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俺のすぐ近くで煙草をふかして、これから行く遊び場の話題で盛り上がっていた兄さんたちが、ガラス窓越しに蓮を見て言い合った。
「ちょっと行って誘って来ようぜ」
「でもあれ高校生じゃね?」
「こんな時間に出歩いてんなら、慣れてるコだって。案外簡単にノってくるかもしれねぇぞ」
「そっかぁ?じゃ、ちょっと誘って…って…!」
と、入ろうとしたところで、兄さんのひとりがドアの縁に肩をぶつけた。
「あ、サーセン」
俺がふたりに割り込んで、兄さんをど突いたからだ。
「はぁ!?このガキ、ぶつかっといてなんだその謝りか…」
俺は冷ややかな目で兄さんを思いっきりにらみつけてやった。
170そこそこの身長と貧弱なガタイした野郎なんかに負ける気はまったくしなかった。
15センチ上からにらみつけられてさすがにビビったのか、兄さんたちは何も言わずに店内にも入ってこなかった。
足早に向かうと、俺は蓮の腕を取った。
「いつまで悩んでんだよ、いやしいやつだな」
「っ…いいじゃない」
「どっちも買えばいいだろ。早く済ませろ」
そして会計を終わらすと、引きずるように蓮を連れて店を出た。
「…ちょ、ちょっと蒼!なんで怒ってんの…!?」
「怒ってねえ」
「怒ってるじゃない…!」
「怒ってねぇよ」
けど、そう突き離す声はついつい尖ってしまった。
拍子に振り向いた俺を見て、蓮は表情を強張らせる。
くそ。
つい顔に出てしまった…。
落ちつけよ、俺…。
なにも無かったんだから、いいじゃないか…。
なにをこんなに怒ってんだよ。
焦るなよ、俺…。
「なんか最近の蒼って、ヘンだよね…。…ってかさ、これも、いい加減どうにかしてほしんだけど」
「……」
「手…!」
と、蓮は俺に握られている手を上げると、ぶるんぶるんと振った。
「もう繋ぐ必要ないでしょ。離してよ」
「別にいいだろ、手くらい。むしろ、こうして繋いでいた方が、安全って思わね?カップルって見られて」
「カップルって…!」
見る間に蓮の顔が真っ赤になる。
これまで以上の反応に、俺の胸は微かに弾み始める。
へぇ…。
もしかして、照れてんのか?
半分は願望を込めて言った言葉なんだけど、
蓮って、けっこうこういうの素直に受け止めるよな。
今日の昼休みの時もそうだったけど、いちいち真に受けて新鮮な反応をみせるのが、初心(うぶ)だなって楽しくなる。
それに、安心もする。
きっとまだ彼氏いたことないんだろうな、って想像できて。
じゃ…
こうやって握った男も、俺が『初めて』になるのかな。
俺はそっと、蓮の指に自分の指を絡めて、ぎゅと握った。
すると、予想通り蓮はびくりと反応して、困ったように怒ったように眉間にしわを寄せる。
ああこれは、相当恥ずかしがってるな。
…可愛い。
胸のあたりが熱くなって、苦しいくらい鼓動が早まって、ジンジンしてきた。喉がカラカラする。
最近、蓮を見ていると、よくこういう『渇き』みたいな感覚を覚える。
炎天下の中を何時間も走った後のような、まさに脱水症状寸前って感じのキリキリとした苦しさだ。
水を飲めば治るかっていったら、当然効果があるわけなく、なすすべなく、消え去ってくれるまでこらえるしかない。
…身体の問題じゃないんだよな、これ。
もっと目に見えない深くて重い『なにか』が、俺を追い詰めてるんだ。きっと。
ふぅ、と長く息つくと、俺は静かに口を開いた。
「さっきのコンビニでさ、怖ぇカンジの兄ちゃんが、おまえをナンパしようとしてたんだよ。だから、さっさと逃げてきたんだ」
「え?またそんな…冗談言って」
「なんでそんな冗談俺が言う必要があるんだよ」
「……」
「ほら、もうちょっとこっち来いよ。こんな離れてちゃ、彼女って見えないだろ」
「ぁ…」
ほんの少しの力で引っ張ったつもりだったけど、
不意だったせいなのか…
蓮は頼りなくつんのめると、
とん、
俺の肩に寄しかかった。
「ごめ…」
蓮の綺麗な顔が見上げてきて、俺と真っ直ぐに目が合った。
白い頬が見る間に赤く染まって、薄い唇も、怯えるように引き結ばれて、赤みを増す。
カラカラ、と俺は焼けつくような喉の『渇き』を覚える。今まで以上に、激しく、苦しく。
「おまえ、さ…」
掠れてしまうのに気付きながら、俺は低く声を絞り出した。
「明姫奈って友達がいるせいで気づいてないのかもしれないけど…、もうちょっと、自覚した方がいいぞ。マジで、いい女すぎるから…」
「……え」
「しっかりしてんのに、変なとこで抜けすぎなんだよ。だから…『俺が守ってやらねぇと』って、目が離せなくなる…」
「……」
「わかったか?わかったなら…返事、しろよ…」
「……」
「『気を付ける』って言えよ…」
ぎゅっ、と少し震えている蓮の指を、強く握る。
けど、蓮はふい、と視線を外してうつむいたきりでいる。
あーあ。
やっぱ頑固だよな。
でも、呆れちまうのは、そんなとこも、可愛くて仕方ないって思う俺自身だ…。
これが、惚れた弱みってやつかな…。
ため息まじりに苦笑うと、俺は蓮の手を握って歩き出した。
「な、なんかさ…」
その気まずい空気を嫌がるように、しばらく無言で歩いていると、蓮が口を開いた。
「な、なつかしいよね、こうやって手つなぐの…!昔もさ、蒼ってば『蓮ちゃん待って』って言いながら、私と離れたがらなかったもんねー」
「……」
いきなり昔話か。