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広がるような青い空。
どこまでも続く草原の中心に、一本の大樹が立っていた。
それは、世界の感情を司る“守護者の樹”。
人々の心の波を受け止め、静かにそこに在り続ける神聖な存在。
その傍らには、まだあどけない二人のスケルトンの兄弟がいた。
「兄弟!!あっちだよ!この前、あそこらへんに美味しい林檎がなってる木があったんだ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ💦 早いよ……置いてかないでってば……」
年下のほうだろうか。元気いっぱいなスケルトンが走り出し、もう一人が慌ててその後を追う。
「もう!いっつも本ばっかり読んでるからそうなるんだよ!!」
頬をぷくっと膨らませる子どもの顔。拗ねているようで、けれどその瞳は嬉しそうだ。
対して、兄の方はどこかおっとりとして、どこか影を引いたような穏やかな表情を浮かべていた。
「急がなきゃ……美味しいアップルパイにするには、新鮮なうちに林檎を取らないといけないでしょ?」
「うん、そうだね。……僕たちの誕生日だもんね」
「誕生日は、24時間しかないんだよ!! 急げ~~!!!」
二人は笑いながら、草原の中を駆けていく。
風が彼らの言葉を運び、空がそれを祝福するかのように高く澄んでいた。
それは確かに、ただの、平和な時間だった。
───そして、場面が変わる。
「……見つけた」
ふいに響く声。
「こんな所に覗き魔がいるなんてね。バレてないとでも思った?」
静かな空間に、黒い霧が広がっていく。
「そう、キミ。これを見ている“キミ”に話しかけているんだよ」
──
舞台へスポットライトがあたる。その中心に立つのは――ディスピア。
今、彼がこの世界を支配している。
穏やかなオルゴールの音が、静かに劇場を包む。
その旋律はどこか懐かしく、それでいて、底知れぬ不安を呼び起こす。
彼の翡翠の目が、スポットライトに照らされて妖しくきらめく。
「覗き見の趣味を否定するつもりはないけどね。
勝手に“人の過去”を覗かれるのは、あまりいい気分じゃないよ」
彼は肩をすくめる。
観客席に向かって言葉を放つように、くるりと舞台上で一度回る。
「まあ、彼らは気づいてないだろうけどね」
その笑みはどこか芝居がかっていて、けれど、確かな怒りと悲しみが滲んでいた。
「ここまで見てくれたってことは、きっとこの物語を──
“最後まで”見届けてくれるんだろう?」
ディスピアは深々とお辞儀をする。
役者のように、優雅で滑らかに。
「お待たせいたしました。いよいよ物語も最終局面に入ります。
歪んだ世界の、狂った物語。どうぞ最後まで──お楽しみください」
──
**幕が開く。**
「──たとえ、どんな結末になろうとも」
彼の最後の言葉が、オルゴールの終わりに重なる。
舞台の空気が止まり、時間が静かに歪んでいく。
そして再び、幕は下り──
観客がそれを見上げたときには、もうディスピアの姿はなかった。
ただ、どこかでアップルパイの甘い香りだけが残されていた。