テラーノベル
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薄暗い寝室に規則的なモーター音が響く。
何の情緒もない無慈悲な低音に混じって、不規則に聞こえるのは阿部の吐息だ。
アイマスクと耳栓で感覚を制限され、後孔にはバイブレーターを仕込まれた状態で彼は放置されていた。
岩本に言われたのは、アイマスクと耳栓を取らないこと、そしてバイブレーターを抜かないこと。
どれくらいの時間が経ったかも阿部には分からない。でももう長いことこの状態でいる。
枕に顔を埋め、シーツを握り締め、甘い吐息を漏らしながら、止まることのない快感を享受していた。
「は…ッ、ぅ、んっ…ぐ」
幾度目かの絶頂を迎える。
岩本からは、こうも言いつけられていた。
“決して自慰行為を行わないこと”
阿部は律儀に言われたことを守り、自身には触れない。それでも、ずっと刺激を内側から送り続けられて、もう何度イッたか分からなかった。
視覚と聴覚を奪われているからか、その他の感覚が過敏になっている気がする。だんだんと絶頂までの時間は短くなっていっていた。
岩本が部屋にいるのかも分からないが、もしこの痴態を見られているならと想像すると、より身体が熱くなる。
だらしなく涎を垂らし、身体を引き攣らせ、イキ続けている自分を眺めて、岩本はどう思うのか。
羞恥心が掻き立てられる。それでも快楽に理性は溶かされて、抗うこともできずにまた欲を垂れ流す。
何度もイカされる内に、次第にもどかしい気持ちが強くなってきていた。キスがしたい。触れられたい。繋がりたい。そんな欲求が強くなる。
「んっ、はぁ…ッ、ひかるぅ」
思わず名前を呼ぶ。早く来て欲しい。こんな道具では無く、岩本が欲しかった。
彼ならどんな風に抱いてくれるだろうか。
多少乱暴にされても良い。いや、むしろ荒っぽく扱われたい。
自分の中に存在する被虐性を自覚する。
「ぅ、あ…っ、また、イッ…く」
“征服”される自分を妄想してまた射精した。
もっと刺激が欲しい。するなと言われたが、自慰がしたい。
ほとんど無意識で手を持っていく。
が、その手を阻止する様に無骨な大きな手が重ねられた。
「っ!」
そっと耳栓が外される。
「阿部。ずっと見てた」
岩本が耳元で低く囁いた。
「エロくて可愛くて、最高だった」
快感に抗えず、情けなく屈服していたのを見られていたのだと知らされた瞬間、阿部の心は被虐心に満たされ、堕ちた。
「…挿れ、て、犯して…っ」
心のタガが外れ、思わずそんな言葉が口をついて出る。
「ひかるが欲しい…っ」
もうそれ以外の事など考えられなかった。
「俺も、阿部が欲しい」
熱っぽく岩本は応える。と、次には阿部の腰を掴んで引き上げた。まだ振動していたバイブレーターを抜く。そして代わりに自身を一気に奥まで挿入した。
上半身を伏せたままの阿部は、欲求が満たされ悦びに打ち震える。
「んあっ、ひ、かるの、きたぁっ」
先ほどまでとは違う、熱い塊を体内に感じ、心が高揚した。
岩本が、いつもより乱暴に腰を打ちつける。少しの痛みも苦しさも、今日は快感の味付けだった。
「はあっ、ん、奥っ、きもちぃ、ひかる…っ、すきっ、だいす、きぃっ」
感情が口から垂れ流される。
「っ俺も、好き…っ」
岩本が囁いて前傾姿勢をとる。さらに深いところを突かれ、阿部は背中を反り返らせた。
「ひ…っかる、ひかる…ッ」
熱に浮かされた様に、恋人の名前を繰り返す。
「あ、ぁ、あ」
ビクビクと身体が痙攣する。
あんなに射精した後なのに、またイッてしまう。でもさっきまでと違うのは、幸福感に満たされていることだった。
だんだんと岩本のピッチが速くなる。
荒い息遣い。
阿部の背中にぱたぱたと汗が落ちる。
阿部が漏らす甘い声と、岩本の浅い呼吸だけが聞こえていた。
「…中に出すよ」
押し殺したような声で岩本が言った。腰を支える手に力が籠る。
程なくして、岩本が小さく呻いて動きを止めた。と同時に、阿部の中に熱い体液が吐き出された。
全て注ぎ込んで、岩本は自身を抜く。
阿部は肩で息をしながら、そのまま身を伏せた。
「阿部。大丈夫?」
声をかけると阿部はゆっくりした動きで仰向く。そこで岩本は、彼が未だにアイマスクを装着しているのに気づいた。
「…外して良かったのに」
言いながらそれを取り去る。
「取るなって、ひかる、言ったから」
潤んだ艶っぽい目をして、阿部は言った。
「真面目か」
岩本が苦笑すると、阿部は淡く微笑む。その表情に愛おしさが込み上げた。
岩本は本能に従って、阿部の脚を抱えると、その間に身体を割り込ませた。
無抵抗の阿部に覆い被さり、唇を重ねる。ついばむようなキスをしつつ、自身を後孔にあてがった。
「…いい?」
最後に残った理性で聞く。
「…使って」
加虐心をそそる表情で、阿部は囁いた。
いつもとは少し違う妖艶な阿部の言葉に、理性は消え失せる。
岩本は、またはち切れそうになっている自身を、躊躇なく阿部の中に挿入した。
阿部が深く息を吐く。阿部の中は熱くうねって、岩本から最後の一滴まで搾り取ろうとしているかのようだった。
手を合わせると阿部が指を絡ませてくる。
口付けながら、動き出す。欲望のままに荒々しく。
それに呼応して、阿部の唇から嬌声が漏れだした。
「…インテリも形無しだな」
自分の下で善がる阿部を見て、岩本は呟いた。快楽に溺れる、甘く蕩けた表情。
自分以外が見たことの無い、阿部の顔。知性を横に置いて、ただ岩本を求めている。
「その顔…っ、誰にも、見せないで」
独占欲を刺激され、岩本は言った。阿部が喘ぎながら岩本の顔に手を伸ばす。
「ひかる、だけだよ。俺の…っ、こんな姿見れんの」
特別だよ、と阿部は微笑む。
明日になれば、彼は今起こっている事など無かったかのような顔をして、スーツを纏って、真面目な顔で仕事をする。
アイドルで気象予報士で、知的な高学歴者で。爽やかな朝の顔。
そんな阿部の”特別” な一面を見る権利を自分は持っている。
たまらなく独占欲が満たされる。
「もっと、見て…っ、ひかるには、見せるから」
上擦った声で阿部が言う。そんな彼を見て、愛おしくて胸がいっぱいになる。
「愛してる…っ愛してるよ」
愛してると繰り返しながら、絡めた指に力を込める。
そして再び岩本は阿部の中に放出した。
それとほぼ同じタイミングで、阿部も身体を引き攣らせる。射精したわけではなさそうだったが、イッたようだった。
阿部の身体から力が抜ける。岩本が離れても、ただ大の字になって呆然としていた。
「大丈夫?」
尋ねても何も言わない。
岩本は湯船に湯を張る支度をして、人形のようになった阿部の後始末を簡単にしてやった。
しばらくして湯船の準備が整う。
岩本は阿部を抱き上げベッドを降りた。脱力したままだった阿部が、ようやく自分から動き、肩にしがみついてくる。
岩本は、阿部の肩をあやす様にさすりながらバスルームへ行き、そのまま湯船に身体を沈めた。
「…落ち着いて来た?」
阿部を膝に乗せ、後ろから抱きしめながら尋ねる。
「ん…大丈夫…」
阿部は小さく返した。
最後にイッた瞬間、頭の中でハレーションが起き、死んだのかと思うくらい真っ白になったのだ。思考が戻ってくるのに時間がかかった。
「俺…新しい扉、開いちゃったかも」
ぽつりと阿部が口にする。
「うん、阿部、いつもと違ってた」
阿倍の肩に湯をかけてやりながら岩本は言う。
「なんか……… エロかった」
いまいち語彙力がなくそう言うしか無かったが、事実ではあった。
「意外とああいうの好きだった?」
「え、いや、好き、って言うか…その…まあ、悪くはなかったというか…」
問われて阿部は口籠る。
「うん。好きなのね。じゃ、たまにはああいうのしようか」
「…ひ、かるが、したいんなら、まあ、付き合ってあげても、いいけど…」
「うんうん。阿部もしたいのね」
遠回しな回答の意図を汲んで、岩本は返す。
「っち、違くて、俺は、ひかるの意向を尊重するっていう事を」
「本当は嫌ってこと?俺、阿部が楽しく無いことはしたく無いよ?」
肩に顎を乗せて尋ねると、阿部は一瞬沈黙した。
「いや、だから…付き合ってもいいと思ってんだから、嫌とかは、違うっていうか」
小さな声で煮えきらない返事を呟く。
「乗り気ってことね」
「ねえ、なんでさっきから俺が言って無いこと言うの!?」
岩本の返しに阿部が、真っ赤になって振り返り言った。
「でも阿倍の本音ってそうでしょ」
岩本は笑って言う。
「っ、あ…っ、熱くなってきたから出る!」
阿部は急に言うと、慌ただしく湯船から出てバスルームを後にした。
「冷蔵庫にアイス入ってるよー」
岩本は脱衣所に向けて声をかける。それから改めて足を伸ばして座り直した。
セックスの間は感情も欲もダダ漏れな癖に、ことが終わると本音を隠そうとする。
けれど結局隠しきれてないところも、本音を突くとすぐ顔を赤くして狼狽えるところも、可愛いと岩本は思っていた。
(今度、何試そう)
提案されて狼狽える阿部を想像しながら、岩本はのんびりと思案を巡らせた。
コメント
3件
ぶっ倒れそうです🤦🏻♀️🤦🏻♀️🤦🏻♀️
うわあ、これは…阿部の新しい顔を見た気がしました。普段の知的なイメージからは想像できない「壊れたい」欲求と、それを受け止める岩本の独占欲が交差して、すごく生々しい。特に「使って」の一言から漂う信頼感と被虐心のバランスが絶妙で、最後の風呂場での照れ隠しとのギャップにもやられました。お二人の関係性、どんどん深まってますね。