テラーノベル
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休日の夜。
お風呂を済ませた凛花は、洗面所の鏡の前に立っていた。
タオルで軽く水気を取った髪を、ドライヤーで乾かしている。
ぶおおお……。
暖かい風が髪を揺らす。
凛花は髪の上の方を乾かすため、両手を上げたままドライヤーを動かしていた。
リビングでは海斗がソファに座ってテレビを観ていたが、数分もしないうちに落ち着かなくなる。
海斗:……。
海斗:まだかな。
時計を見る。
海斗:まだか。
立ち上がる。
海斗:……見に行こ。
洗面所を覗くと、凛花はまだ真剣な表情で髪を乾かしていた。
ぶおおおお……
ドライヤーの音で周りの音はほとんど聞こえない。
海斗は後ろから近付く。
凛花は気づかない。
海斗:……。
海斗:暇。
もちろん聞こえない。
海斗:ねえ。
聞こえない。
海斗:かまって。
聞こえない。
海斗:……。
海斗は少しだけ頬を膨らませた。
海斗:無視された。
実際はドライヤーの音で聞こえていないだけなのだが。
海斗:しょうがない。
海斗はにやっと笑う。
ゆっくり凛花の後ろへ回った。
凛花は相変わらず両手を上げたまま。
海斗:今なら……。
そっと脇腹へ手を伸ばす。
つん。
凛花:っ!?
びくっ。
ドライヤーを止める。
凛花:えっ!?
後ろを振り向く。
海斗:こんばんは。
凛花:びっくりした!!
海斗:気づかないから。
凛花:ドライヤーしてたもん!
海斗:だから来た。
凛花:何その理由。
海斗:まだ終わらない?
凛花:まだ半分も乾いてない。
海斗:えぇ。
凛花:えぇ。じゃない。
海斗:暇。
凛花:リビング戻ってて。
海斗:やだ。
凛花:子供なの?
海斗:ちょっと。
凛花:認めるんだ。
海斗:かまってほしい。
凛花:あと十分。
海斗:長い。
凛花:髪長いから。
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海斗:切る?
凛花:切りません。
海斗:即答。
凛花:大事なんだから。
海斗:そうかぁ。
凛花はまたドライヤーのスイッチを入れた。
ぶおおおおお……
再び髪を乾かし始める。
両手を上げて、鏡を見ながら髪を整える。
海斗はその後ろでじっと見ていた。
海斗:……。
海斗:暇。
凛花:……。
当然聞こえない。
海斗:……。
海斗:ほんとに聞こえてない。
海斗は腕を組んで考える。
海斗:じゃあ。
また後ろへ近づいた。
凛花は鏡越しに海斗の姿が見えた。
でも、何をする気なのかは分からない。
凛花:(……なんか嫌な予感。)
海斗は笑っている。
凛花:(あの笑顔やめて。)
海斗は人差し指をゆっくり伸ばした。
凛花:(え。)
ちょん。
脇腹を軽くつつく。
凛花:ひゃっ!
肩が跳ねる。
ドライヤーを止める。
凛花:海斗!
海斗:やっと反応した。
凛花:するに決まってるでしょ!
海斗:まだ終わらない?
凛花:だから終わらない!
海斗:かまって。
凛花:あとで。
海斗:今。
凛花:あとで!
海斗:今がいい。
凛花:わがまま。
海斗:彼氏なんで。
凛花:私の真似しないで。
海斗:気に入った。
凛花:返してください。
海斗:返しません。
凛花は笑いながらため息をつく。
凛花:ほんと甘えん坊。
海斗:否定しない
凛花:そこも否定しないんだ。
海斗:うん。
凛花:もう。
凛花は再びドライヤーをつけた。
ぶおおおお……
海斗は数秒待つ。
五秒。
十秒。
十五秒。
海斗:限界。
再び後ろへ。
今度は両手を上げている凛花の脇腹へ、そっと両手を近付ける。
凛花は鏡越しに気づく。
凛花:……。
海斗:……。
凛花:海斗。
海斗:ん?
凛花:やめてね。
海斗:何を?
凛花:その顔。
海斗:どの顔?
凛花:いたずらする顔。
海斗:そんな顔してる?
凛花:してる。
海斗:気のせい。
凛花:違う。
海斗:気のせい。
凛花:そのやり取り昼にもした。
海斗:デジャブだ。
凛花:笑ってごまかさない。
海斗はさらに一歩近付く。
凛花:来ないで。
海斗:あと少し。
凛花:近い。
海斗:近いね。
凛花:近付いたの海斗。
海斗:そうだった。
凛花:だから。
海斗:うん。
凛花:やめて。
海斗:……。
一瞬だけ静かになる。
凛花:……?
海斗:かまってくれないから。
凛花:だからあとでって―
その瞬間。
こちょこちょ。
凛花:ひゃあっ!?
肩が跳ねる。
海斗:あ、やっぱり弱い。
凛花:もうっ!
海斗:かわいい反応。
凛花:褒めなくていい!
海斗:もう一回。
こちょこちょ。
凛花:あっ、ちょっ……!
ドライヤーを慌てて止める。
凛花:海斗!
海斗:やっとこっち向いてくれた。
凛花:そのため!?
海斗:うん。
凛花:子供!
海斗:かまってほしかった。
凛花:そんな理由でくすぐる人いる!?
海斗:ここに。
凛花:胸張らないで!
海斗:えへん。
凛花:威張るところじゃない!
海斗は笑いながら凛花の横へ立つ。
海斗:終わるまで長いんだもん。
凛花:髪乾かすのは大事なの。
海斗:知ってる。
凛花:なら待ってて。
海斗:待った。
凛花:三十秒くらいしか。
海斗:頑張った。
凛花:全然頑張ってない。
海斗:十分。
凛花:十分じゃない。
海斗は少しだけしょんぼりした顔になる。
海斗:じゃあ……。
凛花:……。
海斗:ほんとにあとで構ってくれる?
凛花はその顔を見る。
さっきまでいたずらっ子みたいに笑っていた海斗が、今度は少しだけ寂しそうに見えた。
凛花:……。
凛花:そんな顔されたらずるい。
海斗:だって。
凛花:あと五分。
海斗:うん。
凛花:ちゃんと乾かしたら。
海斗:うん。
凛花:いっぱい構ってあげる。
海斗:ほんと?
凛花:ほんと。
海斗:約束?
凛花:約束。
海斗は嬉しそうに笑った。
海斗:じゃあ待つ。
凛花:えらい。
海斗:褒められた。
凛花:だからもう邪魔しない。
海斗:……。
凛花:その沈黙は何。
海斗:最後に一回だけ。
凛花:ダメ。
海斗:一瞬。
凛花:ダ―
こちょこちょ。
凛花:ひゃっ!!
海斗:成功。
凛花:海斗!!
海斗:逃げろ。
海斗は笑いながらリビングへ走っていく。
凛花:待ちなさい!
海斗:捕まえてみて。
凛花:髪乾いてないの!
海斗:じゃあ安心。
凛花:全然安心じゃない!
結局、凛花は最後まで髪を乾かし終えてからリビングへ向かった。
ソファで待っていた海斗は、凛花の姿を見るなり、嬉しそうに手を広げる。
海斗:終わった?
凛花:終わった。
海斗:やった。
凛花:そんなに待てなかったの?
海斗:待てなかった。
凛花:甘えん坊。
海斗:凛花限定。
凛花:もう……。
照れ隠しに海斗の肩を叩く。
海斗は笑ってその手を握った。
海斗:これで今日はいっぱい構ってもらえる。
凛花:その代わり。
海斗:ん?
凛花:次からは、ドライヤー中にくすぐるの禁止。
海斗:……。
凛花:返事は?
海斗:努力します。
凛花:禁止。
海斗:……善処します。
凛花:禁止!
海斗:はい。
そう返事をしながらも、海斗はどこか楽しそうに笑っていた。
凛花はそんな海斗を見て苦笑する。
海斗:ばれた?
凛花:その顔が証拠。
二人は顔を見合わせる。
そして、同時に笑い声をあげた。
いつものように少し騒がしくて、少し甘くて。
そんな何気ない夜も、二人にとっては心地よくて、幸せな時間だった。
コメント
3件
第16話、めっちゃ甘々で萌え萌えだった〜😭💕💕 海斗くん、「かまって」欲しすぎてドライヤー中にくすぐるとかずるすぎるでしょ!!「彼氏なんで」って言い放つの反則やわ…笑 凛花の「そんな顔されたらずるい」って台詞もエモすぎて悶えたよ〜〜 最後の「凛花限定」の甘えん坊宣言、最高すぎるから!! おかゆさん、尊い世界をありがとうございます…次の話も楽しみにしてます!🌸