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東京駅を出ると 視界の 全てが ビルで埋めつくされた。
僕は今年北海道の田舎町から東京に進学した。
今は大学の友達と東京観光をしている。
トイレしている友達を待つ間、僕は外に出て東京駅を背に辺りを見渡していた。
そびえ立つ無数のビルの1つ1つに有名企業が何社も入っていることを考えると、その規模の大きさが伺える。
僕の住んでいた町全体の経済活動をもってしても今見えている範囲だけのビルの中で行われている経済活動にすら到底及ばないだろう。
いずれ僕もこれらのビルのどれかに入り、莫大な経済活動を担う一員になっているのだろうか。
今後の大学生活を語学習得などといったスキルアップに費やせばそれも夢ではないだろう。
僕には大学卒業まで3年以上も時間がある。
今から頑張ればどうにだって成れてしまう。
どうやら僕の向上心は周囲のビルに感化され、どこまでも上へ伸びているようだ。
ふと背後から友達の声がした。
振り向く。
目が開く。
深い黒が次第に薄まっていき、部屋の陰影がうっすらと見えてくる。
僕は混乱しながらも思考を巡らせて夢を振り返っていく。
東京駅の外にいた、観光のため、友達に呼ばれた、同じ大学の友達。ここで急に違和感を感じた。
僕は大学生じゃない
僕は自分が浪人生だったことをようやく思い出す。
東京のある大学を志望しているが受験に失敗し続け、今年で4浪目だ。
混乱した僕はベッドを降り窓を開け顔を外に出す。
雪が降っていた。
息が荒くなる。
手が震え出す。
僕は一呼吸置いてから窓を閉めカーテンを下ろす。
冬は受験間近の僕に時間が無いことを知らせて焦らせる。
そういえば季節を感じたのは久々だった。
最後に季節を感じたのは今年の春だった。
受験に失敗してからずっと落ち込まないように堪えて勉強を続けていた中でふと外を眺めると桜が咲いていた。
桜は他の人にもそうするように僕にも新生活の訪れを祝った。
一瞬舞い上がった僕の心は浪人した事実を思い出した途端足を滑らせどこまでも深い奈落に落ちていく。
そうして僕は季節を消去した。
それは最善の選択であると共にトドメの一撃でもあった。
季節が消えると日々の生活はより色を失い、単調なものになっていった。
起きて、机に向かって、寝る。
起きて、机に向かって、寝る。
机に向かっても大して集中して勉強するわけではない。
この生活を繰り返すたびにどんどん生活のサイクルスピードが加速していく。
最初は集中して勉強しないことに焦りを感じていたがいずれこれが日常になり、さらにサイクルスピードが加速していった果てに僕は日常に取り込まれ、日常のサイクルを回すためだけに生きる存在となった。
もはや僕は感情の無い修羅であった。
最近気づいたことがある。
人はいつか必ず日常に取り込まれる。
もし僕が浪人の日常に取り込まれずに大学生になれたとして、堕落した日々が日常になり留年し続けるルートが存在する。
それを回避してサラリーマンなどになって昇進していったとしてもどこかの役職で落ち着き、その役職としての日常が待っている。
東京にどこまでも伸びていくビルが無いように人の向上心もどこかで止まってしまう。
向上心が止まった地点で人は日常に取り込まれるのだ。
朝起きる。
僕は今日も窓から見える、雪が降りしきる町の小さな家々を横目に勉強する。
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