テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
夕方のピザ屋。
店内はそこそこ混んでいた。
オーブンの前でエリオットが楽しそうにピザを回している。
金髪の天然パーマがふわっと揺れる。
赤いバイザー。
にこにこした顔。
「はい、マルゲリータ一丁〜」
客席から拍手が起きる。
「お兄さんうまいね!」
「ありがとー」
エリオットは軽く手を振る。
そのカウンターの端。
チャンスが座っていた。
黒いスーツ。
銀髪。
帽子。
いつも通り軽そうな雰囲気。
だが今日は少し違う。
視線が――
鋭い。
なぜかというと。
カウンターに座っている若い男の客が、エリオットにやたら話しかけているからだ。
「お兄さんさ」
「ん?」
「連絡先教えてよ」
エリオットは笑う。
「ピザ屋の?」
「いや、普通に」
「何に使うの」
「遊ぼうよ」
チャンスの眉がぴくっと動く。
エリオットは楽しそうに笑っている。
「俺、忙しいよ?」
「閉店後とか」
「ピザ焼いてるかも」
「じゃあ食べに来る」
「常連だね」
男がカウンター越しに身を乗り出す。
距離が近い。
チャンスの指がテーブルをトントン叩く。
トン。
トン。
トン。
エリオットは気づいてない。
むしろ客に笑いかけている。
「そんなに俺好き?」
「だって可愛いじゃん」
チャンスの椅子が。
ガタン
音を立てた。
エリオットが振り向く。
「チャンス?」
チャンスはゆっくり立ち上がる。
客の男の後ろに歩いていく。
男は気づかない。
そして――
エリオットが目を丸くした。
チャンスが。
その男のネクタイを。
ぐい
「え?」
男が振り向く。
「なに?」
チャンスは静かに言う。
「それ」
「は?」
「俺の真似」
エリオットが吹き出しそうになる。
男は意味がわからない顔。
「誰だよあんた」
チャンスは軽く笑う。
でも目は笑ってない。
「客」
「なら席戻れよ」
チャンスは男のネクタイをもう一回引く。
ぐい。
「……近い」
「何が」
「店員との距離」
男がイラッとする。
「関係ねえだろ」
その瞬間。
エリオットがカウンターから身を乗り出した。
そして――
チャンスのネクタイ。
ぐい
「……」
店が一瞬静まる。
エリオットはにこにこしている。
「ダメだよ」
「何が」
「チャンス」
笑いながら言う。
「嫉妬してる」
チャンスが固まる。
「してない」
「してる」
「してない」
エリオットはさらにネクタイを引く。
顔が近い。
「してる」
チャンスはため息をつく。
「……うるさい」
横の客は完全に置いてけぼりだ。
「なんなんだよお前ら」
エリオットは笑う。
「ピザ食べる?」
「話聞け」
チャンスは席に戻る。
だが最後に男に一言。
「注文するなら」
軽い声。
「ピザだけにしとけ」
男は完全に引いていた。
数分後。
店はまた普通の空気に戻る。
チャンスはカウンターでピザを食べている。
エリオットが近づく。
そして。
ネクタイ。
ぐい。
「……おい」
エリオットが楽しそうに言う。
「嫉妬」
「違う」
「違う?」
チャンスはピザを一口食べてから言った。
「……ただ」
「ただ?」
「近い」
エリオットは笑った。
「じゃあ」
またネクタイを引く。
「チャンスは?」
「?」
「もっと近いよ」
チャンスは数秒黙って――
小さく笑った。
「……知ってる」
夜のピザ屋。
またいつもの時間が流れていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!