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第20話「遺志の行方」
仁「大丈夫」
仁「俺がちゃんと、助けてあげるから」
雫「…………」
雫はもう動けなかった。
それでも、その瞳だけは仁から逸らさない。
仁「……最後まで強いね〜」
雫「…………」
仁「もーそんなに睨まないでよ」
雫「……あなたに……」
仁「ん?」
雫「……救われるつもりなんて……ありません……ッ」
仁「…………」
雫「私は……私の選んだ道を……最後まで……」
仁「…………」
仁は静かに雫を見る。
そして――
仁「……そっか」
仁「じゃあ…苦しまないように俺がヘルパーになってあげる」
――一瞬。
雫「…………」
雫の瞳に、兄の笑顔が浮かぶ。
そして――
雫「………にい…さ、ん」
仁の一撃。
雫の身体から、力が抜ける。
――――。
静寂。
仁は倒れかけた雫を受け止め支えた
仁「…………」
しばらく、その顔を見つめる。
仁「なんて……美しい死なんだろうね」
仁「安らかに死にたかっただろうに……」
仁「……出来なかった」
仁「でも、もう大丈夫」
仁「雫ちゃんは、もう何も怯える必要はないんだ」
仁「俺の“所”に来れば……たっくさん、仲間がいるから」
仁「……寂しくないよ」
――――。
その頃。
結翔「…………」
スマートフォンを握る。
画面には、雫への発信履歴。
何度かけても繋がらない。
結翔「……なんで出ねぇんだよ…いつもならすぐ出てくれるか、かけ直してくれんのに…」
結翔 「薬また貰いに行こうと思ってたけど…もしかしてもう予約できねーとか…??」
もう一度。
プルルル……
プルルル……
――ブツッ。
留守番電話に切り替わる。
結翔「…………」
結翔「……くそ」
嫌な予感がする。
理由なんてない。
ただ――
胸の奥が、ずっと騒いでいる。
結翔「……もう俺から行くしかないよな」
――――。
放課後。
結翔は診察所へ向かった。
ガラッ!!
結翔「雫さん!」
待合室には、何人かの患者がいた。
患者「……坊主どうしたんだ?」
患者「汗だくだし…飲み物でも飲むかい?」
結翔「すみません…ありがとうございます…」
結翔「あの雫さん、いませんか?」
患者「それが……」
患者は困ったように首を振る。
患者「先生が出てこないんだ」
患者「朝からずっと……」
結翔「…………」
結翔「連絡は?」
患者「つかないわ」
結翔「…………やっぱりか。」
結翔は診察室を見る。
いつも通りの机。
いつも通りの椅子。
いつも通りの診察道具。
なのに――
雫だけがいない。
結翔「………(おかしい…雫さんに限ってこんな騒動を起こすような人じゃない…!なんかあったんだろうか…)」
患者「どうしたんだい?」
結翔「……俺、探してきます」
患者「でももう暗くなるしあぶないぞ?」
結翔「ご心配なく…お優しい言葉はありがたいですが…」
結翔「絶対に見つけるから…ここでしばらく待っててください」
結翔は診察所を飛び出した。
――――。
結翔「雫さん!!」
走る。
探す。
何度も呼ぶ。
結翔「雫さん!!」
返事はない。
時間だけが過ぎる。
夕方。
そして――
夜。
結翔「……はぁ……はぁ……」
気づけば、街からかなり離れていた。
周囲には何もない。
街灯もない。
聞こえるのは、自分の息遣いだけ。
結翔「…………」
スマートフォンを見る。
圏外。
結翔「……くそっ」
それでも戻れない。
結翔「……絶対、見つけるから…」
その時。
??「こんな暗い山奥に……」
結翔「――ッ!?」
??「貴方みたいな学生が来ていいの?」
結翔「誰だ!?」
暗闇から声がする。
結翔「どこにいる!?」
??「お月さんの力を借りれば、僕のことなんてすぐ見つかるさ」
結翔「月の……力?」
??「お月さんは、暗いこの中を照らしてくれてるでしょう?」
??「ライトも街灯もなかった時代……」
??「人は、どうやって暗闇の中で過ごしていたのかな?」
結翔「……悪いけど」
結翔「今そんな話してる場合じゃねぇんだ…!」
??「…………」
結翔「俺は人を探してる」
??「人?」
結翔「あぁ」
結翔「この山を降りた先に診察所がある」
結翔「そこにいる医者を探してるんだ…邪魔しないでくれ…!」
??「…………」
??「もしかして――」
??「貴方、ここのすぐ山を降りた先のお医者さんを探しているの?」
結翔「……そうだ!」
??「…………」
??「昨日の真夜中くらいだったかな」
??「その人、この街から姿を消したみたいだよ」
結翔「…………」
結翔「……姿を?」
??「うん」
??「それからずっと、音信不通」
??「行方不明になるほど…情緒がおかしかったのかもね」
結翔「…………」
結翔「……そんなわけねぇ」
??「…………」
結翔「あの人は…連絡したら必ず返してくれるそんな人だ…!」
結翔「連絡が返ってこないのはきっと何かあったんだろ…!」
結翔「……なのに何も言わずに」
結翔「急にいなくなるなんて……(俺がもっと…しっかりしてれば他の患者達を困らせることだって…なかったのかもしれない…)」
??「…………お困りのようだね。まぁそれもそうか」
結翔「……何か知ってんのか?」
??「…………」
??「僕はね」
??「貴方が何を探しているのか、最初から分かってたんだよ」
結翔「…………」
結翔「……は?」
??「だから、ここに来るのを待ってたの」
結翔「…………」
結翔「お前……誰だ…?」
少女が月明かりの下へ姿を現す。
結翔「…………」
少女「私の名前は、宙」
結翔「宙……?」
宙「好きに呼んでもいいよ」
少し間を置く。
宙「でも、ちゃん付けは嫌」
結翔「……いや、矛盾してね!?」
宙「…………してない」
結翔「好きに呼んでいいって言っただろ」
宙「言ったよ?」
結翔「じゃあ宙ちゃんもいいだろ」
宙「それは嫌」
結翔「だから矛盾してんだろ!」
宙「してない」
結翔「してんだろ!」
宙は結翔を見る。
その目は、年齢に似つかわしくないほど静かだった。
宙「…………」
結翔「……なんだよ」
宙「貴方」
宙「まだ何も知らないんだね」
結翔「…………は?何の話だ?」
宙「この世界のことを」
結翔「…………」
宙「貴方の心は、まだ黒く染まっていないから」
結翔「…………」
宙「だからまだ分からない」
結翔「…は?…何がだよ…(何を言ってんだ…コイツ)」
宙「この世界が、どんな場所なのか」
結翔「…………」
宙「でも――」
宙は月を見上げる。
宙「この世界の真実を知ったら……」
宙「貴方は、どうなっちゃうんだろうね」
結翔「…………」
結翔「……お前、何を知ってる?」
宙「…………」
答えない。
結翔「何か情報を持ってんなら吐け」
宙「…………」
結翔「こっちはほぼ命懸けみたいなもんなんだ」
宙「…………」
宙は結翔を見る。
そして――
宙「……そんなに気になるのなら」
宙「来る?来て後悔しても遅いけれど」
結翔「…………」
宙「貴方ほどの純粋な人って心すぐ折れちゃうから」
結翔「…(コイツ失礼すぎじゃね?それ俺の事ディスってるよな!?くっ・・・ここは我慢だ…)」
結翔「……雫さんにか?」
宙「…………あのお医者さんとは言ってないけど?」
ただ、山の奥へ歩き始める。
結翔「おい待てよ…!答えろって!」
結翔は宙を追う。
その背中を見ながら――
まだ、何も知らない。
雫がもう戻ってこないことも。
宙が何故、自分を待っていたのかも。
そして――
自分がこれから踏み込む場所が、
今まで信じていた「正しさ」とは、
まったく違う世界だということも。
宙「…………」
月明かりの下。
少女は一度だけ振り返る。
宙「…………」
その表情は――
どこか、寂しそうだった。
コメント
1件
いやもう…冒頭から心臓掴まれたわ…。雫が「救われるつもりなんてありません」って拒んだのに、最後に“にいさん”って呼んだ瞬間、涙腺やばかった。仁の「美しい死」って台詞が寒すぎて、こいつ本当に人間じゃないって思わせるのに、結翔くんはまだ知らないんだよな…。宙ちゃんの登場も雰囲気あって好き。この世界の“真実”って何なんだろう。続きが気になりすぎる🔥
一ノ瀬ルナ
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