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不穏(あたりまえ) センシティブ
俺の家の少し前、日が暮れているくせして明るい交差点前。
ギラギラと飾り立てた照明なんて迷惑がかかるだけやのに、とか思いながら歩く。やけに系統の合わない、周りに幸せアピールを振りまくカップル達が、笑いながらホテルの中に入っていった。
(…母さん、他の男と浮気するからあんなことになったんやで)
母さんの浮気に気づいたのは、10歳の時だった。兄ちゃんの精神疾患の元凶であり、これもかなりのトラウマ。
夕方、友達と遊んだ帰り。このホテルに入る2人の人影が見えた。
もうおっぱじめんのか、こいつら…と内心少し引いた矢先、驚きと焦りが隠せなくなった。
2人の人影のうち1人は、髪を綺麗に巻いてメイクで飾った母さんだったからだ。
もう1人は、知らない男。父さんより少し若い、母さんの好きな芸能人に雰囲気が似ている男だった。
その男と母さんの唇が触れる所を、俺は見てしまったのだ。
─もうええ、出て行くわ!
─勝手にしろよ、お前が始めたことだろ!?
その喧嘩を聞いたのが、母さんが最後に放った言葉なのかもしれない。
母さんは何も言わずにドアを開け、出て行った。
─兄ちゃん、父さんと母さんまた喧嘩しとる…
─大丈夫だよ。きっと仲直りするからね。
……で、そんな兄ちゃんの言葉も叶わず母さんはあっけなく死んだ。俺らを置いて。
それからしばらく、近所で俺らの家族が有名になってしまった。噂はすぐに広まって、自分たちを蝕んで行く…という言葉を分からせられた数ヶ月だった。
─蓬莱さん家、大丈夫なのかしら…
─奥さんが不倫して、お兄ちゃんの方が精神病だった?恐ろしいねえ…
─みんな気の毒ね…
─ちょっと避けておこうかな…
(聞こえてんだよ、お前ら…)
うちの前を通る度、”可哀想”やとか。”大丈夫なのか”とか。噂は立てるくせに、自分たちで助けようともしてくれない。
自分でも怖いほどの怒りが湧き上がって、手が震え、呼吸が荒くなる。
それを慰めてくれたのは、決まって兄ちゃんだったっけなぁ。
やけど慰めって言っても兄ちゃんの状態の方がやばかったから、お互いに─お互いにしか治せない─傷を舐め合っていた、という表現の方が合っているだろうか。
その…いわば舐め合いが必要なくなってきた頃、兄ちゃんの俺に対する態度がおかしくなった。
─伊織。
─どしたん?
─俺のこと、好き?
─…好き。
─えへへ…
初めてキスをしたのは、いつだったか。
ああ、それから1年後だ。
その1件から、兄ちゃんは俺の「好き」という言葉を勘違いしてるんやな、って思い始めた。
このくらいの戯れならまだ許すことができたが、兄ちゃんはファーストキスを奪っただけでは足らなかったようだ。
─にい、ちゃん……?
─…好きだよ。伊織。
俺は何もできずに、その行為に溺れるしかなかった。痛みと恥ずかしさ、それに快楽と戸惑い。兄ちゃんはその全ての感情をひとつずつ汲み取るように、丁寧に俺の体を犯した。
まさか初めてしたのが兄ちゃんと、しかも奪われたのは処女だったのは衝撃で、泣くことすらできずにずっと身体を伝っていたのは涙ではなく冷や汗だった。
(……今日も帰ってきた…)
「…あ、おかえり」
「父さん、また残業確定やって」
「そうなの」
「……兄ちゃん」
「どうしたの?何かあった?」
「俺ら、ほんとに…これでええの?」
「これでいい、って…どういうこと?」
「…せやから、俺ら兄弟やろ?こんなこと、して……お互い現実からずっと逃げてちゃ、いかんやろ?もう、恋人ごっこなんて、したく、ない…」
「…伊織、俺の気持ちを踏みにじるんだ。恋人”ごっこ”?違うよ。伊織が言ったんじゃない、”好き”って。あれは全部、嘘だったの?ねえ、伊織…」
「…触るな」
あの大きな手を、初めてぱし、と跳ね除けた。
……兄ちゃんから向けられた目は、鋭くて濁っている。この愛は間違ってなどいないという想いが、ひしひしと伝わってきた。
「……悪い子だね。俺が今までどれだけ愛してきたか、分かんないの?」
「分からんでもええ…」
「ああ、そう。……じゃあ、分からせてあげる」
その日から、俺の監禁生活が始まった。予想していたことだが、かなり辛い。
監禁されて首輪付きの生活が始まったことで、飼い犬の気持ちがよくわかるようになった。
「伊織」
「…っふぅ…ゔぅうっ…!」
「まだ強気なんだね…」
口を塞がれていて、思うように喋れない。手には手錠がはめられていて、抵抗しようともがくたびにじゃら、と音を立てる。
猫のように威嚇をしても意味がないのは分かっているけれど、反射的に声が出てしまうのだ。
「ほら、言いたいことあるなら言いな」
「…痛、ッ……兄ちゃん……きらい」
「酷いなあ…それだけ?」
「……」
「ふうん……って、その傷…!?」
兄ちゃんが、俺のつけた傷を見て顔を強ばらせる。
これも、俺ができる反抗のひとつなのだ。痛すぎて、ひとつしかつけることができなかったけれど。
「なんでそんなこと、しちゃうの…?ずっと、ずうっと大事にしてきたのに…」
「…なるんなら、ほんとの恋人になりたい」
「だから、っ十分愛して」
「違うやろ!!!どうせ、っ欲しいのは身体だけ…俺の辛さなんて、わかっとらんくせに……っ、あ…?」
「…あ〜……」
言い過ぎた、と焦りを覚えて兄ちゃんの方を見ると、兄ちゃんの浮かべる表情は異様なものだった。
俺の顔を見下して、頬を紅潮させながら笑みを浮かべる兄ちゃん。
手遅れだ。この恋とやらなんて、最初からずっと嘘だったんだ。
「あはは、もうだめだぁ。その顔すっごくかわいい…」
「兄ちゃん、!?」
「今まで酷いことしててごめんね。…でも、」
頬をあの大きくて暖かい手が撫でる。もう、安堵などできない。
「性癖、歪んじゃったみたい…君なら全部、受け入れてくれるから」
「に、いちゃっ…?」
「可愛いねえ。その顔も声も、全部俺だけのものなんだね」
「ひ…っ」
「伊織のこと裏切っちゃった。…これからいっぱい、恋人ごっこしよっか」
それからのことは、あまり覚えがない。
いつもよりも激しく襲いかかる快楽に意識を朦朧とさせながら、兄ちゃんは「傷ついていない綺麗な身体を守る」ために身体を傷つけないようにしていたのではなく、「傷つくことを知らない身体を自分の手で壊したい」ために傷つけないようにしていたということを唐突に分からされて、やり場のない悔しさと悲しみがこみ上がってきた。
そんな歪んだ監禁生活を過ごして数日経った日の深夜、ネットニュースにこんな記事が流れてきた。
〈「あいつのDVから逃げたかった」女(25)、殺人容疑で逮捕〉
その記事は、今の状況とよく似ていた。女性の犯行に及んだ理由も俺にとっては同情できるものでしかなく、そんなんなら殺して当たり前やな、と思うまであった。
「…」
兄ちゃんへの…いや、あいつへの怒りがこみ上げてくる。
兄ちゃんは今、寝ているはずだ。今なら…やれる。
(…殺してしまおう、あいつのこと。)
あとがき
わかってると思いますが後半気力なくなってます
まったくくろ編進まないのなぁぜなぁぜ?
コメント
9件
え、今気づいたんだけど、、 「愛されたかった」じゃなくて「愛される夢を見ていたかった」ってことは、愛されたかったけど歪んでいない純愛で家族として愛されたかったから、都合のいい「夢」を見たかったのでは?
間男と母さんマジで許さん golden bollとかoppppとか切り刻んでやろうか()