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#怪異
イキリ火の玉
1,443
夕方になるとお堂に沢村がやってきて努に着いてくるように命令した。連れて行かれたのは、今はもう消えたトンネルの前、村はずれの小さな広場だった。
ミニバンは広場に置かれていたが親分の乗っていた外車はここに置かれたままだ。ミニバンは村の中心といっていい拷問屋敷がある広場に置いているので、梶なんかは気が休まらない時はこの外車で休憩しているようだ。
すでに沢村と木村、そしてみすぼらしい格好をした四人の村人が待っていた。
「二人は元々この村出身。残りの二人は十年前にこの村に迷い込んだ奴らだ」
梶は簡単に村人を紹介した。十年前に四人の人間が村に迷い込んでいた。四人とも40~50代で道路整備の仕事をしていたらしい。
「雪を溶かす作業で塩化ナトリウムを撒いていたんだ。村に来たときは貴重な塩が手に入ったとずいぶん歓迎されたが、満月を過ぎたら急に態度が変わってね。俺らは反発しちまって一人殺されて、一人は生け贄。残った俺ら二人は下民になることで何とか生かしてもらっているわけだ。まあ下民扱いはまだいいんだが、いつ生け贄に指名されるかわからない。それが耐えられないんだ」
村人の一人がいった。やせ細っていて、たぶんもう60歳近い年齢だろう。
「ワシらも同じじゃ」
別の村人がいった。こちらはまだ40代というところだが、いかにもあか抜けていなくて、この村の出身者だとわかった。
「若い頃は惚れた女がおったが上の者が抱いた女をワシらが体を拭いたり寝床の掃除をしたり……正体が妖怪だろうと人間だろうとアオ様さえいなくなれば、もう好き勝手はさせん。あいつらみんな……」
その村人の瞳には憎しみが籠もっていた。外から来た人に比べてやはりこの村出身の人はどこか歪んでいる気がした。
どうやらこのメンバーで妖怪退治をするようだ。梶は村人に、特に下民扱いされている人に話しかけていたが妖怪退治に賛同してなおかつ信頼出来たのはこの四人だけだったようだ。
「今日は顔合わせだ。これから作戦を考えていくが、村長たちに知られるとやっかいなことになるから決行まで秘密にしていろ」
こうして最初の顔合わせは解散になったが努は梶に呼び止められて残ることになった。
「妖怪なんて、どうやって倒すつもりなんですか?」
他のメンバーが見えなくなったところで努から訊いた。
「長岡、そもそも妖怪なんて本当にいると思うか?」
「え? だって島さんが実際あんなことに」
島は森に入って全身の皮を剥がされて戻って来た。
「皮を剥ぐだけなら人間でも出来るだろ。特にこの村は練習をいくらでも出来るからな。猿の変装をすれば混乱している人間なら妖怪と思い込むだろ」
「どうしてそんなことを?」
「村から出さないためだ。森からなら本当は外に出られるかもしれないだろ? だいたい捕まえた獲物を殺さずに皮だけ剥いで返す理由は? 人間がやったことなら脅すという理由があるが妖怪ならわざわざそうする必要はないだろ」
「それは確かにそうですね。まあ、妖怪の考えなんて人間にはわからなかもしれませんが」
梶は斜面の下側、川のある方向に体を向けた。
「長岡、魚はどこから来ていると思う?」
「え? どこって、もともと川に住んでいるんじゃないのですか?」
「魚や森の動物も穫っているようだからな。人間以外の生き物は、この村を自由に行き来できているんだろ」
「あ、そうですね」
それは考えたことがなかった。そもそも川の水が流れているのだから自然は外と繋がっていると考えてもよかった。
「トンネルのことで妖怪の存在を信じてしまいがちだが、本当はあのトンネルだけオカルトかもしれない。なら、動物みたいに森からなら抜けられるかもしれないし、本当に妖怪がいてもせいぜい大型の獣程度かもしれないだろ」
「確かに……」
「まあ、満月になって森からも出られなくなってしまったかもしれないけどな」
「ああっ」
満月までにちぃこの正体に気づかなかったことに改めて後悔した。そして、やはり梶はすごいと思った。努は妖怪が村人の偽装である可能性を考えもしなかったからだ。
コメント
1件
八頭さん、第31話読みました。 妖怪って村人の偽装かもっていう梶さんの仮説、すごく納得できるし、話が一気に現実的な方向に傾いた感じがしてゾクゾクしました。皮剥ぎされた島さんの話も、人間の仕業と考えれば村の狂気がより生々しく感じられて。ただ、それでもアオ様とか満月の仕組みとか、まだ説明つかない部分も多くて…このバランスが絶妙だなって思います。次が気になります!