テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
砂塵が舞うフィールドは、砂嵐が吹き荒れていた。 乾いた風が唸り、視界は茶色の靄に閉ざされる。
「すごい砂塵だな、視界が悪い」
イオは飛んでくる砂埃を払うように手を前にかざし、片目を細めて対戦相手のエウロパを探す。砂漠のフィールドは日差しが強く、肌を焼くように照りつけている。喉が乾く。呼吸のたびに砂の匂いが入り込む。
その先、数十メートル圏内――黒い影が揺れた。
(兵装展開実行)
エウロパの猫耳フードに埋め込まれた多重デバイスが淡く発光する。
炭素結合を引き出す演算が開始された。
『全デバイス同期完了。制限解除――戦闘モードへ移行』
砂漠に含まれる炭素をリンクさせ、彼女は指先を指揮棒のように振るう。
空間が軋み、粒子が集束する。
ドーム状に結合した黒い炭素が彼女を包み込んだ。
吹き荒れる砂嵐を弾き、灼熱の光を遮断する。
だが内部は熱がこもり、蒸気のような空気が肌にまとわりついた。
「……あつい……」
ほとんど喋らない彼女が、耐えきれずフードを外す。
白い髪、先端だけ淡いピンクに染まったロングヘア。
整った顔立ち。しかし、感情は波立たない。
――黒いドームの外側で、声が弾ける。
「…………うるさい……」
キン、と耳鳴り。
彼女は片手で耳を押さえ、目を伏せる。
模擬戦など、どうでもいい。
「ボクは…………」
思考が、過去へ沈む。
無責任な親。
理想と夢を押し付ける声。
届かない期待。噛み合わない現実。
気づけば、心を閉ざしていた。
ある日、デバイスの映像が切り替わる。
『………………私達の未来は、私達で決める。
………………この世界に自由な資源を……
連邦中央エネルギー統合管理研究所』
映し出されたのは、緑の大地。
花が咲き、川が流れ、風が草を揺らす。
無機質な世界より、ずっと“生きて”いた。
(自由……)
その言葉だけが、胸に残った。
逃げるように。
縋るように。
彼女は特殊部隊へ志願した。
――だが、模擬訓練に情熱はなかった。
――ガカッ
音と共に意識が現在へと戻るーー。
「見つけたぞ、エウロパ!」
黒いドームが裂ける。
崩れた壁に手をかけ現れたのはイオ。
デバイスは刀へ変形し、刀身は炎を纏い揺らめいている。
「フードを外してる所は見たこと無かったが、存外、可愛い顔じゃねえか」
一瞬だけ、エウロパの瞳が揺れる。
だがすぐに無表情へ戻り、フードを被り直す。
「…………………」
――スススス
炭素が凝縮。
槍へと変形し、一直線に射出。
イオは炎の刃で受け止める。
炭素槍は赤く溶け、どろりと地面へ滴り落ちた。
「エウロパ、この勝負、私の方が上手かもな」
炎が揺らぐ。
エウロパは応えない。
ドームが変形する。
無数の砲台へと姿を変え、照準が一点に固定された。
炭素弾の集中砲火。
イオの金髪が風に舞い、赤い瞳が閃光のように光る。
時間が伸びた。
弾道が線となり、空間が解ける。
彼女は流れるように剣を振るい、すべてを弾き落とす。
火花と黒粒子が交錯する。
(…………すごい……)
エウロパの胸に、僅かな熱が灯る。
『砂嵐が去った今、なんと言うことでしょう!!もう戦っているではないですかあああ!』
実況が遅れて届く。
イオは砲撃を抜け、瞬時に間合いへ。
「そんなものか?」
横薙ぎ。
エウロパは上半身に炭素を凝縮、壁を形成。
――だが、砕けた。
切先が首元を掠める。
血が一筋、流れ落ちる。
エウロパは即座に炭素を血管へ送り、凝固させる。
「ほう、便利な能力だな」
炎を構え直すイオ。
砂嵐は、もう止んでいた。