テラーノベル
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――エマたちの人間世界での日々
時計の針は静かに進み、
元の世界から来たエマたちも、少し大人になった。
エマは街の子どもたちに笑顔で絵本を読んでいた。
ノーマンは研究機関で働いていた。
レイは教育センターで小さな子に文字を教えていた。
…でも。
彼らの胸のどこかには、いつも**“空白”**がある。
埋まらない“何か”が、心の真ん中でうずくのだ。
あのとき、扉が閉まる寸前に――
**「行って」**と微笑んで、
シンム兄ちゃんは背中を押した。
レイ「……あいつ、全部知ってたくせに、最後まで何も言わずに」
ノーマン「僕らが泣かないように、笑ってたんだ。あの人らしいよ」
エマ「でも…!でも…!私たち、もう一度ありがとうも、ぎゅって抱きつくこともできなかった…!」
ある雨の日。
エマはベンチに座って、空を見ていた。
「シンムお兄ちゃん。今どこにいるの? 生きてるの?」
「もう誰も…シンムお兄ちゃんのこと覚えてないみたい。あんなに優しくて、私たちのために全部をくれたのに」
「でもね、私たちは…忘れないよ。ずっと、ずっと、ずっと――」
ノーマンは夜遅く、古いノートを見つめていた。
それは脱出計画を書いていたときの記録。
その端っこに、ぽつんと残されたメモがある。
「この紐の使い方、シンム兄ちゃんが言ってた登り方に似てるね」
「“昔、高い木に登れなくて”ってやつ」
「もしかして――あのときから全部、知ってて導いてたの?」
ノーマン「シンム兄さん……君は“僕らを逃がすため”だけに生きてたの?」
レイはふと、棚に並ぶ本に目を留めた。
タイトルは「小さなお兄ちゃんの物語」
ページをめくると――
どこかで見たような、やさしい少年が描かれていた。
レイ「……絵柄が似てる。偶然じゃないよな……?」
3人の視線が、それぞれの空を見つめる。
それぞれの道を歩きながら、
胸の奥にいる――優しくて、どこまでも強い“お兄ちゃん”を想って。
そして、願う。
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