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#恋愛
ばたっちゅ
20,092
#誓い
耀聖(ようせい)
381
第九十二話 守った理由
「……守ると決めた理由」
少年は、最後に届いたメッセージを見つめていた。
『その人を守ると決めた理由だった。』
今まで何度も、事故の日の記憶を追いかけてきた。
どこにいたのか。
誰といたのか。
何を渡そうとしていたのか。
けれど、肝心なことだけは分からなかった。
――なぜ、自分はその人を守ろうとしたのか。
「戻ろう」
彼女が言った。
「どこに?」
「さっきの場所。あの空き地」
少年は頷いた。
二人はもう一度、戻った。
空き地には何も変わったところはない。
雨の記憶だけが、少年の中に残っている。
彼は目を閉じた。
「……あの日」
ゆっくりと思い出していく。
「俺は、あの人と話してた」
青いリボン。
聞き覚えのない声。
そして、あの約束。
『戻ってくるから』
『待ってる』
「そのあと、俺は一度離れた」
「何をしに?」
「……何かを取りに行った」
少年は眉を寄せた。
「違う」
「え?」
「何かを取りに行ったんじゃない」
記憶の中で、
自分が誰かに向かって手を伸ばしている。
その手には――
銀色のチャーム。
そして、そのチャームを相手に渡そうとしていた。
「……これを渡すためだった」
彼女がチャームを見る。
「でも、今も持ってるよね」
「うん」
少年は苦しそうに笑った。
「だから、渡せなかったんだと思う」
そのとき、彼女がチャームの裏側を指した。
「待って」
「ん?」
「さっきの文字」
裏側には『戻る場所』。
その下に、小さな傷がある。
少年はライトを当てた。
すると、今まで見えなかった文字が浮かび上がった。
『返すためじゃない』
「……返すためじゃない?」
二人で顔を見合わせる。
その言葉を見た瞬間、少年の記憶が揺れた。
『これ、持ってて』
『嫌だ』
『どうして?』
『あなたが戻ってこないかもしれないから』
そこで記憶が途切れた。
少年は息を止める。
「……そういうことか」
「何が?」
「俺は、チャームを渡そうとしたんじゃない」
彼女は黙って聞いている。
「預けようとしたんだ」
「誰に?」
少年は答えようとした。
けれど、その瞬間――
頭の中に別の記憶が浮かんだ。
青いリボンの人。
その人の表情。
泣いていたわけではない。
怒ってもいない。
ただ、不安そうにこちらを見ていた。
そして自分は言った。
『これがあれば、俺が戻るって分かるから』
「……」
少年の目が見開かれる。
「俺……」
声が震えた。
「その人を安心させたかったんだ」
彼女が静かに尋ねる。
「守ろうとした理由は、それ?」
少年は首を横に振った。
「まだ違う」
何かが足りない。
なぜ、そこまでして安心させようとしたのか。
なぜ、自分はその人を置いて戻ろうとしたのか。
そして、なぜ事故の後、
その人の存在まで忘れてしまったのか。
そのとき、彼女が地面を見た。
「これ……」
足元に、小さな透明なケースが落ちている。
中には、古い紙が一枚入っていた。
少年が拾う。
紙には、短い文章。
『守るということは、そばにいることじゃない。』
その下に続いている。
『離れていても、戻ると約束できること。』
少年の指が止まった。
「……俺が書いたのかな」
「分からない」
「でも……」
少年は紙を握った。
「この言葉、知ってる」
また記憶が戻る。
事故の前。
誰かと向き合っている。
『怖い?』
『少し』
『じゃあ、どうする?』
『……戻る』
『本当に?』
『約束する』
そして自分は――
『忘れても、探すから』
と言った。
少年はゆっくり目を開けた。
「……全部、同じ約束だったんだ」
「うん」
「戻ること」
「うん」
「待つこと」
「うん」
「忘れても探すこと」
少年はチャームを見つめる。
「全部、その人を安心させるためだった」
その瞬間、スマートフォンが震えた。
また知らない番号。
今度のメッセージは一つだけだった。
『そこまで思い出したなら、次は「なぜ忘れたのか」を知る番だ。』
少年は画面を見つめる。
続く一文。
『その答えは、病院にある。』
彼女が息を呑んだ。
「病院……」
少年も頷く。
事故のあとに残された記録。
面会者。
「本人には、まだ伝えない」
そして――
自分が忘れた、もう一人の存在。
少年はチャームを握りしめた。
「行こう」
今度は、迷いがなかった。
事故の日に何があったのか。
誰を守ろうとしたのか。
そして――
なぜ、その人の記憶まで消えてしまったのか。
その答えは、
事故の後に残された病院の記録の中にある。
コメント
1件
第92話読みました。チャームの裏の「返すためじゃない」って彫り、あれが効いてるなあ。預けることで相手を安心させる——その逆説がじわじわくるんですよね。「離れていても戻ると約束できること」っていう紙の一文も、設定好きとしてはたまらなかった。記憶のピースがひとつずつ合わさっていく手応えが気持ちいい。次は病院か……「なぜ忘れたのか」の答えが気になります。