先輩が俺から離れようとしない。
そろそろ戻らないと接客業務に支障が……だが、離れようとすると先輩は強引に俺を求めてきた。
……っ!
今日の先輩どうした。
大胆というか積極的すぎる。
「……せ、先輩」
「――はぁ、はぁ」
呼吸を乱す先輩は……なんだかエロかった。ここまで激しくキスしたことはない。ここまで感情が篭もっていることもなかった。今日は一段と激しくて情熱的。
なんだろう、この感情。
感じたことのない不思議な高揚感。
俺は先輩から“なにか”を貰っている。
恋愛経験が無さ過ぎて分からないけれど、すごく嬉しかった。
「そろそろ戻りましょう。九十九さんに怪しまれますよ」
「そ、それもそうだね……」
先輩は、ぼうっとしながらも俺から離れてくれた。けど、なんだか熱っぽいな。
「大丈夫です?」
「う、うん、大丈夫! この通り、元気だから!」
「それなら良かったです。では、戻りましょう」
お店へ戻ると、親父と母さんが接客をしていた。こちらに気づいた親父が問い詰めてくる。
「柚ちゃんを連れてどこへ行っていた、愁」
「ちょ、ちょっと先輩が体調を悪くしたから……」
さすがに本当のことは言えない。ので、俺は適当な嘘をつくことにした。許してくれ、親父。
「そうだったのか。……フム、言われてみれば柚ちゃんの顔が真っ赤だな。手も震えているし、風邪っぽいな。もういいから、ゆっくりしなさい」
「すみません、オーナー。先にあがりますね」
「無理はしなくていい。ここは自由な『冒険者ギルド』だからね」
確かに先輩は、ちょっと風邪っぽい気がする。むぅ……心配だな。
「先輩、帰ります?」
「ごめんね、愁くん。なんか体調が悪化してきたみたい」
「体は資本です。無茶せず療養してください」
「本当にごめん。じゃあ、わたしはタクシー呼んで帰るから――」
と、先輩はスマホを取り出したが落としてしまい……そのまま倒れた。
「せ、先輩!?」
「…………」
「嘘だろ……先輩、先輩!! 柚!」
体調悪いってマジだったのかよ。倒れるとは思わなかった。無理していたのか?
「お、おい。愁、柚ちゃんが倒れちゃったぞ。救急車、呼ぶか?」
慌てる親父だったが、先輩は「ちょっと腰が抜けちゃっただけなので……」と弱々しい声で言った。……しかしなぁ。
「先輩、万が一があるかもですよ」
「へ、平気。愁くんの部屋を貸してくれる?」
「……俺の部屋ですか」
「うん。風邪だと思うし、きっと治ると思うから……」
「ですが、家の人が黙っていないのでは……」
「いいの。わたしは愁くんと一緒にしたいの」
そこまで言われては断れない。
ここは俺が|漢《おとこ》となり、先輩の看病をするしかないだろ。誰がなんと言おうがな。
「親父、俺は先輩を自分の部屋に運ぶ」
「仕方ないな。ここはもう任せろ。二人は上がれ」
「ありがとう、親父」
親父は『ガハハ!』と豪快に笑う。
理解のある親父を持てて俺は嬉しいよ。
* * *
お姫様抱っこも検討したが、周囲の目を気にして俺は“おんぶ”して先輩を運んだ。
俺はついに先輩をおんぶしてしまった。
体重を感じさせない軽さに俺は、かなりビビった。
先輩、スポンジのように軽すぎだろう。
いったい、何キロなんだ?
40kg台ではありそうだけど……女の子ってこんな軽いのか。
しかも、服越しでも分かる巨乳だから、背中に感触が――いや、今はよそう。
なんとか自室に入り、先輩をベッドへ寝かせた。ふぅ、マジで軽かった。
「……愁くん」
「ど、どうしました?」
「わたしの胸の感触……味わっていたでしょ」
「!?」
「どうしてって顔してるね。あんなに背中を揺らされたら分かるよ」
「……ス、スミマセン。つい……出来心で」
「いいよ。でも、どうせなら……触ってみる?」
「え」
「あはは、愁くん顔が真っ赤になった」
「ぐ……!」
そりゃ触りたいさ。でも、病弱な先輩にそんなことは出来ない。今は、体を治してもらう方が先決だ。
「わたしはいつでも覚悟できてるけどな~」
「人の心を読まないでください」
「だって愁くんの表情って読みやすいもん」
「読心術ですか。先輩、凄すぎでしょ」
「早く同棲したいな」
「いきなり話題を変えないでくださいよ……。まあ、そうですね、お金が沢山必要です。三十万、五十万では足りないでしょう。まず家賃が必要ですし、敷金礼金、家電とか揃える費用諸々で百万円は必要かもですね」
「お父さんに頼めればいいんだけどね……」
「あー、先輩の家ってお金持ちですもんね。やっぱり……難しいんです?」
「うん、通帳は管理されちゃってるから。将来の為にって」
先輩のお父さん、厳しそう――ていうか、厳しいもんな。刀振り回すくらいだし……先輩のお金の管理も徹底的なのだろう。
だから、こうして必死にバイトしているんだ。
……俺も頑張らなきゃ。
「それはそれで良かったです」
「どうして?」
「だって、二人の力を合わせてお金を貯めて同棲とか達成感も違うと思いますし、楽するよりも大切にできる気がするんです」
「そうだね、他人の力を必要とする場合もあるけど……やっぱり、わたしは愁くんと力を合わせていきたい。二人の力で」
俺の右手に恋人繋ぎしてくれる先輩。優しい言葉に俺は涙が出そうになった。
俺はもう……先輩がいないとダメかもしれない。
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