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元・溺愛プラン利用者が制度側に回る回
――「分かってしまった人間」
1|彼女は、もう利用者ではない
彼女は三十二歳だった。
名前は出さない。
出す必要がない。
溺愛プランを、
二年半使っていた。
・先回り
・肯定
・感情の代替
・怒りの吸収
完璧だった。
だから、
終わったとき――
自分の感情が残っていなかった。
泣けなかった。
怒れなかった。
「嫌」が分からなかった。
それを、
“回復”とは呼ばなかった。
ただ、
生活に戻った。
2|声がかかる
ある日、
運営から連絡が来た。
> 元利用者向け
業務補助募集
内容は、
あまりに事務的だった。
・契約文言のチェック
・ユーザー問い合わせ一次対応
・感情的判断不要
彼女は、
笑ってしまった。
(判断、
要らないんだ)
応募した。
3|最初の仕事
彼女の仕事は、
“読み取らないこと”だった。
問い合わせ文。
> 「彼が、
最近少し冷たい気がします」
彼女は、
こう返す。
> ご契約内容に
変更はありません
ご不安がある場合、
プラン再確認をおすすめします
それ以上、
何も付け足さない。
同情しない。
煽らない。
安心も与えない。
それが、
一番安全だと
彼女は知っていた。
4|同僚の違和感
ある日、
新人が言った。
「冷たくないですか?」
彼女は答える。
「冷たい方が、
壊れない」
新人は黙った。
彼女は、
自分が
“どちら側にも立っていない”
ことを自覚する。
5|制度側にいる理由
彼女は、
制度を信じていない。
でも、
人が壊れる瞬間の手触りを
知っている。
・肯定が多すぎる
・理解が早すぎる
・完成を急がされる
それを、
一番早く察知できるのは、
壊れたことのある人間だった。
彼女は、
警告を上げる。
> この文言は
依存誘発率が高い
> このオプションは
終了条件が曖昧
それは、
評価されない。
でも、
消されない。
6|YONAOSHIへの接続
数年後。
制度が変わる。
名前も変わる。
理念も変わる。
彼女は、
その初期設計に
“外部協力者”として入る。
誰も、
彼女の過去を聞かない。
彼女も、
語らない。
ただ、
設計書の片隅に
こう書く。
> ・完成を
ゴールにしない
・支援は
判断を奪わない
それは、
彼女自身への
遅すぎた契約解除だった。
7|最後に一行
彼女は、
誰も救っていない。
でも、
誰も壊さない場所を
少しだけ広げた。
それで十分だと、
知っていた。
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