テラーノベル
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店長が慌ただしく店に駆け付け、冷たい目を向けながら入ってきた。
「藤井君、いったいどうゆうことだね?」店長の声は重く、厳しかった。
守は慌てて説明を始めた。「違います!あのロッカーは盗撮されていたんです。
だから、それを取ろうとして更衣室に入ったんです!」
店長は疑わしげに腕を組み、「それは君が仕掛けたカメラだろう」と言い放った。
守は息を飲んだ。「違う!あれは佐々木と森井が三井さんのロッカーに仕掛けたんです!」
しかし、店長はまるで聞く耳を持たず、「まったく、人のせいにするつもりか」と深い溜息をついた。
守の心臓がさらに早く打ち始め「そんな」と呆然と問い返す。
店長は続けた。「君も長くこの店で働いてくれたんだ、今回は警察にも、
本部にも報告はしないでおくよ。これは店の評判に関わるからな。」
守は必死だった。「ちょっと待ってください!警察にちゃんと調べてもらってください!
カメラの出どころを確認すれば、僕じゃないことが分かるはずです!」
店長は眉をひそめ、少し苛立ちを見せた。「困るんだよ、そんなことでマスコミにでも知られたら。
この店の信用がガタ落ちする。だから、藤井君は明日、退職願いを出してくれ。
もうこれ以上問題は起こしたくないんだ。」
守は衝撃を受けた。「店長!」と必死に訴えたが、店長は冷たく首を振り、
「もう帰ってくれ」と言い放ち、部屋を出るよう促した。
守は無力感に包まれながら店長室を追い出された。
守は荷物をまとめ、従業員の冷ややかな視線を感じながら歩いた。
誰もが彼を疑い、軽蔑の眼差しを向けている。佐々木と森井はとっくに盗撮データを消しているだろう。
守がカメラを持っていたところを見られてしまった以上、もうどうにもならなかった。
「自分が変な勇気を出したばっかりに…」そう呟きながら守は肩を落とした。
いつものように何もせず、何も見ずにいれば、こんなことにはならなかったのに。
何もしないことが正しかったのかもしれない。
だが、その「何もしない」が昨日の天城の言葉に重なり、今の状況をますます苦しくさせた。
涙が込み上げてくる。悔しさと無力感が胸を締め付けた。
守は涙目のままスーパーを後にした。道端を歩く足取りは重く、どこに向かえばいいのか、
何をすればいいのか、全く分からなかった。明るい昼間なのに、彼の目には道が真っ暗に見えた。
守の心は、暗闇に沈んだまま、出口の見えない迷路の中を歩いていた。
守がアパートに戻ると、いつものように猫のフクが出迎えてくれた。しかし、
守はフクの愛らしい鳴き声も耳に入らず、無言でその場にへたり込んだ。
全てが終わった気がした。心の中は重く沈み、瞳には涙が浮かんでいる。
「俺って…紗良ちゃんから見たら犯罪者になるのかな…」
守は、かすれた声で呟き、涙が頬を伝った。その日はゲームにもログインすることなく、
一睡もできないまま朝を迎えた。退職届をカバンに詰め、早朝の静かな街に向かって歩き出す
誰にも会いたくない、誰にも顔を見せたくない。早朝なら、知っている人はいないはず。
人目を避けるように、守はスーパーへと急いだ。
店に着くと、自分のロッカーを開け、忘れ物がないか確認する。
最後にロッカーを静かに締めた瞬間、背後から聞き慣れた声が響いた。
「守さん?」
振り返ると、そこには天城が立っていた。守は一瞬驚いたが、
いつものように無言でその場を立ち去ろうとした。
「こんなに早いの珍しいですね」と天城が軽い口調で言う。
守は内心動揺した。天城は昨日休みだったため、昨日の騒ぎについて何も知らない。
天城が続ける。「守さん、実は紗良がストーカーにあってるらしいんですよ。
朝、家まで見に行ってきたんです。」
「紗良ちゃんがストーカーに…?」守は一瞬息を飲んだが、すぐに心を無にしようと努めた。
もう自分には関係ない話だ。今さら何をしても、状況は変わらない。黙ったまま、歩き続ける
「あれ?紗良のこと、好きでしたよね?」天城の言葉が、守の心に鋭く突き刺さる。
「ドキッ!」守は動揺した。(どうしてそれを知っている?もしかして、天城くんはボクを疑っているのか?)
天城は守の表情には気づかず続ける。「紗良がバイトから帰る時間や、バイトに行く時間まで知ってるってことは、
多分、シフトを知ってる人間だと思うんですよ。守さん、協力してくれませんか?」
「俺を疑ってるんじゃないのか…」守はホッとしつつも、心の中は乱れたままだった。
小さな声で「すまん。協力はできないが、佐々木と森井だけには気をつけろよ」とだけ告げて、
店長室へ向かった。
天城は不思議そうに「なんで店長室に?」とつぶやくが、守は振り返らずに歩き続けた。
店長室に入ると、守は机の上に退職願を静かに置いた。心の中は空っぽだった。
ふーっとため息をつき、部屋を出ようとしたとき、ふと、昨日のことが頭をよぎる。
「そういえば、あのカメラ、どうなったんだろう?」店長が持っているのだろうか。
証拠となるそのカメラがどう扱われているか気になった。
守は店長の机の周りを見回したが、それらしきものは見当たらなかった。
まさか、捨てられたのだろうか?もしそうなら、このままでは真実は消えてしまう。
守は思わず、ごみ箱を覗き込んだが、何も見つからなかった。
警察にも、本部にも報告しないと言っていた店長。証拠のカメラはすべて捨てられたに違いない。
「証拠が…消されてる?」
守は衝動的にごみ捨て場へと急いだ。ごみはまだ回収はされていない。
冷たい朝の空気の中で、守の心は混乱し、絶望と希望が入り混じる。
「こんなことしても、意味があるのか?」と思いながらも、どうしても納得できなかった。
黙って見過ごすことが、今度こそ本当に許せなかったのだ。
ゴミ袋の中に手を突っ込み、探り続ける守。その心の奥底には、微かな希望が残っていた。
もし、この手で真実を掴めるなら、再び立ち上がることができるのだと信じて。
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