレに相応しい名が――



『お気に入りみたいね、ほし~』



こういう時、言葉が交わせない種別の辛さよ。



オレは断固抗議したが伝わらなかったようだ。



『姉ちゃんほしって? あぁっ!』



弟の馬鹿なミーノスが馬鹿な事に気付いて、馬鹿な声を上げた。



『そうよ。あのほし……』



『確かにそっくりだ』



お前らだけ納得してないで、速やかな状況報告をしろ。オレは期待を裏切られて機嫌が悪いのだ。



『きっとこの子は、ほしの生まれ変わり……』



『毛並みとかそっくりだもんね』



どうやらオレは、此所で以前飼われていた猫にそっくりらしい。



生まれ変わりとか輪廻転生とか馬鹿な話だ。



オレはオレでしかない。



女神がやけにオレに目を掛けていたのは、つまるところ昔の面影をオレに見ていたのだ。



ナンセンスだ。オレはそんな見た事も聞いた事もない奴の代わりなんかではない。



女神はオレを胸元に抱き締め、『ほし、ほし』と愛しい者を呼ぶかのように連呼。本当に嬉しそうだ。



だからこそオレは受け入れていた。このほしと言う名を。



オレの名前がジャン・グリード・ダンディムではなく、ほしで決定した瞬間だった。

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