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岡田は疲れた体を引きずりながら、昼休憩も取らずにデスクに座っていた。遥の事件が頭を離れず、彼の背後にいる犯罪組織を追うための手がかりを探し続けていた。しかし、それに追い討ちをかけるように新たな事件が舞い込んできた。
「岡田、君にちょっとお願いがある。」
上司の山田が急に声をかけてきた。
「またですか?」
岡田は疲れた表情を浮かべながら立ち上がった。今日は勘弁してくれと思う気持ちが強かったが、上司の顔を見ると、それを言葉にすることはできなかった。
「ちょっと、君に調べてもらいたいことがある。」
山田はそう言って、岡田を部屋に案内した。そこには、まだ若干の白髪が混じった中年の男性が座っていた。顔に疲れがにじんでおり、肩を震わせながら黙っていた。
「この人、田中さんという方なんだが、最近おかしなバイトをしているらしい。」
山田が簡潔に説明を始めた。
岡田はその男性に近づき、少し躊躇しながら話しかけた。
「田中さん、聞かせてください。最近、どういったバイトをしているんですか?」
田中は顔を伏せ、しばらく黙っていた。息を吸い込み、やっとの思いで声を絞り出した。
「わたし、最近、知り合いに頼まれて…ちょっとした物を運んでいるんです。」
その言葉に岡田の眉がわずかにひそめられた。
「どんな物ですか?」
冷静に問いかけたが、田中の目はさらに揺れた。
「本当に、頼まれて運ぶだけなんです。知らない物が多いけど、どうしてもお金が必要で…」
岡田はその言葉を聞き、嫌な予感が胸をよぎった。
「お金が必要?そのために違法なことをしているという自覚はありますか?」
岡田の声には少しの冷徹さが含まれていた。
田中は目をそらし、しばらく黙っていたが、やがて再び口を開いた。
「本当に、知らなかったんです。最初は荷物運びだと思っていました。でも、渡された金額が、だんだん大きくなってきて…」
その時、岡田はふと気づいた。田中の年齢が影響している可能性がある。年齢を重ね、仕事を失い、生活が厳しくなれば、簡単に違法な手段に手を染めることもあるのだ。だが、岡田はそれでも許されるわけではないと思っていた。
「田中さん、どこにその荷物を運んだんですか?」
岡田は再び尋ねた。
田中は深いため息をついて、やっと答えた。
「某倉庫の近くです。でも、場所はあまり…覚えていません。すぐに帰らされるだけだったので…」
その言葉を聞いて、岡田はすぐに警戒を強めた。倉庫…それは遥の件で浮かび上がってきた場所と一致する。岡田はすぐに自分の直感を信じ、捜査を開始した。
数日後、岡田は田中から得た情報をもとに倉庫の位置を特定し、現場に向かった。中年の男性が関わるような単純な運び屋の仕事が、どうしてここまでの規模にまで拡大しているのか。岡田は疑問を抱きながら、現場に到着した。
倉庫の周辺には数台の車が停まっており、よく見れば、周りの建物が不自然に閉鎖的であることに気づく。倉庫に近づくにつれて、岡田の胸が高鳴った。ここで何かが起こっている。何かを暴かねばならない。
「おい、お前、何しに来た?」
突然、倉庫の入り口から声が響いた。岡田はその声に振り向き、背筋が凍りつくのを感じた。目の前に立っていたのは、見慣れた顔だった。それは、かつて岡田とともに仕事をしていた、旧友の木下だった。
「木下…お前、どうしてこんなことを?」
岡田は動揺を隠せず、問い詰めた。
木下は少し笑いながら、ゆっくりと答えた。
「お前も、俺が関わっているとは思わなかっただろう。だが、今はこうなってしまったんだ。生活のためだよ。」
木下の目には、かつての仲間の面影はもうなかった。そこには冷徹で無感情な人間の目があった。
「生活のため?それが本当にお前の言い訳か?」
岡田は声を震わせた。木下が何を言おうとも、岡田は彼を信じることができなかった。
木下は岡田を無視して、ゆっくりと振り返った。
「まあ、今更言っても遅い。お前も知っているだろ、もう後戻りはできないってことを。」
その言葉を最後に、木下は倉庫の中へと消えていった。
その夜、岡田は重い足取りで署に戻った。田中のような高齢者が闇バイトに関わる背景には、単なる生活苦がある。だが、その先にある深い闇、そして木下の裏切りを見た今、岡田はただ事では済まされない事態が進行していることを痛感していた。
次に何が待ち受けているのか、岡田は全く予想がつかなかった。ただひとつ、確実だったのは、どんなに痛みを伴っても、真実を突き止めなければならないということだった。