テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
3話 軽くなった朝
朝の部屋は、
音だけが先に動いている。
ヒカは布の上で起き上がり、
背中を丸めたまま座る。
寝癖が残った短い髪が、
額に触れている。
肩は狭く、
鎖骨が薄く浮いている。
息を吸う。
重さがない。
胸の奥が、
すべっている。
立ち上がると、
床は静かだ。
足取りは軽く、
躊躇が遅れてくる。
鏡の前に立つ。
目の下に影はなく、
口元も緩んでいる。
けれど、
視線だけが定まらない。
シャツのボタンを留める。
指は迷わない。
一つ飛ばすこともない。
何かが、
足りない。
名前ではない。
形でもない。
思い出そうとすると、
手応えだけが抜け落ちる。
外に出る。
空気は澄んでいる。
人の声が、
よく聞こえる。
ヒカは歩く。
立ち止まらない。
振り返らない。
軽いまま、
なにかを
置いてきたような感覚だけが、
遅れてついてくる。