テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
――その後の事はな、まあ余り語りたくはない。
何? いいからさっさと語れと?
このオレに向かって、中々いい度胸しているとは思うが……まあいい。
オレは正直者は好きでもないが、嫌いでもない。
一から十まで逐一説明してやらねば、理解出来ぬ頭もどうかと思うが致し方無いな。
どうもオレは情け深い。崇高な猫に於いて、これでは駄目だと自覚してはいるが、これも猫が良いオレの性だろう。
最初に言っておく。これから先の話は、余り面白くはないぞ。
スリルや感動を求めているのならお門違い。お引き取り願おう。
……くどい。
貴公等がオレを慕うのも分からんではない。
ただこの先の話は、オレの猫生に於いて“とるに足らない”出来事だったと言うだけ。
それでも聞きたいと言うのか?
※はい←
※いいえ
……物好きな輩だ。
つまりはオレ達“シロ”と“ほし”の二匹は、女神やその他の限りない愛情を一身に受け、この上無く幸せな日々を過ごしていたという訳だ。
あの日が来るまでは……な――
あれは陽射しが暖かい季節――確か、春の訪れの頃だったかな? オレ達は小さいながらも、すくすくと順調に育ち、屯所内を駆け廻っていた。
どんなに暴れても文句は言われない。これも子猫の内こその特権。最高だった。
だがまだ危ないと言う事で、目の届かぬ処で外に出る事は許されなかった。
外には天敵も多いし、いずれ最強になるとはいえ、まだ如何ともし難いこの小さな身体では、オレの力も存分に発揮出来ないからな。余計な御世話だったが、今思うとこれも彼等なりの親心なのだろう。
だから外に出る時は、常に女神に抱き抱えられてだった。たまに冥王やミーノスの時もあるがね。彼女は仕事も有るしで我儘を言える立場ではないが、オレは女神以外の時が心底嫌だった。
匂いがむさいから嫌なのを、わざわざ言うまでもなかろう? オレも猫の子雄の子。
しかしこれは毎日の日課にせねばならなかった。太陽の光を常に浴びないと、只のニートな自宅警備員。オレあるまじき事。
余談だが、此所には飼い犬が番犬として存在している。
前にも言ったと思うが、忘れてる奴の為にわざわざリピートしてやるオレは、何て優しいのだろうと自分でも思う。
『ほらクロ~。ほしとシロよ。仲良くしなきゃ駄目だからね?』
そう。色々と話が脱線したが、つまりは犬だ。
オレ達は女神に抱えられ、此所の番犬へ御紹介兼御対面。その初邂来があったと言う訳だ。
「つっ……強そう!」
シロはそいつの姿を一目見て、あっさりと怯えの態度を示していた。
情けない……。オレ等猫社会は、舐められたらそこで試合終了だというのに。
確かに強そうではある。女神のネーミングセンスの相変わらずさは、この際置いとこう。
黒い体毛に強靭そうな四股。所謂猟犬と云った類いだ。
眼光は鋭い。だがオレ達を見る眼は……只の興味本位ではなかった。
そう……これは嫉妬の眼差し。
“後から来た分際で女神の寵愛を!”という意図が、言葉にせずともありありと感じられた。
所詮は解り合えぬ種族。
失禁でもしそうな位に震えているシロとは裏腹に、俺は臆する事なく奴をきつく睨んだ。
『…………』
奴もオレを睨み返す。
“上等だよ”
御互い言葉にせずとも、意志疎通は万全。
コイツとはいずれ“ケリ”を着けねばなるまい。
――ああ、クロというネーミングセンスを疑う犬が居る事ね。こいつの事は一先ず忘れていい。
余り重要ではないのだこれが。
じゃあ何故わざわざ紹介したのかだと?
気持ち悪いだろ? 蔑ろにするのは。オレは貴公等が思っている以上に優しいのだ。
自分の事を優しいと自称する輩は、総じて上面だけと相場が決まっているが、オレだけは例外に位置する。
そうでもなければ、これだけ心の内を明かしたりはしない。
……また話が脱線したな。
だから最初に忠告したろうに。これは面白くないと……。
これが引き返す最後のチャンスだが……どうする?
分かった……。そこまで決意が固いのなら、もはや何も言うまい。
つまりオレ達は、外出は常に誰かと一緒だったと言う事。
そう……何時もは……な――