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深夜。
屋敷の廊下は静かだった。
——静かすぎた。
コツ。
コツ。
マフィオソの靴音だけが響く。
その手には、
部下たちの報告書。
「…………」
薄く目を細める。
カポ——外出記録、カジノ街。
ソル——巡回ルート逸脱。
ラクティー——行き先不明。
リエーレ——単独情報収集。
全部、同じ日に重なっている。
「……なるほど」
低く落ちる声。
その時。
ガチャ。
「……あ」
廊下の先から戻ってきたのはソル。
固まる。
「どこへ行っていた」
静かな声。
だが、それが一番怖い。
「えっ、その……」
視線が泳ぐ。
「答えろ」
逃げ場がない。
「……少し、外に」
「誰と会った」
ピタリ。
ソルの顔色が変わる。
それだけで十分だった。
「……そうか」
マフィオソはそれ以上追及しない。
だが。
「全員、会議室へ来い」
低く告げる。
「今すぐだ」
数分後。
重苦しい空気。
長テーブルを囲む部下たち。
誰も喋らない。
マフィオソは席につき、
指先でジョーカーを弄ぶ。
「……確認する」
視線が、一人ずつを射抜く。
「チャンスと接触した者」
沈黙。
「正直に言え」
「……俺」
最初にカポ。
「僕もです」
ラクティー。
「……はい」
ソル。
最後に、
「私も」
リエーレ。
全員。
マフィオソは数秒、動かない。
怒鳴らない。
机も叩かない。
その方が怖い。
「……理由は」
「情報収集」
リエーレが答える。
「敵を知る必要があると判断しました」
「1人でか」
「はい」
「許可は?」
「取っていません」
即答。
「……そうか」
次。
「カポ」
「……気になった」
正直。
「ムカつくから、様子見に」
「ソル」
「……会いたく、なって」
小さい声。
「ラクティー」
「楽しいので」
自由。
沈黙。
そして——
「……お前たちは」
マフィオソがゆっくり立ち上がる。
「理解しているのか」
低い。
静かなのに、空気が重い。
「相手はチャンスだ」
「遊ばれて終わる男ではない」
「分かってます」
リエーレが答える。
「ですが——」
「ですが?」
「あなたも」
一瞬、空気が止まる。
リエーレは視線を逸らさない。
「あなた自身も、既に揺らいでいる」
ピクリ。
カポが目を見開く。
ソルが息を呑む。
ラクティーだけが静かに見ている。
「……何が言いたい」
マフィオソの声がさらに低くなる。
「あなたは、彼を追っている」
リエーレが続ける。
「ですが本当に“取り返したい”のは、物ではない」
沈黙。
「……」
「違いますか」
長い静寂。
マフィオソは答えない。
だが。
その沈黙が、答えだった。
「……ボス」
カポがぽつりと言う。
「もしかして」
「楽しかったんですか」
誰も聞けなかったこと。
部屋が静まり返る。
マフィオソはゆっくり目を閉じる。
思い出す。
カードを切る音。
酒の匂い。
近すぎる距離。
笑う声。
「…………」
気づけば、
ジョーカーを握る指に力が入っていた。
「……くだらん」
吐き捨てるように言う。
だが。
「否定、しないんですね」
リエーレが静かに刺す。
「……」
再び沈黙。
その時だった。
「ボス」
ソルが恐る恐る口を開く。
「俺たち、多分……」
言葉を探す。
「同じです」
マフィオソが顔を上げる。
ソルは震えながらも続ける。
「怖いし、危ないし、絶対ダメなのに」
「気になるんです」
「また会いたいって、思っちゃう」
その言葉に、
誰も否定しない。
カポも。
ラクティーも。
リエーレも。
全員、同じだった。
そして——
マフィオソも。
静寂。
長い、長い沈黙。
やがて。
「……最悪だな」
小さく漏れる。
その声は、
怒りではなかった。
認めてしまった者の声だった。
「完全に、主導権を握られている」
「はい」
リエーレが静かに返す。
「ですが」
口元をわずかに上げる。
「奪い返せばいい」
カポがニヤリと笑う。
「面白くなってきたじゃねぇか」
ラクティーは楽しそうに頷く。
ソルはまだ不安そうだ。
マフィオソはそんな部下たちを見る。
「……お前たち」
小さく息を吐く。
「本当に、馬鹿だな」
でも。
追い出さない。
止めない。
それどころか——
「次に接触する時は」
ジョーカーを机に置く。
「必ず情報を持ち帰れ」
その一言で。
全員の顔が変わる。
「——了解」
夜は、さらに深くなる。
そして誰もまだ知らない。
チャンスが、
その会話すら、
既に把握していることを。
食べれるすぽんじ@🐢投稿
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