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ーーあれ以来、ユキは本当に穏やかになった。
こっちも嬉しくなる位の笑顔を見せてくれる。
きっと、これが本当のユキなんだろう。
そして、もう一つ変わった事がーー
“もう自分を偽る必要はありませんから”
これまで偽装していた姿、特異点としての本当の姿のままに。
他への接し方は相変わらずだけど、ユキの銀色の姿は徐々に村の皆に受け入れられていると思う。
特にミイのユキへの懐き様ったら、少し妬けてくる位。
それでもユキの不器用で少々焦った様な接し方が、何処か微笑ましくもある。
かつての氷の様な雰囲気は薄れていき、ユキと一緒にいると、こっちまで暖かい気持ちになる。
毎日が新鮮で、楽しくて仕方ない。
どうかこの時が、少しでも長く続きますように……。
でも……この平穏は、何か突然やってくる禍の前触れのようなーー
そんな気がしていた……。
※ここ数日の平穏。
初めから狂座との闘い等、無かったのでは無いか? と思える程、平穏で穏やかな日々が続いていた。
だからこそ、違和感や不安は募るばかりとなる。
知らない処で、何かが確実に進められている感覚。
それは破滅への序章なのかと。
***
その夜の夕食後、ユキはアミの膝上で、すやすやと寝息をたてて眠っていた。
それはこれまで、ほとんど眠る事の無かった時間を取り戻すかの様に。
本当に安らかな寝顔だった。
アミは膝上で眠り続けるそんな彼の白銀髪を、慈愛に満ちた表情で優しく撫で続ける。
異質な迄の白銀色髪。その白銀髪は光に照らされると、美しい迄に輝いて見える程の美麗さを漂わせていた。
穏やかで暖かい時間が、ゆっくりと流れていく。
その穏やかな時間の中、ユキの髪を撫で続けていたアミも何時の間にか、ゆっくりと眠りに堕ちていくのであった。
ある違和感を感じ、ユキは不意に目を覚ました。
“また何時の間にか、眠ってしまったのですね……”
見上げるとアミも膝枕した状態のまま、すやすやと寝息をたてて眠っていた。
「何時もすみません……」
“そしてありがとう”
アミを起こさぬよう起き上がったユキは辺りを見回し、毛布を座ったまま眠るアミに羽織わせる。
“先程の違和感は?”
ユキは窓の外を見る。
ここ何日か、ずっと感じていた小さな違和感。
それが何か形となって感じ、一つの確信となった瞬間だった。
ユキは眠るアミを眺める。
「すぐに戻ってきます」
そう聞こえる事無く囁き、ユキは此処を後にするのであった。
***
「これで全ての情報を送信……と」
集落の外れにある森の木陰で、黒装束を纏った赤い髪の一人の男が、腕に嵌めてある機械の操作をしていた。
「……任務完了」
狂座第四十七軍団長スクはその瞬間、今までの緊張を解き、思わず笑みが零れそうになる。
数日に渡る、完全に気配を消しての調査は流石に骨が折れた。
何より特異点の存在。
戦闘禁止令。
スクはその赤髪をかき上げながら夜空を見上げ、ホッと息を吐く。
残された役目は本部へ帰還するだけ。
近い内にこの地は、一人残らず消滅するだろう。女子供問わず、全員皆殺しの予定だ。
そう思うとスクは自分の功績により、この任務が成功に導かれた事になる事を思うと、自然と心が昂揚していく。
「今までの違和感は、これだったんですね」
そんな心の緩みが、近づいて来る者が自分の近くにまで侵入を許している事に、スクは気付かなかった。
「なっ!」
“何時の間に!?”
スクはその声がした方へと振り返ると、白銀髪をした少年が立っていた。
それは雪一文字を携えたユキだった。
「この私に気配を悟らせず、ここまで接近を許すとは……」
“流石は特異点と謂った所か……”
スクは数日に渡る調査の結果、侍レベルが異常に低く、それに対して異質な迄の雰囲気を持つこの少年こそが、特異点である事を確信していた。
勿論、それらは全て本部へ報告送信済みであった。
「アナタの気配の消し方は流石でしたが、気の緩みが出たのは失策でしたね」
ユキは冷酷にスクを見据えて囁きかける。
「ちっ……」
“どうする? 逃げるか? だがーー”
恐らく逃げられない。逃がすつもりが無い事を、スクは彼の雰囲気で、すぐに察知した。
「全く……」
“見た目は餓鬼だが、こうやって感じる雰囲気は、とんでもない化け物だなコイツは……”
逃げられない以上、闘う以外に道は無い。
スクはサーモの電源を落とした。
下手に測定して、敢えて絶望に浸る必要は無い。どの道、相手は臨界突破の特異点。
とても及ばない事は、測定しなくても雰囲気で一目瞭然。
機械に頼り過ぎると、見えるものまで見誤る事を、良く知っていたスクの判断だった。
“まあいい……”
スクは腰に差した刀を鞘から、ゆっくりと抜き放つ。
特に何の変哲も無い日本刀。
“私の任務は既に完了している。特異点と呼ばれた者との闘いを最後に果てるのも、悪くは無いだろう”