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4話 光るクジラ
夜の最奥は、
音が薄い。
ヒカは通路の端で止まり、
上着の前を閉じる。
肩は小さく、
首はまっすぐだ。
影が足元で短く揺れる。
水槽は高い。
ガラスの向こうで、
大きな輪郭が動く。
クジラは、
雄大に光っている。
外側ではなく、
内側から。
光は水を押さず、
ただ満ちている。
時間だけが、
遅れていく。
ヒカは立つ。
背筋を伸ばさない。
顎を上げない。
瞳は乾いている。
瞬きは少ない。
クジラが、
こちらを向く。
目の位置が、
少しずれる。
言葉はない。
泡も出ない。
光が、
一段深くなる。
ヒカの胸が、
一度だけ上下する。
手は下ろしたまま、
握らない。
ガラス越しに、
距離が消える。
問いは、
音ではなく、
光の濃さとして
そこにある。
ヒカは、
その前に立っている。
動かない。
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