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「そっちか…びっっっくりした…。」
《お前がホストとか、そんな訳ないもんなぁ、》と続けると、かなり少なめに盛られたサラダをこっそり俺の方へ手の甲でズラすように渡してくる。向かい側でそれを見逃さなかった舘は《翔太、それくらいは頑張って。トマトは抜いたんだから。》と窘める。
う、と小さく声を漏らした彼は食べられそうな野菜だけを微量ながら口に含み、嫌々咀嚼をした。
「で、なんでまたホストクラブなの?」
「んー…なんでやろ、──成り行き…?」
「「適当かよ。」」
鋭いツッコミにどう説明したらいいか分からず、取り敢えず経緯をかなりすっ飛ばして事実だけを伝えた。
「ホストの人に直接スカウトされたというか…」
「「………お前がぁ…?」」
それすらもかなり疑っているようで声音もぴったり合わせて2人は眉を寄せる。
「それは俺が1番思てるて!なんかさっきからちょいちょいハモってんのさすがやな!?」
「ちなみに、どれくらいやってるの?」
舘、しれっとスルーしよった…。そんな不満はあれど、聞かれたことに答えないわけにはいかず。しょっぴーのサラダを自分の皿に移し、時計を確認して言った。
「まだ3日。ゆーてこの後も出勤すんねんけど。」
この発言に反応したのは、舘の静かな怒りの視線を無視しているしょっぴーだった。
「へぇ?…涼太、今日出勤だっけ?」
「…ううん、今日は休み。」
「何ちゃっかり一緒に来ようとしてんの?」
「入らなくても店くらいは知っておこうかなって。なぁ?」
最早怒っていることにすら気付いていないのか誤魔化しているのか、しょっぴーはその提案を舘へと向けた。舘は尚も物言いたげな表情を浮かべているが、小さく溜息を吐いて頷いた。
「俺は別にいいよ?別の所で晩飯か飲みに行けば良いだけだし。」
「舘ぇ!?」
そこは断ってくれや!そんな想いも虚しく、結局2人にバイト先を紹介することが決定してしまったのであった。…何でそうなんねん…。
「…ここ…です。」
俺の右側で、康二が言いにくそうに白状する。開店前故に点灯はされていなくとも、そのシンプルながらラグジュアリーを感じる店構えに、俺の左側で翔太が《はぇー…》と感嘆の声を上げたその後、気付いたことを声に出した。
「ここって結構有名なとこじゃね?」
「えっ、やっぱそうなん?」
康二お前…興味無さ過ぎだって。テレビとか周りとか観ないの?
「街宣車とか看板とかさ。店名書いてあったよ?」
「あー…そういやそやな。」
「凄いよねぇ…。No.1の人とかテレビで観たことあるし、この街ではもう芸能人並に広告打ってるもんね。」
そう3人横並びでぼーっと立っていると、ふと甘い香りを纏わせて背後から近寄ってくる気配を感じたと同時に、俺らとは違う系統の声が降ってきた。
「──誰の話?」
《うわぁああっ!?》と両側で過剰に驚く翔太と康二。声をかけられたその先へ振り返ると、つい先程話していた…まさにテレビで観たその人で。
「驚かさんといてよ、レンさん…。あ、おはようございます。」
「おはよ。何、友達?」
「うん、2人とも高校の同級生。しょっぴ…あ、この人は今の大学でも一緒やねん。」
「ふーん。」
甘く香っていたのはどうやら元々吸ってた煙草からのようで。流れてくる煙に思わず嫌悪感が湧き上がるが、対するのは親友が働いていて、且つ初対面の有名人。それは諸々マズいと思い、なるべく受動喫煙を避けるように顔の角度を調整した。
その煙草を吸い上げながら、何やら翔太にも俺にも見定めの目を向けられているように思えた。それは康二も同じだったようで、
「レンさんあかんで。もう2人とも働いてんねんから。」
「そうなんだ。残念。」
スカウトしたのはこの人だともそのやり取りだけで理解した。
そんな中で店内から出てきたのは、あまりホストっぽくない…というか、普通にスーツ姿の人で。それでもその外見の纏っているオーラからして、『元』の人なのかなという察しはできた。
「あれ、めめ早くない?あ、コージおはよ………あっ、」
2人にだけ目が行っていたのか、俺達の存在に気付くと何かが良くなかったのか口元を右手で軽く抑えた。──今この人、『めめ』って言った、よね。
「リョウさん呼び方…。…あ、そっか、今日接待だっけ?」
この人が『リョウさん』、ね。あの時の記憶が掘り返され、俺は何も気にしていないフリをして、改めて店の外観と康二の右手の絆創膏、そして辿り着いた2人の顔をしっかりと目に焼き付けた。
SNSでサーチした際に流れていた画質の荒い動画と、ママと店子くんの会話が一致したことを確認すると、俺はスマホを取り出す。浮かび上がった時間自体を確認することはなく、ただただ表示された画面を眺めるだけして、翔太に声をかけた。
「…翔太、行こう。これ以上居たら邪魔になっちゃう。」
「?うん。」
「康二、仕事頑張ってね。」
「ん。ほなね。メシ美味かったで!」
褒め言葉と共に手を振る彼に、にこりと微笑みだけ置いて、遠回りでバーへと歩を進める。不意に視線を感じてちらっと振り返ると、再び手を振る康二の更に奥で考え事をするように鼻先に人差し指を置きながら見つめてくる『レンさん』と目が合った。
(あの人は、信用できる人なのかな…。)
康二には軽く手を振り、あの人には一先ずの会釈だけして。色んな考察が脳内に飛び交う中、俺は前へ向き直した。