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「これを」
頭を下げた私の前にそっと差し出されたのは
‘才花へ’
と真ん中にぽつりと書かれた薄いピンクの封筒だった。
「最後に病室で会った成美から預かっていたものです‘もし今後、生きているうちに才花に会うことがあれば、その時に渡して欲しい’そう言ってたから、今だね」
お母さんから?
薄っぺらい封筒を手にして裏を見ても何も書かれておらず、ピッタリと封がされたままだった。
「…今、見るべきなのかな?」
「どうぞ。珈琲でも淹れましょう」
一樹さんが、休憩だというように立ち上がり、広い部屋の隅のポットを確かめている。
私は丁寧に封筒を開けようとしたけれど、ビリッ…
「あ…」
「年季が入ってるからな」
「そうだね」
綺麗に開けられないことを羅依に慰められながら、1枚の便箋を取り出した。
才花へ
これを手にしたということは、元樹さんと会ったということね。
あなたの父親、小松元樹と私は二人の判断で結婚することなく才花を生みました。
才花には苦労を掛ける選択だったけれど、元樹さんにとってもつらい決断だったと私から伝えさせてね。
才花を手元で育てたい思いを、彼は名付けと金銭的援助に変換して才花へ送ってくれています。
才花へ渡した通帳以外に生活費も援助してくれていました。
ただ、会わないという約束は愛情を持って守りながら。
会う時は、才花が父親を何らかの形で求めた時。それが今です。
私も今、二人の側にいます。そしてとても幸せです。
最初で最後かもしれない対面だけれど、元樹さんに会ってくれてありがとう、才花。
今も、これからも才花を愛しています。元樹さんと二人で才花を愛しています。
成美
生きているかのような伸びやかな大きな文字が、スペースを考えるように少しずつ小さくなり、最後の一文はとても大きく書かれていた。
さっと一度読んだあと、その不揃いな行間も同時にゆっくりと読む。
溢れる涙で便箋が濡れないように少し腕を伸ばし、最後にはもう文字が見えないと思ったけれど、とても大きく書かれた
‘元樹さんと二人で才花を愛しています’
はちゃんと読めた。
「…芸術的なバランスだよ、お母さん…ふふっ…」
泣き笑いした声に応えたのは一樹さんで、彼は私にハンカチを差し出してくれた。
「ありがと…ございます」
そのハンカチを受け取るのと交換するように、私は手紙を父へと渡した。
「はい…お母さん…ここにいるって……おとぅさ…ん」
「…っ…才花…読んでもいいのか?」
「うん」
父の声も手も震えていたように感じるのは、自分が震えていたせいかもしれない。
「才花ちゃん、珈琲は入ったみたいだけど水にするか?」
「うん、どっちも」
「オーケー、オーケー、俺に任せて」
タクは立ち上がりたかったのだと思う。
そして、羅依は私の肩が摩擦でやけどしそうなほど擦り続けていた。
コメント
2件
成美さんと元樹さんの2人は心から愛し合っていて、別れてからもその想いは今もずっと変わっていない。そして才花ちゃんへの愛もずっと変わっていない😭 お父さんと呼べて才花と呼べるようになって😭 でも気になることが一つ、通帳以外に生活費もって、しーちゃんから渡された通帳は1冊だったよね?生活費はどこに収められてるの?
お父さん、お母さんの気持ちを受け取れてよかったね。ずっと愛されてたね。