テラーノベル
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ダイニングの机に、ジョーカーのカードが置かれている。
その周囲を囲むように座る一家。
空気は真剣——の、はずだった。
「まず確認する」
マフィオソが指を組む。
「チャンスと2人きりになるのは良くない」
全員が静かに聞く。
「あいつは人心掌握に長けている」
「……確かに」
リエーレが頷く。
「あの短時間でこちらの心理へ踏み込んできた」
「俺もちょっとペース乱されたしな……」
カポが珍しく素直に認める。
「でも悪い人には見えなかったです」
ソルが小さく言う。
「そこだ」
マフィオソの声が低くなる。
「“悪く見えない”時点で危険なんだ」
静寂。
「敵意が分かりやすい相手なら対処できる」
「だがあいつは違う」
ジョーカーを指で弾く。
「楽しませながら、懐に入る」
「気づいた時には、主導権を握られている」
全員、黙る。
心当たりがありすぎる。
「つまり」
リエーレが整理する。
「単独行動は禁止、と」
「ああ」
マフィオソは頷く。
「特にラクティー」
「はい?」
「お前は一番危ない」
「えぇ!?」
ラクティーが目を丸くする。
「僕そんなにですか?」
「自覚がないのが問題だ」
「でもチャンス、面白いですよ?」
「そこだ」
即答。
「もう落ちかけてる」
「落ちるってなんです?」
「お前は黙ってろ」
カポが頭を抱える。
「ソルもだ」
「は、はい……!」
「押しに弱い」
「うっ……」
図星。
「カポは挑発に乗る」
「……否定できねぇ」
「リエーレは興味を持ちすぎる」
「分析です」
「分析対象に感情を混ぜるな」
リエーレ、沈黙。
「で、ボスは?」
カポがにやっと笑う。
「……何だ」
「一番ペース握られてたの、ボスじゃないっすか?」
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ピタッ。
空気停止。
ソルが目を逸らす。
リエーレが咳払いする。
ラクティーだけが純粋。
「確かにネクタイ外されてましたね」
「ラクティー」
「はい」
「黙れ」
低い。
「でもボス、顔ちょっと赤かったです」
「黙れ」
二回目。
その時——
ピンポーン。
全員、止まる。
「……誰だ」
沈黙。
ピンポーン。
もう一度。
「誰か呼んだか?」
「……」
「……」
「……」
「僕です!」
ラクティー、元気よく挙手。
「何?」
マフィオソの声が低い。
「ピザ頼みました!」
「なぜだ」
「お腹空いたので!」
「今会議中だぞ」
「でも真面目な話って、お腹空きません?」
妙に正論。
「……」
マフィオソが深く息を吐く。
「取りに行け」
「はーい!」
ラクティーが走っていく。
数分後。
「きましたー!」
大量のピザ箱。
「頼みすぎだろ!!」
カポが叫ぶ。
「4種類あります!」
「祭りか?」
テーブルに並べられるピザ。
途端に空気が変わる。
「……食べながら続ける」
マフィオソが額を押さえる。
「了解っす」
カポが箱を開ける。
「うわ、うまそう」
「ボス、これ切り分けますね」
ソルが慌てて皿を用意する。
「……ん」
少し空気が柔らかくなる。
その時。
リエーレが静かに一切れ持ち上げた。
「ボス」
嫌な予感。
「口を」
「やめろ」
即答。
「会議中ですので」
「意味が分からん」
「集中力維持には栄養補給が必要です」
「理屈をつけるな」
だが——
カポがニヤッとする。
「そういや前もやりましたね」
「やるな」
「ボス、あーん」
「やるなと言っている」
ソルまでおずおずと、
「ぼ、僕も……」
「増えるな」
ラクティーも当然のように参加。
「はいボス!」
「お前ら……」
包囲。
完全包囲。
「……仕事の話を続けるぞ」
マフィオソは抵抗する。
「チャンスは“距離”を利用する」
「あーん」
「……視線、言葉、接触——」
「あーん」
「精神の隙に入り込み——」
「あーん」
「……っ」
ついに折れる。
ぱく。
「!!!!!」
全員、沸く。
「食った!!!」
「ボスが!!!」
「やった……!」
「騒ぐな!!」
しかしもう止まらない。
「次俺!」
「順番です」
「ぼ、僕小さめにします……!」
「熱いので気をつけてください!」
カオス。
完全に第2回あーん地獄。
しかも今回は——
「……ボス」
リエーレが静かに言う。
「公平性が必要です」
「嫌な予感しかしないな」
「全員が与えたのであれば」
カポがニヤリ。
「今度はボス側っすよね?」
「は?」
ソルが期待に満ちた目をする。
ラクティーはもう口を開けている。
「待て」
遅い。
「ボス、あーん!」
「ラクティー閉じろその口を」
だが数分後——
「……ほら」
結局やってる。
「!!」
ラクティーが幸せそうに咀嚼する。
「うまいです!」
「同じピザだ」
「でもボスがくれたので!」
「意味が分からん……」
次。
「ボス、俺も」
「お前デカすぎる」
「愛情っす」
「いらん」
ソルには小さめにちぎって渡す。
「……ありがとう、ございます」
リエーレには、
「ほら」
「……ふ」
わずかに笑う。
それを見たカポが叫ぶ。
「今リエーレだけ空気違った!!」
「気のせいです」
「絶対違った!!」
騒がしい。
うるさい。
まとまりがない。
だが——
マフィオソは小さく息を吐く。
「……全く」
呆れた声。
けれど、
その口元は少しだけ緩んでいた。
机の上にはジョーカー。
その周りで騒ぐ部下たち。
まるで戦争前とは思えない空気。
けれど——
だからこそ。
「……負けるわけにはいかんな」
誰にも聞こえない声で、呟いた。
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