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「私は狂座第四十七軍団長スク、イージ。いざ参る」
スクは刀を上段に構え、ユキを見据える。
「軍団長ですか。確かに他の雑魚とは雰囲気が違いますね」
ユキも雪一文字の柄に手を添え、スクを見据えた。
「ーーそれでも全くの役不足ですが、相手になります」
“見た処、普通の刀の様ですが。軍団長……果たしてどの程度の者か”
狂座の者は、それぞれが皆特殊な能力を持っている事は、前の師団長との闘いで立証済み。
“何かありますね……。相手の出方を待ってみますか”
ユキは自分から攻めず、相手の後の先を取る事にした。
自分から強引に攻め崩す事は、レベル差を考えれば容易だが、初の軍団長クラスの相手なのだから、力量を知る意味と今後の事を考えて、此処は慎重になるべきだと判断したのだった。
“ーー勝つ必要は無い。腕一本。いや、指一本でも構わん。僅かでも奴の力を削ぎ落とし、次へ繋げるのが私の最後の役目だ!”
スクは刀の柄に手を添えたまま、動く気配の無いユキを見据える。
“私の力を今使っても避けられるだけ……。なんとしても奴の懐に入らねば”
スクは一瞬で間合いを詰めようと前進する。
ユキとの距離は三間(約6.5M)
二人の距離が一間まで詰まっていた刹那ーー
“光!?”
危険を感じたスクは防御の構えのまま、瞬時にその場から飛び退く。
刹那ーースクの刀に幾重もの金属音が鳴り響く。
“……今の光は?”
“あのまま間合いを詰めていたら、殺られていた?”
瞬時に防御の体制のまま身を退いたにも関わらず、スクの右肩・左腕・左膝には三つの斬られた跡が残っていた。
「まさかあの光は……」
“ただ奴の抜きと剣速が速過ぎて、光の剣閃に見えただけか!”
スクはその事実を認識した時、心の底から恐怖心が生まれる。
“レベル、いや次元が違う……”
ーー否、恐れるな!
元より勝てる相手じゃない。命を捨ててでも間合いに入るーーそれだけを考えろ!
スクは再び刀を構え、間合い詰めを試みる。
再びユキから抜きが放たれた。
やはりスクの目には、何かが光った様にしか見えない。
だがスクは構わず前進する。
“なんて斬撃の鋭さだ! この私が防御に徹して尚、防ぎきれんとは……”
斬り結ぶ多重の金属音と共に、スクの身体には無数の切り傷が増えていく。
“狙うは奴が攻撃しきった瞬間!”
多数の傷を受けながらも、スクは何とかユキの間合いの内まで侵入する。
“ここだ!”
だがこれはユキにとって、あくまでも様子見。寧ろ誘い。
スクの戦略、企みを知る為に、敢えて“斬”から“突“へと切り替えた。
だが、スクは構わず突きに向かって前進。
ユキは身体を貫く感触をその手に感じながら、ある違和感を感じた。
“今のは……わざと受けた?”
スクの腹部はユキの刺突によって、深く貫かれた状態になっていた。
「ようやく捕まえたぞ……」
“この距離なら避けようもあるまい!”
スクは右手に力を集中する。勿論これは異能の力に依るもの。
右手が紅く輝き、それを一気に解放ーー
「灼牙・炎帝爆」
瞬間ーースクの右手から放たれた、巨大な爆炎がユキを包み込む。
スクは即座に身を退き後退する。
その腹部からは、刺し傷によって流れ落ちる血を手で抑えながら、燃え続ける火柱を眺める。
「この至近距離からの渾身の爆炎なら、誰が相手だろうとただでは済まん」
炎は消える事無く燃え続けていた。
“もしこれで無傷なら化け物……”
そうスクが思考していた時、その火柱は一瞬で凍っていき、その氷の結晶が崩れ、粉雪の様に辺りに散っていく。
「なっ!?」
“無傷……だと? 化け物め!”
ユキは氷の結晶が舞い散る中、何事も無かったかの様に立ち、当然の様にスクを見据えていた。
スクは思わずその姿に魅入られる。
恐ろしいまでに美しき死神の姿を、確かにその眼で見ていた。
「中々良い炎でしたよ」
ユキは無氷でスクの炎を凍結、相殺していたのだった。
「ですが、四死刀ーー“紅焦熱”のカレンの炎には遠く及びません」
冷酷に実力差を告げるユキに、スクは呆然と立ち竦むしかなかった。
「これが特異点の力……」
“ふっ、分かっていた。勝てる筈も無い事など……”
ーーだがせめて一太刀!
スクは刀を手に再びユキに斬り掛かった。
「底も知れた事ですし……送って差し上げます」
ユキは向かって来るスクに対し、居合いの構えを取る。
その鯉口から溢れるは光芒の煌めきーー
“神露ーー蒼天星霜”
――それは超神速の鞘引きから生じる鞘鳴りが音の壁を破り、ソニック・ブーム――所謂、超音速の衝撃波を生み出す。
※星霜剣奥義――神露・蒼天星霜。この技の正体は、不可視なる音の刃。ゆえに避ける事も防ぐ事も不可能。
そして何より、星霜剣の極意は特異能との複合にある。
音の刃に付加される極低温の冷気は、一瞬蒼白の光の奔流となって全てを呑み込み、轢き裂く凍牙となる。
「ぐあぁぁぁぁ!!!」
無数の切り口から鮮血を吹き上げながらスクは倒れ、その血はすぐに凍りついていく。
それでも諦めまいと振りかざしたスクの執念の一撃が、ユキの頬に小さな切り口を残していた。
切り口から一筋の血がユキの頬を伝う。
それを気にする事無く、無表情のまま刀を鞘に納め、倒れたスクを見下ろしていた。