テラーノベル
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資料No.==のカセットテープ帯出に関する注意書
一、このカセットテープは劣化が激しいためこれ以上の劣化を防ぐ目的から直射日光に当たる場所での保管を禁ずる。
一、このカセットテープの貸出に際しては係員に申し付け、所定の手続きと書類提出の手順を踏んでから貸し出す物とする。
一、このカセットテープの複製を禁ずる。
一、このカセットテープの内容を他者に口外することを禁ずる。
(酷いノイズに紛れて、若い男の声)
──……だからな、いい加減その余計なプライドを捨てろって言っているのだよ。どうしてわからない。この私が直々にお前を『正しい道』に導こうとしてやっているというのに。なぜわからない?やはり粗悪な国は頭の作りまで粗悪なのか?
(はぁ、という溜め息のような音。その直後、金属が擦れ合う甲高い音)
──……まぁ良い。これから嫌と言う程お前の体に教え込んでやればわかってもらえるだろう。
感謝するんだな、総督の名の元に、貴様は新しく生まれ変わるのだ。赤色の星が輝いている?ははっ、あんなプロパガンダは腹の底から笑わせてくれる。赤い星なんてのはただの偶像、虚像に過ぎない。それに空に輝く赤色の星は寿命が近い証らしいじゃないか。
考えうる限りの愚か者であるお前も、赤星なんていう無駄ばかりの物ではなく、実在する物かつ、未来のある物を信じたいだろう?ならば簡単な話だ。思考を綺麗さっぱり『正しいもの』に直してから我々と共に最前線に立ち、元は味方だった仲間に銃口を突きつけてやれば良い。……さ、動くなよ。少し痛いかもしれんが、暴れるな。暴れたらお前の血管が破れて大量出血して、死ぬかもしれないなぁ。私はそれでも構わないんだが、お前が死んだら上の人間が煩いんでね。
(けらけらと愉しそうに笑う声。その直後、話し声とは別のうめき声がはっきりと聞こえる)
あぁ、痛いか?悪い悪い、最近帝国で開発した薬の実験台になってもらった。なぁに、問題ないさ。打つ血管の箇所を少々間違えたかもしれないが、死にはしない。逆にお前のような劣等人種に崇高な帝国産の薬を与えてやったのだ、もっと咽び泣いて喜ぶべきではないかと思うが。なぁ、そうだろう?
(男のうめき声と、愉悦が滲む笑い声が反響している)
……おっと、まだ壊れないでくれよ?何、貴様に興味が湧いたんだ、遊びたいと思っているんだ。……猿轡をしているから話せないか。そうかそうか、なら叫び声で返してくれるだけで良い。もう少し苦しんでもらえればとても楽しめるのだが。
(バチンと叩く様な音と共に男の声)
まだそんな目で私を見るのか、大した度胸だ。素晴らしい、実に素晴らしい!劣等人種ながらも根性だけはあるらしい!あぁ、その根性だけは我が軍の兵士たちにも見習わせたい……いや、見習わせたら皆お前のような納屋住みの人間にまで成り下がるか?あっははは、そんな睨むなよ。冗談だ、冗談。……やっぱり9割5分は本気だったな、ははは!
……嗚呼、何だ……もう限界か?ついさっきまであんなに狂犬のように私を見上げていたというのに。先程の『根性だけある』宣言は撤回した方がお前はもっと長持ちするのか。困るなぁ、まだもう少し色々吐いてもらわねば困るのだよ。物理的にも、情報的にもね。
(パシン、と甲高く何かを叩く音。)
さぁ、次はあの納屋共はどう動く?どの方面にを守る作戦を立てている?首都か?油田か?それとも、逆に攻めて行って、我々の軍と真正面からぶつかり合うつもりか?まぁどれにせよ悪手だな、なぜなら全て我々の軍が勝利するのだから。無駄な血を流すのはお互い好まないだろう?……実を言うと私は血を見るのが大嫌いでね。お前が口の端からみっともなく血を垂らしているのが視界にどうしても写ってしまって、あぁ、もう反吐が出そうだ。
(ケラケラと笑う声)
……まぁ良い。
(その直後にガサガサとノイズ。5秒後にノイズが晴れる)
……さて、今私の目の前にいる腐った納屋出身の男が死んだ後、こいつの祖国に送らせたこのテープを聞いている腐った左翼共。貴様らは圧倒的に我ら帝国に劣っている。戦力も、技術も、諜報も。早めに我らが総督閣下に貴様らの書記長が直々に頭を下げに来ると良い。総督閣下はお優しいからな、恐らく民族絶滅で許してくださるだろう。あっははは、貴様らが正しい選択をすることを祈る!
Auf Wiedersehen!
(テープ終了)
このカセットテープは1940年代ナチス・ドイツ軍に捕虜として捕まった赤軍兵士の死後僅かな遺骨と共に配送された物を戦後カセットテープに音声を複製して記録した物である。当時ナチス・ドイツから送られてきた物は、音声複製後赤軍により厳重に管理されている。ナチス・ドイツの非人道的な考えとソヴィエト連邦を罵倒する思想は赤軍に憤りを与え士気を上げる物として、独ソ戦中プロパガンダ的な役割を果たした。しかしこの音声に記録されているナチス・ドイツ側の人物の声は個人を特定する事ができず、独ソ戦中に戦死したものとされている。この男の声は一説によると収容所の看守の声だともナチス親衛隊員の声だとも推測されているが、詳細は今日に至るまではっきりしていない。
この物語はフィクションです。
実在する個人、団体や史実とは一切の関係がありません。
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