「実はさ、隊長、そんなに遠いところの任務じゃないんだ。一応、手紙で報告はしているんだけど、直接会って話をしたいことがあるんだよね。一緒に行かない?隊長のところ」
私が泣いているせいもあるのか、小野寺さんは優しく問いかけてくれる。
「邪魔にならないんだったら、行きたいです。少しでもいい、私も話をしたいことがあります」
普段の私なら遠慮をしてしまうかもしれない。
けれど、今回だけはどうしても自分の気持ちを抑えきれなかった。
「よしっ!じゃあ、決まり。明日の朝、出発ってことで。その日のうちには着く距離だから大丈夫だよ」
そう言った後に
「買ってもらった着物を着て行って、びっくりさせちゃえ?お化粧もしてさ」
いたずらっ子のように小声で耳打ちをされた。
「俺も小夜ちゃん連れて行って、隊長がびっくりする顔見てみたいし。面白そう」
彼はにこっと少年のように笑った。
「今日はゆっくり休むんだよ。あぁ、明日が楽しみになってきたな」
それからは家の中で一人で過ごした。家の外は小野寺さんや隊士さんが何人かで見守りをしてくれている。
実際、今日私は襲われている。
本当に狙われているんだとあらためて実感をした。
一方、家の外ではーー。
「いいのですか?副隊長、明日隊長のもとへ一条様をお連れして」
一般階級より高い隊士が話しかける。
「みんな思っていることは一緒?」
隊士たちに問いかける。ほとんど全員が頷いた。
「真面目に話をするけど、彼女の行動、俺たちの行動、全て敵に伝わっていると考えてもいい。もう、どこに居ても同じなんだよ。今日、襲ってきた奴等は、金目的で敵に差し向けられた奴等で、内情もよくわかってない奴等だったけど、次はどんな奴がいつ襲って来るのかわからない。あいつが直接襲ってくる可能性だってある。お前らも忘れてないだろ?あの事件のことを。三十人の隊士があいつ一人に殺されたって話。階級の高い隊士でさえ、一瞬で殺されたんだ。それほどあいつは強いんだよ」
ふぅとため息をつき
「今この瞬間、襲って来る可能性だってある。一対一ならともかく、正直、彼女を庇いながら戦える余裕なんてない。だったら、あいつが予測できないような動きをした方がいい。この家の場所だって、もうバレているんだろうし。これは本部も容認済み。まぁ、俺も正直、隊長と直接話をしたいってこともあるんだけどね」
そして彼は
「少しも気を抜くなよ」
いつもと違った声音で指示を出していた。
・・・・・・・・
明日は月城さんに会えるんだろうか。
何週間も何年間も会っていないわけではないのに、彼が遠く感じた。十年以上ずっと離れていたのに。
思い出せば、彼は孤児だった。
道で倒れていたのを偶然、私の両親が見つけた。
しばらくは私の家で一緒に過ごした。
彼が元気になり、その後無事に里親が見つかって別れたことを覚えている。
ご両親が殺されたって言っていたのは、本当の息子のように育ててくれた里親のことを言っていたのだろう。
私の父は、彼の里親と仕事の関係で親交があり、時折彼の様子を手紙で教えてくれていた。
「元気でやってるってよ」
そう父が教えてくれるたびに
「樹くんに会いたいな」
幼少の頃はそんなことを思っていた。
しかしいつしか手紙が届かなくなり、彼がどうしているのか知るすべがなくなった。
そして十年以上の時が流れた。
私も両親が亡くなり、生きていくだけで精一杯だった。
例え命が狙われようと、それがきっかけで彼と再会できたこと、これは何かしらの意味があるのではないか。
私を襲ってきた人をこのままにしておけば、たくさんの人が亡くなると言っていた。守られているばかりではなく、私も何かできればいいのに。月城さん、小野寺さんみたいに戦ったりはできないから、他に何か役に立つことができないかな……。そう考えながら眠りについた。
・・・・・・・・
時刻はもう丑三つ時を迎えていた。
とある街の外れ。
一人の男が月を眺めている。表情は厳しい。
「役立たず共め。やはり私が直接行かなければダメだということですかね」
道には若い男が一人血を流して倒れている。
「このくらいのやつを十人ほど集めても意味がないということなのでしょう」
まだ息があったのか倒れている男は
「今日の隊士は……。階級が上でした……。許して……ください」
次の瞬間、刀が倒れている男に突き刺さる。
「言い訳がましい。階級が上だからなんだと言うのですか」
血の付いた刀を振り払う。
「まだ早いと思っていましたが、私が直接出向きますか。それほど価値がある、あの娘には。私が克服できないものをあの娘は持っている。妬ましいことです」
不敵な笑みを浮かべる男、その男の首には痣らしいものがあったーー。
・・・・・・・・
「おはようございます」
警備をしてくれていた隊士たちに挨拶をする。
「おはようございます、一条様」
ふあぁぁと大きなあくびをしながら小野寺さんが私へ挨拶に来てくれた。
「おはよう小夜ちゃん……?ん!可愛い!!」
月城さんが贈ってくれた着物を着て、髪はまとめ、いつもより濃い化粧をしてみた。慣れない姿を見られるのが恥ずかしい。
「変でしょうか?」
「変じゃないよっ、すごく可愛いよ。隊長もびっくりするね」
小野寺さんはにこっと笑い、褒めてくれた。
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