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#四季総受け
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土日の辛そうな空白が、冒頭の描写だけでずっしり伝わってきました。「いつもの無表情を張り直す」って一文に、澪さんの痛みと覚悟がぎゅっと詰まっていて胸が苦しいです。芹沢さんの耳元の囁き、あの湿度感…読んでるこっちまでぞわっとしました。誰も気づいていない背後の緊張、本当にうまいなあと思います。最後の細い息が、澪さんの精一杯を物語っていて切ないです。続きが気になります…!
土日の二日間がどう過ぎ去ったのか、記憶が定かではない。
服を着替える気力も起きず、薄暗い部屋の中でベッドに横たわったまま、ただ天井の木目を眺めていた。食事も喉を通らず、喉を潤すために水を数口飲んだ程度だった。
目を閉じれば、あの日体内に注ぎ込まれた熱や、指の感触、そしてあの男の冷ややかな眼光がフラッシュバックする。そのたびに吐き気が込み上げ、体を丸めて息を潜めた。
そうして放心したまま時間をやり過ごしているうちに、容赦なく月曜日の朝がやってきた。
アラームの電子音が部屋に響く。
重い体を無理やり起こすと、全身の関節が軋むように痛んだ。鏡の前に立つと、そこには酷くやつれた顔の男が映っている。入念に髭を剃り、髪を整え、襟元が乱れていないか何度も確認しながらスーツに袖を通した。
「……行くか」
本当は行きたくない。アイツと顔を合わせると思うだけで気が重い。だが、ここで逃げるのはアイツの思うツボな気がして、澪はいつもの無表情を張り直した。
家を出て、満員電車に揺られ、オフィスビルへと向かう。
老舗の小さな会社が入る古い鉄筋コンクリートの建物には、エレベーターなんて上等なものはない。ひんやりとした薄暗い階段を、重い足取りで一段ずつ上り、事務所の扉を開ける。
見慣れたフロアに足を踏み入れると、周囲から「おはようございます、桐島編集長」と声がかかった。
それに短く頷きを返し、自分のデスクへと向かう。
デスクに鞄を置き、PCを立ち上げようとしたその時、背後から静かな足音が近づいてきた。
「おはようございます、編集長」
低く、落ち着いた声。
聞き間違うはずもない、芹沢の声だ。
一度は無視しようとした。だが、そうすれば他のスタッフに何かあったのかと勘ぐるきっかけを与えてしまう。
「……ちっ」
澪は小さく舌打ちをすると椅子を回さないまま、背中で応えた。
「……おはよう」
声は凍っていた。ちゃんと、いつも通りの温度で出た。それだけで、自分を褒めてやりたいくらいだった。
「昨日までの配本状況、共有しておきます。お時間のあるときに、見ていただければ」
「そこに置いておけ」
「はい」
紙が机に触れる、かさり、という乾いた音。それから、ほんの一拍の間。
首筋の産毛が、ぞわりと逆立った。背後の気配が屈み込み、距離が詰まるのがわかる。
「金曜は、ご馳走さまでした」
囁きは、吐息の湿度だけで澪の耳の縁をなぞり、消えた。
(――っ)
ペンを握る指が、白くなる。掌に、じっとりと汗が滲んだ。振り向けば、殴ってしまう。殴れば、あの動画がどうなるかわからない。
「……何の話だ」
「いえ、何でも」
いつもの、控えめで、おどおどした声に戻っていた。履き潰した営業靴が床を擦る音が、遠ざかっていく。
フロアの誰も、気づいていない。氷の編集長のデスクの真後ろで、今、何があったのか。誰一人として。
澪は、そこで初めて、細く息を吐いた。