テラーノベル
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そのあとのことは、順番があいまいだ。
家に帰って、母に、ぜんぶ話した。
うまく喋れなかった。途中から何を言っているのか自分でも分からなくなって、母が「ゆっくりでいい」と言って、わたしの背中に手を置いた。母がわたしに触ったのは、お父さんの葬式以来だった。
次の日、母と一緒に学校へ行って、カウンセラーの先生と、教頭先生に話した。警察の人にも話した。同じことを、何度も何度も話した。
そのあいだ、わたしはずっと、自分が悪かったんじゃないかと思っていた。
喋りすぎたから。うれしがったから。本を受け取ったから。
「それは違う」
カウンセラーの先生は、一度だけ、はっきりそう言った。
「あなたは、お父さんの話を聞きたかっただけでしょう」
そこでやっと、わたしは泣いた。
◇
冬休みが明けて、商店街を通ったら、久世堂のシャッターに紙が貼ってあった。
「閉店いたしました」
それだけだった。
わたしはその前に少し立って、それから自転車を漕いだ。二度と行かないと決めていたのに、体が勝手に遠回りをした。そういうことが、しばらく続いた。
◇
あの夜のことを、わたしは何度も考えた。
風。落ちた本。切れた電球。
あとから考えれば、説明はつく。古い建物だった。配線も古かった。地震だったのかもしれない。棚は前から傾いていた。
でも、その説明はぜんぶ、わたしの中で滑る。
だってあれは、あのタイミングだった。
手首を掴まれた、その瞬間だった。
◇
三学期のはじめ、わたしは決めた。
あれは、お父さんだった。
証拠はない。証拠なんて、たぶん一生出ない。
でも、そう決めてしまえば、わたしは立てる。
お父さんは二年前にいなくなったんじゃない。まだ、どこかにいて、わたしがいちばん危なかった日に、来てくれた。そう思うことにした。
そう思うことにしたら、急に、世界が広くなった。
じゃあ、ほかにもあるんじゃないか。
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説明のつかないことが、この世界にはもっとあるんじゃないか。
◇
昼休み、わたしは窓際の席を立って、河合さんのところへ行った。
「河合さん」
「ん? どしたの真崎さん」
わたしは息を吸った。
「……超常現象研究会って、興味ありませんか」
河合さんは、二秒くらい黙って、それから笑った。
「なにそれ」
「神社とか、そういう場所に行って、調べる会です」
「え、何それおもしろそう。入る」
「まだ何も説明してません」
「してよ」
そこから、わたしはまた喋りすぎた。河合さんは五限のチャイムが鳴るまで聞いていた。
◇
もうひとりは、階段で会った。
藤代さんは、一年のときから有名だった。バレー部のエースで、背が高くて、女子の後輩がいつも周りにいた。
でも二学期の終わりに部をやめたと聞いた。
その日、彼女はひとりで階段の踊り場に座って、外を見ていた。手首にテーピングの痕があった。
「藤代さん」
彼女は顔を上げた。
「……真崎、だっけ」
「はい」
わたしは、河合さんに言ったのと同じことを言った。
藤代さんはしばらくわたしを見ていた。値踏みするとかじゃなく、ただ、まっすぐ見ていた。
「なんで、わたし?」
「なんとなくです」
嘘だった。
ひとりで外を見ている人を、放っておけなかっただけだ。
藤代さんは、ふっと笑った。
「暇だから、いいよ」
◇
こうして、超常現象研究会ができた。
部室は使われていない第二図書準備室で、部員は三人。顧問は形だけの先生がひとり。活動は、休みのたびにどこかへ行くこと。
わたしは、この三人がずっと続くと思っていた。
◇
ひとつだけ、決めていないことがある。
雨の向こうに見えた、あの人影のことだ。
制服だった気がする。でも、雨がひどすぎた。振り返ったのは一瞬で、まばたきをしたら、もういなかった。
お父さんは、いつも紺のコートだった。
だからあれは、たぶん、雨のせいだ。見えたと思っただけだ。
そう決めた。
――そう決めて、わたしはもう、振り返らないことにした。
コメント
1件
うわあ……読み終わってしばらく動けなかった。「お父さんだった」って決めることで前に進む強さ、すごく刺さった。背中に手を置く母、久世堂の閉店、そして「振り返らないことにした」ラスト。全部が静かに重なってくる構成、好きだわ。超常研、これからどうなっていくのかめちゃくちゃ気になる🔥