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じゅりの好きなもの〈Black×Blue〉

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2023年02月14日

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Side.黒


「検査結果なんですが」

あまり明るくない声で、目の前の医師は話しだした。

「樹くんの知能は、半年前の検査のときとはほぼ変わっていません。IQも50に満ちていないです。…でも、発達の速度はみんなが違って当たり前ですから。ゆっくり樹くんのペースで、リハビリをやっていきましょう」

そうですか、とつぶやく。

支援学校に入学してもうすぐ1年が経とうかというところだが、勉強はやはり苦手らしい。

その中でも運動は得意なほうだ、と担任の先生は言っていた。

「あと、好きな物事に熱中できれば集中力もつきますし、いいかもしれません。ただ自閉症の子はこだわりが強いので、だいぶ深くハマってしまうのですが」

樹にはそういう趣味はない。強いて言えば、外遊びか。

何かちょっとでもできることが増えればいいんだけど、という心配をよそに樹は丸椅子でくるくると回っている。

「こら、遊んじゃダメ」

椅子を止めるが、離した次の瞬間にはまた回りだす。

「もう…」

いいですよ、と担当の小児科医は笑った。

「病院なんて嫌でしょうしね。今日はこれで終わりです」

優しい先生で良かった、と思った。



帰宅すると、いつものように絵カードを使って指示をする。

『てあらい』

それを見るとすぐに洗面所に行ってくれる。家だと、言うことを聞いてくれる率が高い。

さっと終わらせ、リビングに駆けていった。

「もー、早いって」

ちゃんと洗えているのか心配だが、まあいいだろうと気にしない。

樹はテレビをつけ、子ども向けの番組を観ている。好きなものといったら、これかもしれない。

俺はスマホを取り出し、『自閉症 興味』と調べてみる。だが出てくるのはほとんど『好きなことにはとことん熱中する』というので、医師に言われたことと同じだ。

「なあ樹、樹は何が好き?」

試しに訊いてみる。申し訳ないけれど期待は全くしていない。

「んー?」

振り返って小首をかしげる。それがかわいくて、つい微笑む。

だが答えはない。

「わかんないよねぇ…」

吐息をつき、スマホを閉じる。

きっとこれから探せばいいことだ。

ゆっくり、樹のペースで。


続く

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