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Side.黒
「検査結果なんですが」
あまり明るくない声で、目の前の医師は話しだした。
「樹くんの知能は、半年前の検査のときとはほぼ変わっていません。IQも50に満ちていないです。…でも、発達の速度はみんなが違って当たり前ですから。ゆっくり樹くんのペースで、リハビリをやっていきましょう」
そうですか、とつぶやく。
支援学校に入学してもうすぐ1年が経とうかというところだが、勉強はやはり苦手らしい。
その中でも運動は得意なほうだ、と担任の先生は言っていた。
「あと、好きな物事に熱中できれば集中力もつきますし、いいかもしれません。ただ自閉症の子はこだわりが強いので、だいぶ深くハマってしまうのですが」
樹にはそういう趣味はない。強いて言えば、外遊びか。
何かちょっとでもできることが増えればいいんだけど、という心配をよそに樹は丸椅子でくるくると回っている。
「こら、遊んじゃダメ」
椅子を止めるが、離した次の瞬間にはまた回りだす。
「もう…」
いいですよ、と担当の小児科医は笑った。
「病院なんて嫌でしょうしね。今日はこれで終わりです」
優しい先生で良かった、と思った。
帰宅すると、いつものように絵カードを使って指示をする。
『てあらい』
それを見るとすぐに洗面所に行ってくれる。家だと、言うことを聞いてくれる率が高い。
さっと終わらせ、リビングに駆けていった。
「もー、早いって」
ちゃんと洗えているのか心配だが、まあいいだろうと気にしない。
樹はテレビをつけ、子ども向けの番組を観ている。好きなものといったら、これかもしれない。
俺はスマホを取り出し、『自閉症 興味』と調べてみる。だが出てくるのはほとんど『好きなことにはとことん熱中する』というので、医師に言われたことと同じだ。
「なあ樹、樹は何が好き?」
試しに訊いてみる。申し訳ないけれど期待は全くしていない。
「んー?」
振り返って小首をかしげる。それがかわいくて、つい微笑む。
だが答えはない。
「わかんないよねぇ…」
吐息をつき、スマホを閉じる。
きっとこれから探せばいいことだ。
ゆっくり、樹のペースで。
続く