用意してくれた馬車に乗る。
「実はね、隊長は昨日はお偉いさんの警護、今日は俺たちの組の全体訓練の指導をしてるんだ、新人向けの。そんなに遠くないから、馬車ならお昼くらいには着くと思う。任務で他人の警護中とかに行ったら怒るかもしれないけど、今日は身内の指導だからね。休憩時間もあると思うし、俺がその時に会えるよう交渉するよ」
「ありがとうございます」
「ううん、俺もさ、直接隊長に話したいことがあるんだ。だから、ちょうど良かった。小夜ちゃんが一緒に行ってくれるって言ってくれて」
だから気にしないでと言う小野寺さん。
「可愛い小夜ちゃんを見た時の隊長の反応が見たいな」
いたずらっ子のように笑っている。
「ああ、小夜ちゃんはいつも可愛いけど、今日は特別って言うか。なんて言うか」
困っている小野寺さんを見て笑ってしまった。
「なに?何か、面白かった?」
「小野寺さんって優しいんだなって思って」
「優しくないよ。どこが優しいの?でも、小夜ちゃんにだけは優しくしたくなっちゃうかも」
そんなことを言われて、嫌な気持ちになる女性はいないだろう。
加えて月城さんとは顔立ちが違うが、容姿も良い。
女性の扱いが上手いというか、人と関係性を作ることに優れている。
「うーん。もう一人の小野寺さんはしっかりしていて、なんていうか、もう一人の小野寺さんを他人に知られたくなさそうっていうか……。本当は人と関わることを避けていて、努力を人に見せないでしょ?すごく頑張り屋さんだと思います。あの、上手に伝えられなくてごめんなさい」
「なんでそう思うの?」
小野寺さんは下を向いた。
気分を損ねてしまった?感じていたことを伝えすぎてしまったのかも。
「私の勘です。気分を悪くされたらごめんなさい。でも、頑張り屋さんは間違ってないと思います」
彼は、ハハっと少し笑って
「頑張り屋さんなんかじゃないよ。当たりか外れかは教えてあげない」
彼と目が合う。怒っているような感じではなかった、どちらかと言うと寂しそうな目をしていた。
月城さんに近づいていると考えると、緊張してきた。
どんな顔で会えばいいのか、彼は私を受け入れてくれるだろうか。
それとも「帰れ」と怒るのだろうか。どちらとも予想ができる。
「ここが、基地のようなところなんですか?」
「基地っていうか、まあ、訓練場みたいなところだね」
とある街の隅にそこはあった。
広大な敷地。
門には、隊士が五人ほどおり、中に入る人間を監視している。
馬車が門を通ろうとした時、呼び止められた。
「誰の許可を得ている?」
門番に尋ねられた。
すると小野寺さんが顔を出し
「ごめん。隊長には内緒で来ているんだ。本部には許可取ったから。はい、これ許可状」
そう言って一通の手紙のようなものを渡す。
小野寺さんの顔を見て
「申し訳ありません、小野寺副隊長。副隊長が乗っていらっしゃるとは思っていなくて」
副隊長がいると知った時、一斉に隊士たちは頭を下げた。
「別にいいよ。俺が来たってしばらく隊長には言わないで」
「しかし……」
動揺をする隊士がいた。この隊士たちの中で一番階級が高いのだろうか。
「副隊長命令。これでなんか文句言われたら、俺のせいにしていいから」
「承知いたしました」
命令と聞いたとたん何も言わなくなった。
階級が高い人間の命令は絶対、そんなことを伝えられた気がした。
「俺の情報網によると、隊長は一番端の書斎にいるはず。一人だから絶好のチャンスだね」
なんだか楽しそうだ。
二階建ての広い建物の中に入る。
一人で行動をしたら、迷いそうなほどの広さと部屋数があった。
廊下ですれ違う隊士たちは、小野寺さんを見て頭を下げてくる。
知らない土地、初めてきた建物であるため、小野寺さんの指示に従うことにした。
「隊長、気配とかですぐわかっちゃうからあんまり緊張とかしちゃだめだよ。人間離れしているから、あの人」
彼に近づいたら自然体でいるのが正解らしい。
他の隊士と別れ、二人で月城さんのいる部屋に向かう。
あそこというように指で示す小野寺さん。
こくんと頷く私。
小野寺さんが部屋の扉をトントンと数回叩いた。
「入れ」
月城さんの声がした。
久しぶりに聞く声が嬉しかった。
小野寺さんが部屋に入り、閉められた扉の前で待つ。
「隊長、お疲れ様です」
椅子に座って手紙を読んでいたが、その声を聞き驚いて立ち上がる。
「なぜお前がここにいるんだ?」
「どうしても、樹と直接話がしたくて」
「俺はお前だからこそ小夜を頼んだ。何かあったのか?小夜は今どうしている?」
月城さんらしくない、冷静さが失われている様子が感じられた。
なんだか騙しているようで、申し訳ない気持ちになる。
もうそろそろ部屋に入ってもいいだろうか、そう思い部屋に入ろうとした。
「小夜ちゃんは他の隊士に任せてきた」
そう小野寺さんが話を続けていた。
予定とは違う。どうすれば良いの?
「俺はお前だから、小夜を頼んだ」
「そんなに怒るなよ。直接報告に来たんだから」
不穏な空気になったことは私にもわかった。
「敵をおびき寄せるために、樹は、あの子と街に出かけた。わざと目に付くように」
「えっ?」
思ってもみない小野寺さんの言葉に、私の鼓動が一気に速くなった。
「作戦は成功だったよ。敵は彼女の患者にも接近していて、彼女の情報を盗んだ。それに昨日、金で雇われた奴等が俺たちを襲ってきた」
「それは報告で知っている。ご苦労だったな」
「すごいよな、大切な人を作戦にまで使う樹ってさ。わざわざ信用されるような演技までして、彼女の薬箱を直したり、着物も贈ってあげたんだって?」
彼の言葉はまだ続いた。
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