この作品はいかがでしたか?
82
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※いちいちせんしてぃぶ。
くろ編終わんないのでこっちあげます
「ただいま」
聞き馴染んでいるが、慣れない─今後一生慣れないであろう─兄である蓬莱 蓮の声が響く。
「…おかえり」
「お父さんいる?」
「おらんよ。…言ってたやん、終電までに帰れそうにないわーって」
「あ、そうなんだ〜。やったぁ」
妙に機嫌が良くなった。父さんという邪魔がいなくなって、俺ともっと恋人らしいことができる…とでも思っているんだろう。
兄弟なのに恋人?…と感じた人もいるかもしれない。まともな生活を送っている人には分からないだろうが、俺は兄から”恋人”扱いをされている。
ギシ…
暖かそうなマフラーを外したと思えば、座っていた俺の上に乗ってきた。古びたソファーが音を立てる。
「ひ…」
「どうしたの?俺が嫌?」
……”いいえ”と答えろ俺。答えないと…また怒らせてしまう。せっかく機嫌がいいのに、損ねる訳には行かない。
「…っちがうん…やけど」
「けど、何?」
兄ちゃんの視線が一気に冷たくて痛いものに変わる。何とか機嫌を治すんだ。
「なんでもない、です…」
「あ、そう…」
兄ちゃんの唇が、俺の唇にそっと触れた。俺の初めてを奪われた時も、こんなキスをされた記憶がある。
「…っ!?」
俺の唇に兄ちゃんの舌が触れる。いつもの事だが、いきなりされると思わず拒否反応が出てしまう。
「口、あけて」
「…ぁ」
「じょうずだね…」
(あー…抱かれる……また…)
…今月何回目なんやろ。ほんと…
まじでもう疲れた。
(助けて……)
「可愛かったねぇ」
兄ちゃんはそう言って、俺の頭を撫でる。
暖かくて指が長い、大きな兄ちゃんの手で撫でられると、怖いのに何故か安心してしまう。そんな自分が嫌いだった。
「痛かったの?」
「…んん……」
「ならよかった。」
兄ちゃんがゴム(いわゆる避妊用具だが、いつ孕むか分からないくらい薄い)を外す。……白い液体がどろりと糸を引いていた。
(もしあれが俺の中に吐き出されてたら……)
少しの吐き気がする反面、腹の下の方がむずむずとした。発情している合図だ。
本当に、中に吐き出されていたら。
……孕んでしまうのか。いや、孕まなくとも、中に出される感覚があまりに気持ちいいために、中毒になるかもしれない。
ゴム越しでも分かったあの生ぬるいどろどろが、中で掻き回されるのを想像してしまう。
…体が少し熱くなった。
“淫乱”という言葉を調べたことがある。意味は「性的に乱れている」こと。
今思い出してみればぴったりと当てはまる。
あの行為を嫌がっているように見えると思うが、実際行為中は兄ちゃんの体を欲しがってしまっている─というか、男なら誰でもついているであろうあれと、あの快感を欲しがっている─のだから。
「…大好き」
─兄ちゃんは、精神疾患を持っているらしいんだ。
兄ちゃんに抱きつかれて、ふと父さんから唐突に告げられた言葉を思い出す。
そん時はまだ何も知らない10歳で、あーそうなんやな、へぇ。心配やな…ぐらいとしか思っていなかった。
でも今となっては、接し方が変わっていたら暴力でも振るわれていたんだろうかと悪い妄想を考えてしまう。
「ん、…俺も」
その言葉に安堵したのか、兄ちゃんは満足そうに頬を赤くして寝てしまった。心地よい寝息が聞こえてくる。
それと同時に一気に涙腺が崩壊して、溜めたストレスが溢れだしてしまう。
兄ちゃん。
俺と兄ちゃんは”兄弟”なんやろ。
こんな関係やないはず、やろ。
愛玩具と持ち主みたいな、一方的に快楽を求め合う関係なはずない。
(おねがいやから、)
「昔みたいに、戻ってくれ……」
─あっ…ちょ、おい!にーちゃん!それ俺のカエルや!
─いやだー。あと五分だけ、ね!
─…貸しやからな。
─なぜここで貸しなんだよー。
─いつか返せよ。仲のいい野良犬の縄張りつれてって。
─あはは、覚えてればの話だけど。
─俺が覚えてる!
─にいちゃん、それ俺のカエル…なんで、車道に投げたん…?轢き殺されて……
─…腹立ったから。
「…ん」
アラームの音。時刻は6時30分。
兄ちゃんからの「行ってきます」の通知がぼやけて見えた。
散々泣き腫らした夜の名残で、未だ瞼が重く視界が開かない。
「あー…学校、行かなあかんわ…着替えな」
鬱陶しい蝿みたいにこびりついた、昔の記憶。定期的に夢になって現れるそれは眩しいほど綺麗な思い出であり、あの絶望とトラウマを植え付けてくるいわばミニ地獄のようなものなのだ。
(ほっそ…)
鏡に映る俺の身体は、見るのさえ疎かになるほど細く、白かった。
冬を目の前にして粘り強く立ち竦む公園の細い木みたいなこれで、よくあんなものに付き合えたなぁ、なんて思う。
最近は、まともに食事という食事をしていない。栄養バランスのとれた食事なんぞなくても─健康的な身体と引き換えに─生きていけるのがもう分かっているからだ。
その傷一つない綺麗な身体は、兄ちゃんの一番大切な物で、同時に一番気持ちいい”モノ”であることをいつも頭で復唱している。
取られたら嫌なくせに、自分の物である証─遠回しな表現をしたが、直球に言えばキスマーク─をつけないのも、このままの傷つくことを知らない身体が好きだからだと言っていた。
でも一回だけ、キスマークをつけられたことがある。
兄ちゃんじゃなくて、俺のことを色目で見ていた同級生に。
…ずっと前のことのように前置きをしたが、1年ほど前のことなのだ。
抵抗して顔を紅潮させる俺を見てさらに興奮したのか、行為の動作が雑になった同級生は、なんだか惨めで欲に素直な獣みたいだった。
でもそんな奴に抱かれる俺はもっと惨めで、下腹部からびりびりと伝わる快楽に喘ぐしかなかった自分を自嘲していた。
当然、その乱雑につけられたキスマークを見た兄ちゃんは怒りを覚え、その同級生を殴りに行った。
「仇、取ったよ」と見せつけてきた写真には、痣だらけで運命を受け入れるしかないのを認めて諦めたような同級生が写っていた。
今までにないくらいの爽快感を覚えて同級生を見下し馬鹿にしたと同時に、俺はあんなに「近づくな、病院行きにされるぞ」と噂されていた同級生を殴り込みに行って易々と仇を取ってきた兄ちゃんに、正々堂々と戦っても勝ち目がないんだろう、と思ったのはいい思い出(笑)だ。
「…母さん、行ってきます」
俺は母さんに軽く会釈する。本物のじゃなくて、遺影の額縁の中で笑いを崩さない、紙切れの母さんに。
「ま、誰も返事ないんやけど」
この家では、朝家を出る時に返事がないのが当たり前のような環境だ。
当たり前だけど、改めて考えるとクソみたいに劣悪な環境なんやなと気づかされる。
長々と続く回想を断ち切って、今日も重い扉を開ける。
じめじめとまとわりつくように蒸し暑い空気が、鼻腔をくすぐった。
コメント
3件
ますます沼にはまりそう…
私言ったからね!!センシティブって!!