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「俺が兄さんを好き……?」
ラヴァインはアルベドの言葉を繰り返すとその目を丸くさせた。
濁った満月の瞳は、何処か純粋さを感じて、子供のようにも思えてしまった。
だが、彼のやってきたことを考えるとただの子供というわけではない。無邪気故の悪意というのか。兎に角、そんな子供だから許されると言った感じではない。そんなめをしても騙されないと睨みを利かしていれば、ラヴァインはスッと頭を垂れたかと思えば、フッと吹き出すと次の瞬間には高笑いを始めた。
「ハハハハ! 俺が、兄さんを好き? あり得ない、あり得るね!」
と、どっちか分からないような言葉を吐くと、「あー笑った、笑った」と目尻に涙を浮べて首をかくんと傾げる。
アルベドはそんな彼を見て不愉快だと言うように眉をひそめていた。
ラヴァインはアルベドに切り裂かれた肩を押さえながらゆっくりと膝をついて立ち上がる。リースはそれを見て再び剣を抜いて警戒態勢に入った。だが、この状況で彼が何かを出来るとは考えられない。けれど、諦めているようにも思えなかった。
(何かあるんだろうけど、その何かが分かんないから……)
ラヴァインは子供っぽいが、自分を誤魔化すのが上手かった。何を考えているのかその笑みからは分からない。慢心している、だが、慎重でもあるような気がしたのだ。アルベドの弟であるから。
そう偏見を持ちながら、私はラヴァインを見た。すると彼の濁った満月の瞳と目が合い、ゾッと背筋が凍りつくような感覚になる。
「そうさ、俺は兄さんのことが大好きだよ。殺したいほどに、全てを奪いたいほどに」
そう言ったラヴァインの瞳にはやはり狂気が渦巻いていた。
普通の兄弟が、兄に向けるような愛の籠もったものではなく本当に狂気一色と言った感じで。それをどうにかして、愛と名付けたいのであれば、それは狂愛になるだろう。
そんなものを向けられてもアルベドは顔色一つ変えなかった。其れが当たり前であるかのように、アルベドは静かにラヴァインの言葉を受け入れていた。私じゃとてもじゃないけれど受け入れられない。
もしかしたら、アルベドはそんなものを向けられ続けて、感覚が麻痺してしまったのではないかと。
そうだったら、可哀相だと思ってしまった。
リースと同様に、アルベドも何かしら心に闇を抱えているのだろう。
(そういえば、アルベドはリースに信じろって言っていたけれど、それってアルベドがリースを信じているからって事だよね)
私はふと思い出した。以前、アルベドは小さい頃から命を狙われ続けたせいで人間不信になっていたと言ってた。リースもまたそれではないが人間不信であり、どちらとも人を信じれずに孤独を選んで好んでいた。
だからか、アルベドはリースの気持ちが分かるとでも言う態度を取っていたのだろう。
ありがたいことなのか、嬉しいことに、アルベドは私を信じてくれているみたいで、彼の数少ない心を許せる相手だ。同じくリースも私の子とを好きだと言ってくれて、気を許してくれているというか恋愛感情だからまた違うのかも知れないけれど、リースの中で気持ちが落ち着く存在だと私のことを明言してくれた。
私はどちらにとっても、気が許せる相手なのだと。
(似たもの同士、似たもの同士だから、アルベドはそれをいち早く理解して、リースに話しかけたんだろうな)
アルベドはリースのそれを理解していたからこそ、彼なら自分の痛みを分かってくれると思っていたのだろう。だから、アルベドはリースに信じろと言った。自分はリースのことを信じるからという意味も含めて。
それを理解できていないのはリースの方だ。
「殺したいほど、奪いたいほどに……か。お前の考えは全くかわらねえんだな」
「ああ、そうさ! 公爵の座も、全て! 兄さんから奪えるものは全て奪いたい!」
ラヴァインはそう言って立ち上がって両手を広げた。
肩の痛みなどもう気にならないようで、狂ったように笑っている。
私はそんな彼らを見つめることしか出来なくて、もどかしかった。
(でも、口出せること何て何も……)
そう思っていると、いきなりヴンと音を立てて、あの憎たらしいウィンドウが現われた。
「え……何これ」
「どうした、エトワール?」
「え、いや、何でもない」
不思議そうにリースが私の方を向いたので、私は慌てて誤魔化した。彼らには、このウィンドウも好感度も、システム諸々見えないのだから。と私は思い返す。
そうして、何でもないと装いつつ私は現われたウィンドウに目を向ける。
【緊急クエスト:傲慢の貴公子ラヴァイン・レイ】
もう見慣れてしまったウィンドウに呆れつつ、貴公子なんてキャラじゃないでしょとも 思った。だが、今更そんなことを考えても仕方がないので、その文字を眺める。
薄々そうなんじゃないかと思っていたから、その予想があたって少し嬉しくも思う。が、緊急クエストのため気は抜けない。ただ、いつもと違うのはラヴァインが負の感情によって暴走していないと言うことだろうか。理性は残っているけれど、狂気を漂わせているという何とも判別しづらい彼を見て、どうしたものかと思った。
YESとNOのボタンを眺めつつ、私はクエストの報酬が気になって凝視していた。
(アルベドの好感度+15%……と何これ)
クリア条件も??? と表示されているし、アルベドの隣にも??? の好感度+20%とかいてあるのだ。普通ならそこは同じく15%プラスなのだろうが、どういうことだろうと。
クリア報酬はそれだけではなかった。
(一体どういうこと? 好感度の他にもまだ、何か報酬があるの?)
クエストの報酬やクリア条件には無数の? が表示されており、その? にはいるモノが全く予想がつかなかった。嫌な想像はしたが、絶対にないだろうと首を振る。
こんな物語終盤にきて、隠しキャラとかあり得ないだろうと思ったからだ。
もし、隠しキャラが現われたとしてもこれ以上好感度を上げる相手を増やすのも、その相手が必ずよいとも限らない。勘弁して欲しい。
このいかれゲームを作った人に文句を言いたい。一体どういうつもりなのかと。
そもそもに、恋愛を全く出来ないようなエトワールストーリーに隠しキャラとは本当に鬼畜だと思った。私の記憶ではトワイライトのストーリーでは隠しキャラなんて出てこなかったのに。
でも、このクエストを受注しなければならない気がして、私はYESのボタンを仕方なく押す。きっと、七つの大罪をコンプリートするまではこの緊急クエストは続くだろうから。
(まあ、今回はクリアできるとして……後は、嫉妬、暴食、怠惰、色欲……か)
リースが強欲で、ルクスが憤怒、そして今回新たにラヴァインが傲慢と判明した。残り四つで攻略キャラは四人残っているが、今更ルフレが……ということはあり得ない気がして、ブライトも暴走する気配はない。アルベドもその四つには当てはまりそうにないし……
そこまで考えて、一人当てはまりそうな攻略キャラが思い浮かんでしまって、私はまさかね。と首を横に振る。
あのこを敵に回すと厄介な気がする。というか、厄介だ。
腐っても攻略キャラ同士の戦闘は避けたい。どんなスペックで、どれぐらい技術力に差があるのか分からない以上ぶつかったら不味いことは目に見えている。
「エトワール、さっきからどうした? 考え事しているようだが」
「う、うん。まあ、ちょっとね」
リースに不意に話しかけられ、私は焦りつつも適当に誤魔化す。
(そうだよね。リースからしたら急に一人でブツブツ言い出してるように見えるんだろうな)
それはそれで怖い。
リースに変な子だとか思われたくない。
そこまで思ったが、もう既にオタクバレはしているし、いきなり発狂することも、集中しすぎると周りが見えなくなることもリースは知っているので、これ以上悪化することはないだろうとも思ってしまった。
まあ、それはいいとして、このクエストのクリア条件は一体何なのだろうかと。
ラヴァインを倒す、鎮圧するとはかいていなかったため、他の方法なのだろうか。それとも、ラヴァインがこの後暴走してそれを止めることになるのだろうか。
この廊下は静かで、彼の仲間が潜んでいるとは考えにくかった。となると、ラヴァインが魔法で作った隔離空間と言うことになる。それなら、三対一で有利かも知れないとリースとアルベドを見る。あの二人は攻略キャラだし、強いし、と謎の自信が私にはあった。
例えラヴァインが暴走してもどうにかなるだろうという安心感。
(さあ、どっからでもかかってきなさい!)
「何か、エトワール……やる気だな」
結局リースに変な目で見られたのは顔からひがでそうなほど恥ずかしかった。