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Eliminator~エリミネ-タ-

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Eliminator~エリミネ-タ-

34 - 第34話 四の罪状⑧ 新しい“家族”

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2025年05月29日

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************



「…………」



――暗黙の室内。自らの刃で喉元を切り裂き、昏倒したまま動かなくなった美作の遺骸を、にこやかな笑みで見下ろす少女の姿との対比がまた、場の雰囲気と相まって恐ろしくもある。



喧騒だった者達の姿は既に無い。悠莉も当初と変わらぬ姿。ターゲットが絶命した事により力が解け、美作の深層世界そのものが閉ざされたのだろう永遠に。



「ふぅ~。消去かんりょ~」



悠莉は仕事が終わった事を溜め息と共に告げ、美作の下へしゃがみ込むと、瞳孔が開いたままの彼の瞼をその手でそっと綴じた。



開いたままの瞳孔が気味悪かった訳ではなかろう。



それは死者に対する、ある意味礼儀作法。無意識にせよ故意にせよ。



「それじゃあ、おじさん? 地獄に行く前に、ちゃんと皆に謝っていかないと駄目だからね?」



当然美作に返事等、有ろう筈も無いが、悠莉は至極当然の報いと懺悔を動かない彼の耳許で囁いた後、ゆっくりと立ち上がり――



「よいしょっと……」



スカートの裾を両手で軽く叩いていた。



特に埃を被った訳ではないだろうが、彼女なりの身嗜みの顕れなのだ。



対人戦では絶対不可侵の力を持つ彼女も年相応。其処に在るのは少女以外の何者でもない、としか思えないのだその姿には。



「それじゃあね~。バイバ~イ――」



血溜まりに沈む遺骸に掌を振りながら、悠莉の姿が溶けるように闇へと消える。



それは彼女なりの、涅槃へ旅立つターゲットへの餞だったのか。



その答を此所で知る者は居ない。



此所には当初と変わらぬ暗黙と、ものを言えぬ者が“在る”だけだった。



************



「――ぶっ!?」



間の抜けた時雨の声が闇夜に洩れる。



「いってぇ……って? テメェいきなり何しやがんだ!」



鼻を押さえながらの時雨の罵倒。だが鼻血を垂らしながらの、涙目の表情には威圧も感じられない。



「ああ済まん。手が滑った」



全く済まなそうにも聞こえない幸人の声。



いきなり何が起きたというのか?



つまりは軽く出した幸人の裏拳が、ものの見事に時雨の鼻っ柱にピクチャーヒットしていたのだ。



時雨のロリコン発言を、幸人は忘れていないそれは報復。



「上等だぜ、このロリコン野郎!」



「やはりお前の口は塞がねばなるまい……」



いきり立つ時雨に、冷静な口調だが闘志を燃やす幸人。



閑静な夜が一瞬で、一発触発の雰囲気になろうとするが――



「はい、そこまで」



やはり止めに入るの琉月の役目。二人の間に割って入り――



「止めるな琉月ちゃん!」



「退け……」



まるで猛獣の争いを止める調教師のように、両者に手を伸ばしていた。



正に琉月だからこその芸当。彼等を止められるのは、彼女以外に居るまい。



「どちらにも非が有りますよ御二人方? それに今は“表”の方々が御休みになられている事もお忘れなく……」



正論――返しようがない迄の正論。



「ぐっ……うぅ!」



「ちっ……」



二人は歯痒くとも、ここは御互い退く以外にはなかった。



“裏は裏に徹せねばならない”



こんな場所で感情の赴くまま闘う等、言語道断である。



「ただいま~。うん? どうしたの? なんか変な雰囲気~」



消去完了を遂げた悠莉が、分子配列相移転により御帰還。その雰囲気を敏感に感じ取ったのか、三人を見比べて怪訝そうな表情をしていた。



「ああ何でもないのですよ。お帰りなさい悠莉、御苦労様でした」



琉月はすぐに帰還した悠莉へと労いの声を掛け、近寄って彼女のその小さな身体を抱き締めていた。



「ううん、楽勝だよ~」



嬉しそうにその身を預ける悠莉。本当に仲が良い。



「あっ! ジュウベエもお待たせ~」



「おっ……おう。お帰り」



悠莉はすぐに約束を思い出し、幸人の左肩に居座るジュウベエへ駆け寄ろうとするが、その前にはジュウベエは既に飛び降りて、悠莉の下へと向かっていた。



待っていた処で、無理矢理抱き掴まえられるのがオチ。ジュウベエが自分から悠莉の下へ向かったのは、それも有るかも知れないが、ジュウベエの行動は彼女を受け入れた何よりの証でもある。



「えへへ~。ねえジュウベエ、見てた見てた~?」



「おっ……おう! オレも色んな奴を見てきたけど、あの二人より強いわ。特に幸人は絶対に勝てん、ククッ」



「えぇ~? そんな事無いよ~」



ジュウベエをその腕に抱き止めながら、悠莉は高評価に満更でもなさそうだ。



この二人のやり取りは時雨、琉月以下、何を話しているのか皆目分からないが――



“アイツ……余計な事をペラペラと!”



幸人には筒抜けなのは言うまでもない。かと言って、反論するのも大人げないのか、幸人は拳を震わせながら堪えていた。



“明日の晩飯抜き”



それはそれは、ささやかな抵抗を胸に。



「さて、では本題に入りましょうか」



彼等の様々な思惑をよそに、琉月が場を仕切るように声を上げた。



「御二人方、決めて頂けましたか?」



本来の主旨は悠莉の御披露目ではない。



「えっ? 何をだったっけ……」



唐突な選択に時雨は言葉を濁しているが、すっ惚けている訳ではなく、彼は本気で忘れている。琉月が彼等に依頼した本来の主旨を。



「何をって、もう忘れたのですか? 全く貴方という人は……。御二人のどちらかに、悠莉の指南役を勤めて頂きたいと最初に言った筈ですよ?」



それは半ば呆れた口調。



琉月の口調は常に穏やかだが、穏やかな中にも棘が有る。



そしてそれに時雨はとても弱い。



「あっ! そう言えばそうだった……。ごめんごめん、忘れてた訳じゃないんだよ琉月ちゃんホント!」



鈍い時雨も彼女の棘に焦りながら、ようやく思い出したが何もそれは彼だけではない。



「…………」



その事に幸人も忘れていたのだ。唖然とした表情が、分かりやすい迄にそれを物語っていた。



深夜の屋根上での井戸端会議と言うには、余りにそれは非日常的。



「ボク、出来ればルヅキがいいなぁ……」



二人のどちらかと言う事で、不安と本音を琉月へと漏らす。



「私もそうしてあげたいのは山々ですが、ここはやはりエリミネーター同士でなければなりません。分かってね悠莉……」



不安そうな悠莉を、琉月はまるで断腸の思いで送り出すかのように説得し、彼女を安心させるよう抱き締めた。



本当は自分が悠莉の面倒をみたいであろう事が、ありありと伺える程。



「そういう事ですよ御二人方?」



琉月は悠莉と共に、唖然と立ち竦む時雨と幸人へと向き直る。



「悠莉はまだ幼く、“世間の事”も殆ど知りません。御二人のどちらかには裏のみならず、彼女へ“道”をきちんと導いてやらねば……。私の大切な妹的存在に、もし間違った道でも教えようものなら……」



穏やかだが威圧感全開の琉月のそれは、頼みと言うよりはもはや脅しである。



「そっ……そんな! 俺には荷が重いよ、うん。無理です……無理無理!」



何よりもそれを敏感に感じ取ったのは時雨。あからさまな拒絶反応。



「へぇんだ、アンタなんかこっちからお断りなんだから!」



時雨の拒絶に間髪入れず罵り、ジュウベエを抱えたまま悠莉がとてとてと向かった先は――



「ルヅキが駄目なら、ボクはこの眼鏡お兄ちゃんがいいな。あの変な頭の人なんかよりカッコいいし、何よりジュウベエも一緒なんでしょ?」



相変わらず戸惑う幸人の下へ。



「まっ……待て待て! そんな急にと言うか、勝手にオイ!」



幸人の反応の滑稽さに、時雨が横目で笑いを堪えている。彼が変な頭と罵られて反論しなかったのは、正直助かった思いと、予想に違わぬ展開の方が上回ったからだろう。



「勿論オレも一緒だ。幸人だけじゃ正直むさかったからな。オレもお嬢が家に来るのは大歓迎だ」



「おいジュウベエ……お前何勝手に――」



ジュウベエは反論処か、その提案に大歓迎。何時の間にか悠莉を“お嬢”とまで呼ぶようになっている。あの無駄にプライドの高いジュウベエが。



「やったぁ! これからも一緒だね」



「ちょっ……ちょっと!」



幸人の事情は完全に蚊帳の外。二人だけで勝手に盛り上がり、勝手に話を進めて決定事項にしていた。



「では御決まりですね。悠莉もお気に入りみたいですし、宜しくお願いしますよ雫さん?」



「そうそう、どう考えてもこの大役はお前しかいない」



琉月と時雨も同調し、斯くして悠莉の指南役は決定事項となった。



「勝手に決めてんじゃねぇぇ!」



勿論、幸人だけは未だに納得いかないでいるが。



「ねえ眼鏡お兄ちゃん? ボク疲れちゃったから、早く帰ろうよぉ~」



「そうだぞ幸人、お嬢は疲れてるんだ。オレも疲れた」



悠莉が幸人の裾を掴みながら帰宅を促し、ジュウベエもそれに追従する。もうすっかり家族の一員のつもりだ御互い。



「もう遅いので早く休ませてあげてください。女の子を困らせるとか、見苦しいですよ雫さんともあろう御方が」



「全くだよね~。心の狭い奴だよアイツは……」



悠莉とジュウベエからは急かされ、琉月と時雨からは罵られ、もはや幸人に選択の余地は無い。



「そっ……そんな馬鹿な……」



現実を突き付けられ、幸人は背筋が凍るような悪寒を感じた。



それは『こんな小さい子をどう養い、接していけばいいのか?』という思いだけではない。



もっと根底から間違っているような気が。



しかしこうまで御膳立てされては、もはやどうしようもない。



「ではこれで御開きにしましょう。そうそう……いくら悠莉が可愛いからと、間違いだけは“くれぐれも”犯さないよう」



御開きの刻。琉月が別れ際、幸人へ一応の釘を指す。



「どうかな~? ロリコンに常識は通用しないからねぇ……」



“アイツ等、何時かコロす”



二人を前に幸人は静かなる殺意を胸に秘め、長いようで短かった“夜”が終わろうとしていた。



「では悠莉? 雫さんの師事をよく仰いでね。もし変な事をされたら、何時でも相談に来なさい」



「は~い、ルヅキばいば~い」



悠莉に見送られ、琉月と時雨の姿が分子配列相移転により、闇へと薄れていく。



「じゃあ琉月ちゃん? この後は二人で呑みに――」



「何を言ってるのですか? 今日はもう終わりです――」



「そっ……そんなぁ――」



残念そうな声と否定の声だけを残して、此所には幸人と悠莉、彼女に抱かれるジュウベエだけが取り残されたのだった。

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