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誤魔化すようにそう返すと
尊さんは小さくため息をつきながらも、すぐに笑顔に戻った。
「ほら、ひとつ食え」
尊さんがたこ焼きを刺した爪楊枝を差し出してくれたので、有難く貰うことに。
「んぐっ……熱っ……!」
たこ焼きを口に入れた瞬間、予想以上の熱さに思わず唸った。
表面は冷めていても、中はマグマみたいだ。
頬を膨らませて必死に息を吹きかけるが、舌に絡みつく熱さはなかなか引かない。
口の中がヒリヒリする。
「んん……っ…あちゅ……」
涙目になりながらもぐもぐと咀嚼しようとするが、口の中が火傷しそうでまともに噛み砕けない。
「まったく……世話がかかる」
尊さんが呆れたようにため息をついた
その低く響く声に、ドキリとする。
次の瞬間
顎を尊さんの親指と人差し指で優しく捉えられ、上向きに固定される。
抵抗する間もなく、顔の向きを変えられた。
目が合うと尊さんの瞳が少しだけ悪戯っぽく細められていた。
いつものクールな表情とは違う、妖しい光を宿している。
「仕方ないから手伝ってやる」
そう囁かれた次の瞬間——。
「……んっ!?」
僅かに傾けられた角度で、ひんやりと柔らかい感触が重なった。
尊さんの唇だ。
すぐさま離れるのかと思いきや、尊さんの舌先が俺の唇を優しくつつき
「口を開けろ」という合図を送ってくる。
躊躇いながらも少しだけ開いた隙間にぬるりと侵入してきた尊さんの舌が、熱々のたこ焼きを引きずり出す。
一瞬、たこ焼きのソースの味が混ざり合った。
「……んくっ……」
尊さんの喉仏が上下するのが見えた瞬間、羞恥心が一気に爆発した。
(…っ…もしかしてこれ、間接キスどころか……俺の口の中のたこ焼きを尊さんと分け合って食べてる……っ?!!)
顔から火が出そうなほど熱い。
今度は、たこ焼きの熱さじゃなくて、羞恥心だ。
心臓が早鐘のように打ち続けている。
全身の血が、顔に集中している気がする。
「……どうだ?食えたろ?」
ニヤリと笑う尊さんに何も言い返せず、ただ金魚のように口を開け閉めするしかない。
言葉を失った。
「あ、ぁ、あえ…っ…??」
羞恥と混乱で言葉が出ない俺を見て、尊さんは更に距離を詰めてきた。
その距離は、すぐさっきのキスの距離だ。
「ふっ…はは」
愉快そうな笑い声がすぐ耳元で響く。
まるで俺の反応を楽しんでいるようだ。
「まだ欲しいか?」
低い囁きが鼓膜を震わせる。
周囲の喧騒が一気に遠のいて、尊さん以外の存在が霞んで見えるような錯覚に陥った。
完全に、尊さんの世界に引きずり込まれている。
「……ッ」
首筋まで真っ赤になったであろう俺を見て、尊さんは満足げに笑いながら体を離した。
解放された瞬間、大きく息を吐いた。
「冗談だ。……ほら、これ飲んどけ」
渡されたスポーツドリンクが冷たくてありがたかった。
一気に半分ほど飲み干すとようやく落ち着きを取り戻せた気がする。
喉の渇きと、心の動揺を冷ますように。
「すっ、すみません…!ありがとうございます……」
何に対してなのか分からない感謝の言葉だけを呟いた。
(なんで俺こんなにドキドキしてるんだ……っ、遥かに心臓に悪い!)
「本当…表情ころころ変わるな、お前って」
尊さんがニヤリとしながらたこ焼きを再び口に運ぶ。
まるで何事もなかったかのような平常運転に、俺だけが翻弄されているみたいだ。
「……尊さんまた意地悪した!」
蚊の鳴くような小声で抗議しても、尊さんは涼しい顔でスルーしてくる。
全く堪えた様子がない。
昼下がりの海の家の喧噪の中で、ただ二人だけが共有する秘密めいた空気が漂っていた。
俺たちの関係性が、また一歩深まった気がした。
◆◇◆◇
昼食を終えて再び浜辺へ戻ると、空はどこまでも澄み渡っていた。
太陽の光が、砂浜をキラキラと照らしている。
「恋、さっきお前がトイレ行ってる間にレジャーシートとパラソルレンタルして来たから」
尊さんが持参していた大きなバッグから借りてきたアイテムを取り出しながら提案してくれる。
「わ、すごい!ありがとうございますっ!」
パラソルを立ててシートを広げる尊さんの後ろ姿さえ格好良く見えて困る。
太陽の光を背負って影を作る尊さんがまるでモデルみたいで、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚があった。
この幸せな時間が、ずっと続けばいいのに。
「そうだ…日焼け止め持ってきてたろ、塗ってやろうか?背中とか、自分で塗りにくいだろ」
「え?!いや、自分で塗るので大丈夫ですよ…!」
日焼け止めなんか塗ろうものなら、ラッシュガードの下にある乳首に絆創膏貼ってるのも、赤くなってるのも即バレる…!
ここでラッシュガードを脱ぐのは絶対に避けないといけない。
何としてでも回避しなければ。
「遠慮するな。ほら、上脱げ。」
「わっ!ちょ……っ!や、やめてください!」
抵抗虚しくTシャツを掴まれそうになり慌てる俺を見て、尊さんは怪訝そうな顔をした。
「なにをそんな嫌がってんだよ、今更隠すようなものなんてないだろ」
「だ、だって塗ってもらうとか恥ずかしいですし…!悪いので!!ね?!」
必死に説得しようとすると尊さんは不満そうに眉を寄せる。
その視線が、俺の動揺を見抜こうとしている。
「…さてはなにか隠してるな?」
「べべべ別に何も隠してませんけど……?!気のせいです!」
「じゃあ見せてみろ」
「ご、ご容赦ください……っ!」
「なんだその反応……ますます怪しいな」
尊さんの鋭い眼光に耐え切れず目を泳がせるが、逃げ場はない。
「一旦車戻って確認するぞ。ここで押し問答するのも目立つ」
「ええ……っ!?く、車の中で身ぐるみ剥がす気ですか?!」
「人聞きの悪いこと言うな、口を割らないなら強制連行だ」
「そ、そんな…!!」
尊さんに手を引かれるまま駐車場へ向かうことになったのだった。
◆◇◆◇
駐車場に停めた車内の温度は外気のせいで相当高くなっていた。まるでサウナみたいだ。
後部座席に押し込まれるようにして乗り込んだ俺は、必死に尊さんから距離を取ろうとした。
逃げ場がない、密室だ。
「で、何をそんな隠してるんだ?素直に言え」
「ほんっっとうに何もないですって!隠してること何も!!」
「お前な…その反応逆効果だぞ?」
尊さんがジト目で睨んでくる。俺がこれだけ抵抗する理由なんて明白過ぎるわけで…
このままでは、全部バレてしまう。
「だったら早くそのラッシュガード脱ぐんだな」
「だめ……っ…絶対ダメです!」