テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
前回の続き
ライブ翌日。
仕事の合間、少しだけ空いた時間。
控室の隅。
人はいるけど、誰もこっちを見てない距離。
柔太朗がスマホを見てると、
隣に、はやちゃんが腰を下ろした。
「……なあ」
低い声。
「ん?」
顔を上げた瞬間、
はやちゃんがこっちを見てるのに気づく。
視線、逸らせない。
「昨日さ」
一拍。
「あの日のこと、忘れてないよな?」
心臓が、どくっと鳴る。
「……忘れるわけない」
即答だった。
むしろ、
忘れようとしても無理だった。
はやちゃんは少しだけ息を吸って、
声をさらに落とす。
「だよな」
それから、
言葉を選ぶみたいに、ゆっくり続けた。
「俺も忘れてない」
柔太朗の指先が、無意識に握られる。
視線が、まっすぐ。
「勢いでもない」
一度だけ、目を伏せて。
「……ずっと、言うタイミング探してた」
その瞬間、
柔太朗の中で全部が繋がった。
目が合うたび。
距離の取り方。
信頼みたいな優しさ。
「柔太朗」
名前を呼ばれて、
胸がぎゅっとなる。
「俺、お前のことが好き」
静かで、
でも迷いのない声。
「アイドルとか、立場とか」
「全部わかった上で、それでも」
一歩、近づく。
でも触れない。
あの時と同じ距離。
「一緒にいたい」
柔太朗は、しばらく何も言えなかった。
それから、小さく笑った。
「……ずるい」
「何が」
「そんな言い方」
目が潤みそうで、
でもちゃんと見る。
「俺も」
短く、でもはっきり。
「はやちゃんのこと、好き」
一瞬、はやちゃんの目が揺れた。
「……ほんとに?」
「疑うなよ」
少し照れたまま、
でも逃げない。
「忘れてないって言っただろ」
はやちゃんは、
小さく笑って、うなずいた。
「じゃあ」
声が優しくなる。
「これからは、忘れなくていい」
控室の外から、
スタッフの声が聞こえる。
「次、移動しますー!」
「……行こ」
はやちゃんが立ち上がる。
その前に、
誰にも見えない角度で、
柔太朗の耳元にだけ、囁いた。
「昨日より、ちゃんとした意味でな」
柔太朗は真っ赤になって、
でもちゃんと頷いた。
「……うん」
触れなくても、
もう伝わってる。
あの日のことを、
忘れなくていい理由ができたから。