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八雲瑠月
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書也達はゆっくりと話し合いながら歩いていたせいか、列車には乗り遅れたが、後から来た王宮発の列車に乗れた為に帰省ラッシュ時でも揉みくちゃにされずに三人で座席に座る事ができた。
「あれ? 幽美ちゃん、寝ちゃってる」
電車の席で幽美が愛の肩にもたれかかるように眠ってしまっていた。
「疲れがたまってたんだろうな。学生と作家の両立じゃキツイだろうし」
「今まで聞きたかったんだけど……書也君はどうして小説家になろうと思ったの?」
「俺、小学生の時に漫画家になりたいと思ってたんだ。でも、絵は超下手くそでさ、好きな絵をどんなに真似しても棒人間みたいな絵しか描けなかった。けどさ、図書館で本を迷っていたら、女の子がある本を勧めてくれたんだ。ズッコケ三人組っていうタイトルの本でさ。絵本かなって借りて見たら、それが小説だった。当時、文字を読む小説が嫌いな俺でもその本だけはなぜか読めたんだ。で、その本に感動してさ。漫画だけでなく、文字でも物語や感動を伝えられるんだって思って……それで俺はラノベ作家になろうと思った。このズッコケ三人組みたいに人をワクワクさせたい、人を感動させたいと思ったんだ」
「書也君……その図書館で会った女の子って……」
愛が下を向いて、ぼそりと言う。
「ん? そう言えば、図書館で会った女の子とは初対面だったな? どうして俺にあの本を勧めてくれたんだろ?」
「きっとその本が面白かったからだよ!? 人に勧めたいぐらい面白くて、いろんな人に勧めたい……そう思ったからだよ!?」
なぜか愛の顔が急に赤くなって、慌てたように言う。
「愛?」
『岩月駅――岩月駅――』
岩月駅の到着アナウンスが流れ、誤魔化すように愛が幽美を揺れ動かし、起こす。
「……愛? もう到着?」
「降りよう!? 心配だから幽美ちゃん、改札まで送っていってあげる!?」
幽美が目をこすり、眠そうに起きる。すると、愛は幽美の手を引っ張り、岩月駅を降りていた。
「おい、愛!?」
書也は愛を呼び止めようとするが、空いた席に座ろうとする人の波に押され、追いかける事ができない。
「ごめん書也君……先、行ってて……」
人の波を避けてドアの前に辿り着いた時にはドアが閉まりかけ、愛は幽美と共に駅に降りていた。ドアが閉まり、列車は動きだす。列車のドア窓から見える愛はなぜか下を向いたままだった。
「なんか俺……悪いこと言ったか!?」
書也は訳が分からず、ドア窓から遠ざかる愛を見送った。駅のホームを幽美と歩く愛は少し恥ずかしそうに頬を染めていた。
書也がラノケンの部室に入ると、昨日と違い、殺伐とした雰囲気があった。友美のいつも使っている長机にはいつものように原稿用紙の束が山となっていた。それに加えて空のエナジードリンクやコーヒー、栄養ドリンク、ゼリー飲料が転がっており、友美はいつも以上に目の隈を色濃くし、ノートPCの液晶を睨めっこしている。
「まさか友美、プロットが間に合わずに徹夜したのか?」
「うるさいわね。そう言うあんたはどうなのよ? プロットできたの?」
「できているさ。完成はしたし、後は見直しだけだからな」
「へぇ、プロットの批評が楽しみね」
友美は子供が悪戯した時に見せるような笑みを書也に向けた。
「わあ、凄いね。友美ちゃん。徹夜明けみたいだよ……プロットの批評、できる?」
後ろから入って来た愛が言うと、友美はくしゃりとエナジードリンクの缶を潰した。
「あんたにだけは言われたくないわよ! この誤植王! そういうあんたはちゃんとプロットの見直しはできているんでしょうね? 昨日みたいに書也を気絶させるほどの誤字脱字だったら、笑い者よ!」
愛はなぜか友美に反論せず、書也から恥ずかしそうに目を逸らす。
朝から愛はこんな反応だった。教室で目を合わせても、逃げるように距離を置いた。
「おい、愛! どうしたんだ? 朝から変だぞお前……俺が何か悪いこと言ったか? 俺が傷つけるような事を言ったのなら謝るし、何か言いたい事があるならはっきり言え! 俺達は友達だろ!」
愛の反応に訳が分からず、書也は思わず愛の肩を掴み、声を上げていた。
「あんた達……どうしたの? 喧嘩でもしたの?」
友美は首を傾げて言う。
「違うの書也君……わたし、昔の事を思い出してね……ちょっと変になっただけだから……でも、もう大丈夫」
「変になったって……それはどういう……」
愛は肩に乗せる書也の手を掴み、ゆっくり離すと、頬を染めたまま、逃げるように席に座った。
「席につけ……部活始めるぞ」
教子先生が入ってくるなり、チベットスナギツネのような目を向けて、書也は威圧され、愛にはそれ以上は何も言えずに席についた。
教子先生はバックから小型デスクトップPCを取り出してデスクに置き、元から置いてあったデスクトップPCをケーブルに繋げ、その二つのパソコンに電源を入れた。教子先生は移動したかと思うと、ホワイトボードの前にあった教卓にバックから取り出した新たなタブレットPCを置いた。