テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第14話「レンタルされた側の夢」/視点:夢の提供者(少女)
瀬野ほのか(せの・ほのか)、16歳。
肩までのストレート髪、アイロンで整えた前髪。いつも控えめな笑顔を浮かべるが、表情は少しだけ硬い。
制服のスカートは校則ぴったりの長さ。人と話すのは苦手だけど、聞くのは得意。
――そんな彼女は、誰にも言わずに**“夢を貸している”**。
明晰夢文化が浸透して以降、《メイセキム。》では“夢の提供者”も増えてきた。
現実では話せない感情、誰かに見てほしい景色。
その一部を夢として登録すれば、他人が体験できるようになる。
ほのかが提供しているのは――
【夢名:図書室の窓辺】/ジャンル:静寂系/価格:100円/DL制限:なし】
放課後の静かな図書室、窓から差し込む夕日と、ページをめくる音。
「話さなくていいけど、隣にいていいよ」と、そんな気持ちだけが詰まった夢。
最初は、何も起きなかった。
購入者のログを見ても、コメントは「落ち着く」「寝る前にちょうどいい」程度。
でもある日から、夢に“違和感”が生まれた。
図書室の隅、誰かが本を読んでいる気配。
ページをめくる音が、彼女のものではない。
ふと視線を上げると、いつも誰かがこっちを見ている。
顔は見えない。影のような存在。
でも、確かにそこに「誰か」がいる。
“夢の提供者”であるほのか自身は、その夢を何度も見ることができる。
登録者特典として、夢の様子を観察・記録できる仕組みがあるのだ。
翌朝、《メイセキム。》の販売者アプリにログインすると、異常な通知が届いていた。
【再訪ユーザー:46名】
【うち、特定1ユーザーが20回連続滞在】
コメントには、こう書かれていた。
「あの子、何も言わないけど、たぶん誰かを待ってる」 「毎晩行くたびに、少しずつページを進めてる」 「もしかして、“話しかけてほしい”のかな?」
ほのかは、そのログを読んで、手が止まった。
自分が“黙っていていい夢”として作ったはずの場所に、
誰かが“こちらの気持ち”を読み取ろうとしていた。
その夜、夢に入ると、
本棚の間から、ひとりの少年が出てきた。
制服姿、目元がやさしく、髪は少しだけ乱れている。
彼は微笑んで、そっと声をかけてきた。
「今日、読んでたのって……最後のページ、だったよね」
夢の中なのに、ほのかは少しだけうなずいた。
「ありがとう。君の夢に、ずっと来てよかった」
そう言って彼は、本のしおりをそっと渡して去っていった。
目覚めた翌朝。
ほのかの手のひらには、紙で折られた小さな栞が残されていた。
開くと、文字が一行だけ書かれていた。
“今度は、君の話も聞かせて”
《メイセキム。》注釈:
夢提供者は、夢内の構造や訪問者の行動を“反映”として感じることがあります
再訪者との間に感情の共鳴が起こる場合、夢の一部が変化する可能性があります
「見られる夢」は、提供者の意識によって、“語りかける夢”に変わることがあります