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ビジネスホテルに泊まる日本のお話し。アメ日です。前編はアメ日要素極薄ですが,後編(もしかしたら中編)あたりから出す予定です。
それから,私は「綿雲」の新しいアカウントです。以前のアカウントは動かせませんが,これからはこちらのアカウントで活動を続けます。以前のアカウントが見たい方は,私のフォロー欄からお願いします。
◇政治的意図はございません
…最悪だ。
入って一番最初の感想は,「最悪」だった。薄暗いエントランス。右を向いても,左を向いても,前を向いても,埃,埃,埃!電球は寒色で,それに照らされる剥がれた壁紙。覗く木目は少しカビていて,管理がままなっていないのがよく分かった。
…え?泊まんの?ここに?
いや,そんなことあるはずが無い。と言うか,あってはならない。そうだ,何かの間違いだ。多分,入る所を間違えたんだ。ここはたまたま電気がついてて,扉が開いてただけの廃墟に違いない。絶対そうだ。
…その時,その廃墟(仮)の奥から,声が聞こえてきた。
「お客様?どうされましたか?」
…いや,そんなはずは無い。
「ああ,ボロいでしょう?すいません,なかなか改修工事を許して貰えないもので…」
そんなこと無いこと無かった。
「…お客様?」
「…すいません,カウンターの場所が分からなくて」
「ああ,それでしたらこちらに…」
「いや,あの…」
「どうされましたか?」
「…ここって,ビジネスホテルで合ってます…?」
奥から出てきたその人は,苦笑しながら言った。
「もちろん,合ってますよ」
「…はい,本日から明後日にかけてご予約の日本様ですね。お支払は既に済んでますので,部屋にご案内致します」
…最悪だ。
僕は今日から仕事の都合で,3日間の出張に来ていた。既にホテルは会社側で手配してあり,その上料金も支払い済み。珍しく良心的だなと思いながら来てみたら…このザマだ。
(期待した自分が馬鹿だった…)
「申し遅れました,私このホテルのスタッフのドイツと申します」
スタッフの人は気を遣ってか,声を掛けてきた。
「はあ…」
正直,名前なんてどうでもいい。
「まぁ…そんなに気を落とされず。エントランスはともかく,部屋はしっかりしてますから。」
もう自分で言っちゃってるよ,この人。エントランスはまともじゃないって。
「ありがとうございす…」
案内される部屋に僅かな期待を込めつつも,僕は曖昧な返事をすることしか出来なかった。
「どうぞ,こちらです」
ま,まともだ…!
案内された部屋は,エントランスとは比べ物にならない程綺麗だった。電球は暖色。壁紙は薄汚れてはいるものの,剥がれてはいない。簡素なベットと机が一つ,加えてユニットバス付き。
正直,あのボロいエントランスを見て,部屋も相当ボロいんだろうなと諦めていた。…全然そんなこと無かった!
「お客様,ルームキーです」
感動に浸っている所,スタッフが声を掛けてきた。あぁ,さっきまで何てテキトーな人だろうと思っていたのに,今では天使のように思える!
「ありがとうございます!」
「いえいえ。ルームキーはチェックアウトする際に返却になりますので,失くさないよう気を付けて下さいね。」
「はい!」
「何か不都合な点がありましたら,スタッフまでお願いします。それではごゆっくり…」
そう言ってスタッフさんは戻っていった。…いつもあのエントランスで過ごしているのだろうか。スタッフルームぐらいあるよな…。…いや,考えるのは辞めよう。とりあえず部屋はまともなんだから,気にしない。
(何だか凄く,疲れた…)
安心からだろうか,一気に疲れが襲ってきた。僕はベットに倒れ込んだ。
(…少し寝よう…)
まだ18時。30分位寝て,起きたら食堂に行こう。そういえば…食堂ってどこにあるんだろう…後で聞きに…行かな……きゃ………
(…寒い。布団…)
もぞもぞと手を動かすと,羽毛布団らしきものに手が触れた。
(あれ…何で毛布が無いんだろ)
いつもは毛布を使っているはず。疑問に思いながらものそりと起き上がる。
(真っ暗…)
明かり,明かりはどこだろう。…いや,それよりも時間は?て言うか,何してたんだっけ…
まだ思考に霧がかかった状態で,手探りでスマホを探し出し時刻を確認する。
「…21時?」
だんだんと思考がクリアになる。そうだ,仕事の都合で出張に来てたんだった。ホテルに着いて,疲れて寝てしまって…。
………。
やばい!!
ちょっと寝る,なんて時間じゃない!!え,18時だったよな?今…今は?21時?3時間も寝てたのか!?いや,流石に寝すぎだろ…。もしかして,見間違えたのか?
縋るような思いで再び画面を確認すると,そこにははっきり「21時」と表示されていた。…ああ,終わった。寝すぎた。アラームをかけるべきだったんだ,馬鹿!
ひたすらに過去の自分を責めるが,それでも過ぎてしまったものは仕方がない。とりあえず,起きなくては。
(まだ食堂…開いてるかな…)
食堂の扉は閉まっていた。営業中は開いているはずだ。…つまり,今日の営業時間は終わったと言うことだ。
(まぁ…当たり前だよな…)
スマホを確認すると,時刻は既に9時半を過ぎていた。
(お腹空いた…)
近くのコンビニに買いに行こうか。でも,真冬だし,外は寒い。それに,ここら辺の事はよく知らないから,途中で道に迷ってしまうかもしれない。
「ああ,もう…!」
諦めるにも,どうしてもお腹が空いて仕方無い。こんなんじゃ,寝ようと思っても寝付けない。
「あの…」
「はい,何でしょう!?」
全く,こんな時に誰なんだ。
「大丈夫ですか」
…えっ?
あまりにも突然で,乱暴な反応をしてしまった。
振り返ると,そこには,一人の少年の姿があった。
「…あ,大丈夫です…」
「…食べるものが無いなら,これ,要りますか」
そう言って,少年は惣菜パンを差し出してきた。まさか,貰えるはずがない。
「い,いや,大丈夫ですよ」
「…そうですか」
必要無い,と伝えると,少年はしゅんとしてしまった。
「…やっぱり,貰ってもいいですか」
少年は,顔を輝かせた。
エントランスの椅子に腰掛ける。貰った惣菜パンを頬張りながら,何故か付いてきた少年の様子を伺う。…改めて見ると,この少年,かなり不思議だ。すらりとしていて端麗な顔立ちをしているが,身長や顔つきにはまだ子供らしさが残っている。着ているものはぶかぶかの薄汚れたパーカー。一体何でそんな格好なのだろう。いや,そもそも少年なのか?多少子供らしいだけで,大人なのかもしれない。
「…おいしい,ですか」
ぐるぐると考え込んでいると,少年は尋ねてきた。
「…はい,とっても。お腹が空いていたので,助かりました。君のお陰です。」
「…良かったです」
少年は恥ずかしそうに俯いたが,その顔は嬉しそうだった。多分,困っている人を助けられたことが嬉しいんだろう。…良い子だ。
…だからこそ。
「…君,名前は何て言うんですか?」
少年は驚いた顔をして,躊躇いがちに答えた。
「…アメリカ」
「…アメリカ君。僕は日本です。君,親御さんは?まさか,子供が一人でこんなとこに来た訳じゃ無いでしょう?」
黙って,再び俯いた。
「悪い事は言いません,今すぐ家に帰りなさい。子供が一人でこんなとこに居ては,危ないです」
暫くの間,沈黙が流れた。
「…子供じゃ,無いです…」
…熟考の末の返答がそれか。
「…何歳ですか」
「それは…」
もごもごと気まずそうに,アメリカ君は口を動かす。
「…15歳」
15歳!15歳だって!?
日本は頭を抱えた。少年…いや,アメリカ君は,想像していたよりもずっと子供だった。
(せいぜいもうすぐ18とか,それぐらいだと思ったのに…!)
(と言うか,嘘でも18歳以上で答えてくれよ!)
「…とにかく,子供がこんなとこに居てはいけません。もしも帰りの交通手段にお金が足りないなら,あげますから…」
一体どうして,まだ中学でもおかしくない年齢の子がここに。
「…嫌です」
「…え?」
「嫌です,帰りません…」
アメリカはそう言い放った。その声は,ひどく思い詰めたような,憎んだような…それでいて,震えていた。
日本は察した。恐らく,家出でもしてきたんだろう。…だからと言って,見逃す訳にはいかない。
「嫌だ,じゃ無いです。帰りなさい。アメリカ君は一人なんでしょう?子供が一人では,何があっても,誰も責任を取れません。」
先程よりも少し強い口調で,日本は言った。
「…嫌です」
それでも,アメリカは折れない。
「…どうしてそんなに嫌なんですか」
「…家出,してきた」
ついにアメリカは,理由を話した。案の定,家出だった訳だが。アメリカは続ける。
「帰りたくない,帰りたくないんです…。お願いです,あそこじゃないなら,どこでもいいんです…」
随分と切羽詰まった様子だ。ほとんど懇願のような言葉に,日本の意志は少々揺らいだ。
「…帰りなさい,まだ,電車もバスもありますから。後で後悔しても,遅いんですよ」
それでも,帰らせなければ。
「…嫌だ,嫌だ!帰りたくない!お願いです,帰りたくないんです!あそこより怖い所なんか無いんです,お願いです!」
…駄目だ。この子は帰らない。帰らせようとしたって,きっと,どこかで逃げ出すだろう。
「…分かりました。帰らなくても良いです。」
その言葉を聞いて,アメリカは顔を上げた。
「本当,ですか」
「はい。」
日本は,警察に言うつもりも,ホテルに知らせるつもりも無かった。
「…アメリカ君,未成年がホテルに泊まるのに,保護者の同意書が要るのを知っていますか」
「…そうなんですか?」
「ええ,必要なんです。」
「…そんな…それじゃ,今日はどこで寝れば…」
全く,この子は何も知らないんだな。
「…アメリカ君。今回は,僕が保護者の代わりをしてあげます。そう言ったら,どうしますか?」
「…えっ,あ!ありがとうございます!」
アメリカは目を輝かせて,礼を言った。
「勿論,保護者ですから,部屋は同室です。一人で泊まる予定だったので,ベットも一つですけど,問題無いですね?」
「はい,ありません…!ありがとうございます…!」
アメリカは心の底から安堵して,顔をほころばせた。
「決まりです。チェックインしに行きますから,着いてきて下さい」
「はい…!」
チェックインを済ませた後,改めて日本は頭を抱えた。…未成年と同室。しかも家出少年。料金上乗せ。日本の胃が,キリキリと悲鳴を上げた。
アメリカはと言うと,窓の外から見える夜景に釘付けだった。全く,危機感の無い。
…まぁ,下手に変な奴に誘拐されたり,襲われたり,帰りたくも無い家に突き返されるより,良かったのかもしれない。そう,自分に言い聞かせた。
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