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刀と殺気を向け、ノクティスと対峙するユキ。
「流石だね。決して流されない強い意思。ますます気に入ったよ」
拒絶と殺気を向けられて尚、ノクティスには僅かな揺らぎすら無し。それ処か、ユキの意に反する答を讃えてすらいた。
「だが、今の君では終わらせる処か、私と対等に戦う事すら出来ないーーっ!?」
その言葉を最後まで言わせる事無く、瞬時に間合いを詰めたユキの刀に依る一閃がノクティスの首を跳ねた。
「ーーっ!?」
が、感触が無い事に即座に気付く。
“残像かっ!?”
捉えたと思われた刃は、何時の間にか避けていたノクティスの虚像。
「速いね。一切の無駄も無い、素晴らしい斬撃だ」
立ち竦むユキの背後で、ノクティスがその一撃を褒め称えていた。だが、それでも感じられるその余裕。
「ちっーー」
“何時の間に!? 速いっ!!”
何時避けたかも解らぬ動きに驚愕を隠せないながらも、ユキはすぐさま追撃。
「フフフ。だが、まだ私には届かないよ」
完全な丸腰のノクティスだが、ユキの繰り出す双流葬舞の連撃は全て空を切っていた。それは完全なるユキの一人相撲が如く。
「その余裕、すぐにーー消してあげますよ!」
何か秘策が有るのか、その刃が届かずともユキは必死に食らい付いていく。
「ーーそろそろ気は済んだかい?」
ノクティスの囁くそれは、戦局は全く変わらないという事。ユキのとてつもない速度の連撃を、全て余裕綽々で躱していた。だが彼(彼女)に反撃の予兆は全く感じられない。何時でも攻勢に転じる事が可能にも関わらずだ。
それは唯一の好機かーー。戦況に僅かながら変化が見られた。
“私の予想を上回りつつある?”
ノクティスは思わず目を見張る。絶対に当たらない、確実に躱した筈の刃。自身の金色の髪が幾何か宙を舞っていた事に。
「やはり君は……」
“今この時にも、とてつもない速度で成長している”
ユキの順応能力の高さに、改めてノクティスは舌を巻いた。その天性。僅かな期間と、その歳で神の領域にまで到達した才気に。
“これは予想以上に早く到達するかもしれないねーー”
刹那の剣閃が縦横無尽に舞う中、ノクティスはユキの強さが予想を超えつつある事に、思わず笑みが溢れた。考えるは神を超えた暁にある、彼の遺伝子を自身に受け入れる情事。
だからだろうかーー
“ーーっ!?”
何時の間にかノクティスの背後に、背中合わせでユキが佇んでいた事に気付かなかったのは。
「予想を上回る処か、私の後ろを取るとは……ね」
振り返らず感心したノクティスの声。戦いに於いて背後を取られる事。それは圧倒的不利状況を意味する。
「だから言ったでしょう? すぐにその余裕を消してあげるとーー」
間髪入れず、ユキは居合いの構えから刃を抜き放つーー
“星霜剣最終極死霜閃ーー無氷零月”
虚無から放たれる絶対零度の刃。しかも第三マックスーー神の領域に突入した事で、絶対零度発動にもタイムラグが無いこの刹那の剣閃をーー
“捉えたーー”
避けられる訳がないと確信を以て、ユキはこの戦いの終幕に絶対的な手応えを感じていた。
ーー虚無なる絶対死の刃は、確かに標的を捉えた筈だった。
「馬鹿な……」
ユキは驚愕するしかない。時間的にも理論的にも絶対に回避は不可能だった筈だ。
“無氷零月をーー虚無から放たれた刃に反応する処か、掴んで止めた……だと?”
それは何事もなく、振り抜いた刀を指で挟む事で止めたノクティスの姿。しかもーー
“絶対零度を……相殺している!?”
全ての分子結合が崩壊する筈の絶対零度に触れて尚、崩壊処か何の侵食も始まらないその不可解さに、ユキは思考が覚束ない。
「……素晴らしい技だ。まさか私に受けを選択させるとはね」
戸惑うユキを他所に、ノクティスは素直にその力を褒め称えた。それでもその余裕の表情は、些かの翳りすら無いが。
「ますます君に惚れてしまったよーー」
“ーーっ!?”
ユキは己の眼を疑う。先程まで眼前に居た筈のノクティスが、何時の間にか自分の背後から抱き締められる様に囁きかけていた事に。
「何としても、君が欲しい」
ユキを背後から抱き締めたまま、彼の耳許でそう囁き耳朶を啄む。
「なっ……」
ユキは微動だに出来なかった。それは己の最終奥義が通用しなかった事のみならず、ノクティスから感じられる自分の想定すらも上回るーー否、そんな次元すら超えた何かに。得体の知れぬ悪寒に。
「さて、このまま君を無理やり“奪う”事も出来る訳だ」
動けないユキを弄ぶかの様に、今度は彼の首筋へ舌を這わせながら、ノクティスの右手はユキの下腹部へと伸びる。
ーーだが、下腹部へと伸びた手は突如止まる。
「ーーと思ったけど、此処では辞めにするよ。本当はすぐにでも君が欲しくて、疼いているのだけどね」
ユキが抗った訳ではなく、ノクティス自身が止めたのだ。
「私は君の身体のみではなく、心もーー全てが欲しい」
ノクティスは耳許でそう告げると、名残惜しそうにユキからそっと離れた。ユキは固まったまま動けないでいる。
「でも、これで君は私の下へ来るしかないという意味が理解出来たと思う。今回は君を知れて良い会談だった。君の大切な彼女達との相談や説得も有るだろう事だし、私は王の間で待っているから、その時に改めて答を聞かせて欲しいーー」
その言葉を最後に、ノクティスの姿がーー気配がこの場から消えた。
“良い返事を期待しているよ。私の愛しき伴侶となる君よーー”
完全に気配が消えて尚、自分の耳許へ囁かれるように聴こえる蠱惑的な声。
「…………」
完全に一人となったユキは、その場で崩れ落ちるかのように膝を付く。
「はぁ、はぁ……」
過呼吸を起こしそうな程の吐息と、青ざめた表情が全てを物語っていた。
「初めて……だ」
それは心臓を鷲掴みされたかの様な恐怖と、絶対的な敗北感。否、最初から闘い自体が成立していなかったという事実に。
“こんなにも……底が知れないのはーー”
彼(彼女)がその力を出すまでもなかったのは、それ程に強さの次元そのものが違う事を、ユキは認めたくなくとも痛感せざるを得なかった。