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第22話 守られる場所
ひよりの指先が震えたまま、
陽の袖をぎゅっと掴んでいた。
佐伯の姿はまだ遠くにある。
けれど、ひよりの胸の奥では、
さっき思い出した記憶が再びざわざわと疼き始めていた。
陽はひよりの手を包み返し、
低い声でそっと囁いた。
「……ひより、ここにいなくていい。
移動しよ」
その声は驚くほど落ち着いていて、
ひよりの混乱を吸い取るようだった。
ひよりは小さく頷いた。
足が震えているのに、
陽の手に引かれると自然と立ち上がれた。
陽はひよりの肩に手を添え、
佐伯の視線が届かない方向へと歩き出す。
ひよりは陽の横顔を見上げた。
いつもより少しだけ険しい表情。
でも、ひよりを守るための強さがそこにあった。
「……陽くん……」
声がかすれてしまう。
陽は歩きながら、
ひよりの手を離さずに言った。
「大丈夫。
ひよりが怖がる相手なら、俺が間に入る」
その言葉に、
ひよりの胸がまた熱くなる。
(……陽くん、どうしてこんなに……)
でも、言葉にできない。
言ったら泣いてしまいそうで。
二人が建物の影に入ったところで、
陽は立ち止まり、ひよりの顔を覗き込んだ。
「……さっきの人、
ひよりが思い出したくなかった相手なんだね」
ひよりは俯いたまま、
かすかに頷いた。
陽はそれ以上聞かなかった。
ただ、ひよりの肩にそっと手を置いた。
「ひよりが話せるときでいい。
でも……怖いときは、ちゃんと言って。
俺、ひよりを一人にしないから」
その言葉が胸に触れた瞬間、
ひよりの目に涙が滲んだ。
(……陽くん……)
ひよりは唇を震わせながら、
小さく、小さく呟いた。
「……ありがとう……」
陽は優しく微笑んだ。
「うん。
ひよりが無事なら、それでいい」
夕日の残り香が消えていく中、
ひよりの震えは、
陽の隣でようやく静かになっていった。
#正体バレ
#再会