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急で申し訳ないのですが、ほんまに好きです。作中の世間知らずかつ幼きぐちつぼ少年(魔王)が良すぎて…その描写と砂場さんの言葉選びも素敵で…私は召されました👼陰ながら応援してました、今後も応援してます🫡
「小さな魔王と丸い悪魔」
🧣✕ショタ🌵
3 .🌵視点
「自己紹介がまだだったな。俺はぐちつぼ、よろしくな!」
俺は青くて丸い不思議な生き物、らっだぁに向けてそう言った。最近練習してなかったけど噛まずにうまく言えた。こんなにハキハキ言われたらきっと感動しただろうな!
でもこんな青くてまんまるの生き物なんてどんな本でも見たことがない。最初は話が通じるのか心配だったけど、今もうなづいてる?ような動きをしている。きっと俺の言ってることわかってるんだろう。あとで図鑑ぜんぶ出してきて調べないとな。
「俺、この塔に住んでるんだぜ。ここのことならなんでも知ってるからな、案内するよ!」
俺はランプを拾い上げてらっだぁに言った。ずっとキョロキョロしてるけどきっとここがよくわからなくて怖いんだな?イメージトレーニングはしてきたけどこの塔を案内するなんて初めてだ!俺ははやる心を抑えきれずに階段を1段飛ばしに駆け上がった。
「ここがキッチンだぞ!おふろとかトイレもあるんだぜ」
重たい扉を押し開ける。らっだぁはポヨポヨ歩きながらやっとついてきた。しまった、俺ばっかり急いじゃ意味がない。部屋に入ってくるのを待ってると、らっだぁは内装じゃなくて窓や壁をじっくり見ている。
「こっちも見ろよ。すごいだろ、オーブンもコンロも魔法で火がつくんだぞ!」
らっだぁの手を引っ張ってキッチンの中を見せた。本で勉強したけど、魔石の魔法回路のおかげで誰でも火をつけられる。魔力のない俺でも重宝している。
そんな自慢をしていると、らっだぁはすっと部屋から出て何かを探すようにトイレのドアを見ている。
「そこトイレだぞ?使いたかったらどうぞ」
俺は気を使ったつもりだったけど、らっだぁは慌てたように首を振っている。じゃあなんで見てたんだ?変なの。
上の階を案内しようとしたら、俺の腹が鳴った。そういえば朝ごはんの準備をしようとしてたんだ。
「そうだ!らっだぁもなんか食べるか?俺がつくってやるぞ!」
元気な声で言ったららっだぁはちょっと迷ったみたいだけど、ポヨポヨ歩いてキッチンに入ってきた。
コンロも流しも俺の身長に合うように踏み台を置いてある。らっだぁもそれに乗って俺がパンとかベーコンを切るのを見ている。
「心配すんなよ、俺、料理うまいからな」
見られているとちょっと緊張した。誰かの前で料理なんてもちろんしたことない。パンもベーコンも二切れ切るのは初めてだった。初めてづくしで、でも俺はらっだぁを心配させないようにニコニコしながらオーブンを開けた。ま、嬉しくてニヤニヤが止まらないんだけどな!
二片のパンが並んで焼けた。今までで絶対に一番キレイなきつね色だ。ベーコンもフライパンの中でジュウジュウ焼けている。二切れ焼くとこんなに油が出るなんて知らなかったな。
「らっだぁ、棚からお皿とれるか?好きなのでいいぞ」
頼んだら踏み台からピョンピョン飛び上がって青い縁取りの丸い皿を出してきた。こんな皿うちにあったんだな。しっかり洗ってパンを乗せた。
もうほとんど完成だったのに、ケースを開けて俺は驚いた。バターがない。俺一人なら十分だけど、らっだぁの分がない!
「ちょっとまってて、とってくるから!」
バターがないパンはとっても悲しくなる。俺は急いでランプに火をつけて、1階へと駆け下りた。玄関の横の箱に入っていた食料品をカゴいっぱいに移し替えて、階段を駆け上がる。
「らぁ?」
俺が急にたくさんの食材を持ってきたのを見てらっだぁはたぶん不思議そうな顔をしている。
「ん?これか?らっだぁのほうがわかるんじゃないか?」
俺のほうが不思議だ。問い返すけどやっぱりよくわからないような顔をしている。
「なんだよ、らっだぁがころがってたところ!あそこに「くもつばこ」があるんだ」
「らぁ」
「あそこに定期的にごはんが入ってるんだ。パンとか、卵とか。他にもほしいものを紙に書いて入れて待ってるとそのうち入ってたりするんだよ」
「らっ……?」
らっだぁはきょとんとしている。あれ、もしかしてあんまりよくわからないのかな。
それよりもパンが冷めちまう。冷めたパンに乗ってるバターほど寂しいものはない。俺は急いでたっぷりのバターを2人分のパンに塗った。
「いつも上の部屋で食べてるんだ。……持てるか?」
皿は何枚かあるけどトレイは1つしかない。水を入れたコップとりんごは俺のトレイに乗せたけど、らっだぁは器用に頭の上にパンの皿を乗せて歩いてくる。まんまるなのに、すごい!
窓の外は絵に描いたような青空で、世界もこの日を歓迎してくれてるみたいだった。
「さぁ、すわってくれよ!この日のためにあけてたんだ!」
自分の席にトレイを置いて、俺は胸の高鳴りを抑えきれずらっだぁを見た。きっと俺の目は星みたいにキラキラしてて、キラキラがこぼれ落ちる音が聞こえるほどだった。
俺の向かいの席。いつかもう一人が座るための席。いつもピカピカに掃除して待ってたんだ。
俺が頭に乗せたお皿を受け取ると、らっだぁはボールみたいにはずんで椅子にぴょんと座った。なんだそれ?!すごい!!
「よーし!いただきます!」
俺が手を合わせると、らっだぁも少し戸惑ってから手を合わせた。パンを手にとって、口に……待てよ、こいつ口はどこなんだろう。なんか、ら?みたいな部分に吸い込まれていくけど。身体がモグモグ動いてるから多分食べてくれてるんだろう。
「おいしいか?」
「ら!」
「これからずっとトクベツな日だから。らっだぁもハチミツ使っていいからな、そこのポットだよ」
うながしたらポットからスプーンで取ってパンにかけている。ベーコンをわざわざ避けたってことはハチミツベーコンは嫌いなのか?あんなに美味しいのに、嫌いなやつがいると思わなかったから俺はちょっと驚いた。
前を見ると俺以外の生き物が一緒に朝ごはんを食べている姿がすぐ目に入る。それだけじゃない、この塔の中に俺以外の声がある。暖かさがある。
らっだぁはナイフとフォークを器用に使って、俺が作ったご飯を食べてくれている。俺もパンを食べ進めた。バターもハチミツもベーコンも、幸せの味で口の中がいっぱいだった。
なのに、急にパンがしょっぱくなってきた。視界が溶けたみたいにぐにゃぐにゃになる。ふやふやの視界の向こうでらっだぁが俺を驚いたように見ている。
「ッ……?ひぅっ……」
熱いものが頬をダラダラ流れる。鼻の奥がツンと痛い。パンを皿に落として俺は涙を拭った。それでも全然止まらない。
わけがわからない。胸が苦しくてとても痛い。たくさんの感情で身体が弾け飛びそうだ。
「らー……?」
らっだぁの心配そうな声が聞こえた。笑おうとしたのに顔がクシャクシャになる。
「ひぐッ、はじめて……ッ、いっしょ、ンぐっ、だれか、たべ、はじめてッ……!!」
「らっ…?」
「かなし……な゛い、ちがッ、ん゛んぅッ」
悲しいんじゃない。泣いたら悲しいって思われる。こんなに嬉しいのに。伝えたい言葉は涙に押し流される。
あの絵本を読んだときのことを思い出した。あの時もわけもわからず泣いたけど、あの時とは違う。嬉しいんだ。こんなのおかしい。嬉しいのに涙が止まらないんだ。
不意に頭の上に何かがぽんと乗った。隣の椅子に乗ったらっだぁが手を伸ばして俺の頭を撫でていた。
「うう〜〜っ、わ゛ぁぁァアッ!!」
とうとう何も考えられなくなって、俺は声を上げて泣いた。
頭の上に誰かの手が乗ってるだけ。ただそれだけなのに、なんでこんなに救われたような気持ちになるんだろう。
じんわり伝わる暖かさがどうしてこんなに愛しいんだろう。
わんわん泣いてるうちに急に眠くなってきて、俺は椅子に座ったまま寝てしまった。