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芙月みひろ
280
#普通
野々さくら
57
#女主人公
それからの花園劇場は、再び以前のような賑わいを見せた。
「ブラボー!」
「アンコール!」
観客席から、追加の演奏を求める声が挙がる。
岩崎へ向けての声援だった。
あれから、弱りきった咲子に変わり岩崎が公演を担当していた。
新聞の攻撃はまだ続いていたが、それでも岩崎の演奏に惹きつけられてか、劇場は満席の日々。悪質な野次も無くなり、楽屋口に詰めていた野次馬たちもいなくなっていた。
「やっぱり、岩崎先生にはかなわないわ」
舞台袖で、演奏を観ていた咲子が呟く。隣で京太郎も、渋々頷いた。
「岩崎は昔から別格なんだ。お咲、お前も落ち着いたら見習って精進だぞ!」
「はい」
中村の激励に咲子も素直に返事した。
「なんだよ、中村のおっさん。お咲は、お咲だ!」
京太郎が口を尖らせている。
「ははは、親父さんの活躍が気に入らないのか」
中村は、京太郎の胸の内を読んで笑ったが──。
「ええ、気に入りませんね」
背後から苛立った声がする。
顔を真っ赤にした秋山男爵だった。
「中村支配人!花園咲子はどうしたんです!お咲ちゃんあってのこの劇場だ!」
秋山男爵は、何故岩崎が演奏しているのかと抗議した。
「誰かのせいで、お咲は弱って歌えなくなったんだ。仕方ねぇだろ」
京太郎が、鬱陶しそうに言う。
「何だって?!仕方ないだと?!」
「秋山男爵様。お咲は、当分舞台に立てません。色々気持が折れてしまったようで……」
仕方なく岩崎を変わりにしたと中村が告げる。
「だから私に一声かければいいでしょう!私はこの劇場と花園咲子に投資してきたんですよ!」
「お咲を物扱いですか……」
舞台から下がって来た岩崎が、秋山男爵へ苦言を述べた。
「なんだ!ここは花園咲子の舞台だぞ!」
「確かに、お咲はこの劇場の看板演者です。しかし、私が演奏してはならない理由にはならない」
「うるさい!誰がここに投資したと思うんだ!」
秋山男爵が、肩を怒らせる。
「……投資、投資と。よほど投資がお好きなようだ」
フッと岩崎が笑みを浮かべ……。
「ああ、兄が申しておりました。秋山男爵に怪しげな投資話を勧められたと……」
意味ありげに言った。
「はあ?なんですか?父上」
京太郎は、ポカンとしている。
「噂では、投資を勧めて、その勧め先からリベートをもらっているそうだが……」
岩崎は、挑戦的な笑みを浮かべている。
「な、何を!」
秋山男爵の顔つきが変わった。
「おや、秋山男爵。そんな商売を……」
中村がトドメを刺す。
「デタラメだ。そんなことは知らん!証拠を持ってきたまえ!」
「はいよっ!お呼びのようで!」
突然二代目が、嬉しげに現れる。
「お姐さん方!出番ですよぉ!」
振り向き、二代目は誰かを呼んだが、たちまちに場はかしましくなった。
「男爵様!」
「探しましたよ!男爵様!」
スッキリした顔立ちの女と芸者姿の女が秋山男爵を睨みつけている。
「あっ!活動写真館の女弁士?!」
京太郎の驚きに、二代目が畳み掛けてくる。
「はい!お二人とも、秋山男爵とはただならぬ関係だとか。話があると呼び出しても逃げられてお困りのようでしたからねぇ。お連れしたんですよ」
「田口屋の二代目さん!ありがとうございます!」
女弁士が、礼を言う。
「秋山男爵様?!女弁士なんぞにうつつを抜かしていたってことですか?!」
芸者が負けじと声を張り上げた。
「お姐さん方、立ち話もなんですから、楽屋でお話されちゃーどうですかい?」
二代目の言葉に女弁士と芸者が大きく頷いた。
「おや?秋山男爵、うちの花園咲子に投資してたんじゃないんですか?」
中村が、秋山男爵へ迫った。
「こ、これは!何かの言いがかり、間違いだ!」
「ちょいと!私、亀松の身請け話はどうなりましたっ!」
芸者が、我慢ならんと身を乗り出す。
「ちょっと待って!身請け?!冗談じゃないわっ!私の結婚話はどうなりました?!」
女弁士の顔つきが変わった。
「……え?私も……男爵様に結婚の申し込み受けましたけど?」
訳がわからんとばかりに、お咲も口を滑らせる。
「何なんだよ。あんた!あっちにこっちに!それでも男かよ!」
京太郎が噛み付く。
「貴様らっ!私をはめたなっ!」
顔を引きつらせた秋山男爵は、苛つきを爆発させるだけだった。
「さあさあ、後はお任せしやしたよ。お姐さん方!」
舞台裾に二代目の声が響き渡った。
「男爵様!」
「どうゆうことなんです?!」
女弁士と芸者は容赦なく秋山男爵に迫る。
「いや、これは、その……」
さきほどまで威勢の良かった秋山男爵の顔から、みるみる血の気が引いていく。
「急用を思い出した!」
言って、皆に背を向けた。
「男爵様!」
「待ってください!」
逃げる秋山男爵を女弁士と芸者が追いかけた。
「……なんだよ、あれ」
京太郎が呆れ返る。
「さあなあ」
中村が肩を揺らしながら笑っている。
「金と女にだらしない……」
岩崎も唖然としている。
「アンコール!!」
「アンコール!!」
そこへ観客たちの歓声が押し寄せてきた。
コメント
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第13話、読み終えたわ。秋山男爵の正体がボロボロと暴かれていく展開、スカッとしたね。女弁士と芸者が踏み込んできたシーンは、伏線が回収されて痛快だった。岩崎先生の余裕ある立ち回りもかっこよかったし、何よりお咲が再び舞台に立てる日が待ち遠しくなったよ。次の話も楽しみにしてる!