テラーノベル
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第5話「視線」
次の日。
数学の授業。
黒板に書かれる数字を、なんとなく目で追う。
いつもと同じはずなのに、
どこかだけ違っている気がした。
先生は教室を歩く。
生徒の間をゆっくりと回りながら、
一人ひとりの様子を見る。
でも。
ゆかりの前だけ、通り過ぎた。
一瞬だけ、違和感。
(あれ)
いつもなら、ここで声がかかる。
「分かる?」
そう聞かれる。
でも今日は、何もない。
黒板に視線を戻す。
チョークの音がやけに大きく感じた。
少しだけ、胸の奥がぎゅっとする。
理由は分からない。
(…なんで)
考えてみる。
でも、すぐに浮かぶものは一つだけだった。
昨日。
音楽室に行かなかったこと。
(…それだけで?)
自分で考えて、少しだけ否定する。
約束、というほどのものでもない。
でも。
言葉にできないままの違和感だけが残る。
授業が終わる。
何も起きていないはずなのに、
少しだけ疲れていた。
昼休み。
席に座ったまま、少し考える。
音楽室。
昨日、行かなかった場所。
(……)
理由はない。
ただ、なんとなく。
立ち上がる。
廊下に出る。
足は自然に、そっちへ向かっていた。
(第5話 前半 終)
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