テラーノベル
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『答える度に』
ー
阿部亮平は、ベッドの上で膝を抱えていた。
窓の外はすっかり暗く、雨が細かくガラスを叩く音だけが部屋に響いている。
机の上には、学校の教科書と 、
すっかり乾いた血が付いているカッター、
包帯の端切れが無造作に置かれている。
亮平は、そのカッターを手に取り、
腕に近付けた。
阿「……」
ザクっ__
阿「ッ、ぃ”…」
不安な事、嫌な事があれば、
自分の腕をカッターで切る。
そうすれば、気分が少し晴れる気がしたから。
ー
その時、机の端に置かれていた
スマートフォンが震えた。
LINEでもメールでもない。
見慣れないアプリの通知だった。
昨日までは確かになかったはずの
アイコンが、そこにある。
恐る恐るタップすると、
黒い背景に白い文字が一行だけ表示された。
ー
【問1】
『貴方は虐めを受けていますか』
【はい】 【いいえ】
ー
阿「…誰だ、これ…っ、」
思わず息を呑む。
心臓が、嫌な音を立てて速くなる。
質問はそれだけだった。
答える欄があり、「はい」か「いいえ」を
選ぶだけのシンプルな画面。
けれど、その簡単さが逆に気味が悪い。
阿「……」
亮平はスマホを握りしめ、
頭の中で答えを反芻する。
本当は、【はい】だ。
廊下で肩をぶつけられ、
机に落書きされ、
靴を隠される。
教科書には落書き。
中には刃物の絵や、
読んでいて吐き気がする言葉まで。
家に帰っても、頭の中にその言葉が
こびりついて離れない。
でも、画面の中の【はい】を押す事は、
何かに負けているようで怖かった。
『もし、これが誰かの悪ふざけだったら』
『もし、答えた瞬間、
それがクラス全員にばらまかれたら』
指先が震える。
亮平は視線を画面から外し、
包帯の巻かれた自分の手首を見つめた。
白い布地の上に、
まだ新しい傷の痛みがうずく。
阿「……」
亮平の指は、【はい】を押した。
黒い画面に再び文字が浮かび上がる。
『回答を確認しました。
明日の同じ時間に【問2】を 送ります。』
それだけだった。
亮平はスマホをゆっくりと机に置き、
背中を壁に預けた。
外の雨音が、いつもよりも冷たく、
長く響いていた。
ー
NEXT→【問2】
コメント
8件
すげぇ…
なにこれ?…… 最高すぎる
おおー!!!すごいやつやーん!!!新しい作品ありがとう!また楽しみが増えた!!!!つづきたのしみにしてるね!