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ガラスの靴の選び方

2 - 第2話 第1章「偽りの好意」その2

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2021年10月07日

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第1章「偽りの好意」その2

綾咲姫乃との衝撃的な知り合い方をした、数日後。修介の元に、正式な「脚本提供依頼」が来た。

修介は「作品制作」の時間を使って、時折俳優コースの定期課題の練習に付き合うことになった。

実は修介の他にも脚本提供者はいたのだが、脚本家として、つまり演出協力も込みで参加するのはかなり少数らしい。

『ぜひぜひ、演技に関する意見とか、脚本の意図とかちゃんと聞きたいな!』

姫乃からそう言われてしまえば、断れるはずも――断るはずもない。

そうして、俳優陣のメンバーが決まったと知らせを受けたこの日、修介は顔合わせに呼ばれていた。

「……居心地が、悪い」

思わず今の感想を呟いてしまった修介の声は、広い室内に消えた。

多目的棟、と称される建物にある、練習場の一室。

演劇・映画学科共通で使用される場所で、声を出したり大きなものを運び込んで広げたり、様々な作業をするに使われる建物だ。

今修介がいるのは、その二階にある部屋。二〇一と番号が振られており、中には椅子以外何もない。そのため無駄に広く、張り切って一番乗りで到着した修介にとって、時間を潰しづらい場所であった。

 そんな中、開け放たれていた扉から、ゆっくりと人影が入ってきた。

「あれ、ゴンゴンじゃん」

一茶隆文。ジャージ姿でもアクセサリーは健在で、ザ・チャラ男感は健在である。

「ここにいるってことは……もしかしてこの前白石に呼び出されてたのって」

「そういうこと、みたいでさ」

修介が頬(ほお)をかいていると、「へー」とのんびりした足取りで近づいてくる一茶。チャラついた外見に反して、察しが良い。

「じゃあ今回演出がつくってか。面白そうじゃん」

「演出って言っても、俺今まで脚本書いてただけだから……大したことできないけど」

「まぁそう言うなって。楽しみにしてっぞー」

にやにや笑う一茶。無駄にハードルを上げられ、修介は自分の胃がきゅっと収縮した気がした。

「今日、何人くらい来るんだろ。一茶、知ってる?」

「んーと、確か……姫ちゃん、こうちゃん、あいちゃん、りっちゃん、ゆみりん、なおっち……で、オレだから、七人だなぁ」

修介には「姫ちゃん」以外の呼び名が誰なのかさっぱりわからなかった。あと姫ちゃんってなんだ馴れ馴れしい。

そんなことを話していると、部屋にまた人影が現れた。

上下のジャージをきちんと着こなす姿は真面目そうだが、野暮ったくはない。華やかな目鼻立ちをしているので、クール系イケメンといった感じだ。

「お、あいちゃんこっちこっち!」

一茶が手招きする。

(あいちゃんって、男かよ……!)

修介は心の中で、全力で叫んだ。

現れた「あいちゃん」は一茶の姿を見つけると、嫌そうに眉間に皺を寄せる。しかし部屋に一茶と修介しかいないためか、二人の元へやってきた。

「何だよその顔よー。カンジ悪いんでない?」

「お前と一緒だと思うと今から疲れる」

ため息をつくと、「あいちゃん」は修介に目をやった。

「はじめまして。俺は二年一組の相瀬春哉(あいせはるや)です」

「ああ、だからあいちゃん……」

瞬間、「あいちゃん」こと相瀬の目が細くなった。「その呼び方はやめろ」というプレッシャーを誤魔化すために、修介は続けた。

「俺は……二年六組の権堂修介、です。よろしくお願いします」

「六組……?」

「脚本と、演出協力に入ることになったので」

「ああ……そういえば綾咲がそんなこと言ってたか」

相瀬は、合点がいったとばかりに頷いた。

「そういや、あいちゃん一人なん? 相方は?」

「あとで来る。それと、俺はいつもあいつと一緒なわけじゃない」

「えー、一緒じゃんかー。俺とこうちゃんが盛り上がってると嫌そうな顔してさー」

「お前が鬱陶(うっとう)しいだけだ」

決して修介も一茶が嫌いなわけではないが、相瀬の言葉にはこっそり同意した。悪い人間ではないが、確かに鬱陶しいときもある。

「――ここぉ、綾咲さんのグループが使う部屋であってますかぁ?」

廊下の方角から声がして、三人はそちらに顔を向ける。入り口に立っていたのは、二人の女子生徒だ。

一人は、ジャージの下から豹柄の派手なシャツが覗いている。笑みを浮かべる顔つきも派手な感じで、どことなくしなを作っているように修介には思えた。声の主は彼女だろう。

もう一人は対照的に、控えめで落ち着いている。大人しい小動物といった感じだ。

「ああ、あっている」

「あれぇ、相瀬くん一人なんて珍しいねぇ。香島(こうじま)くんは一緒じゃないんだぁ?」

「ほらー、やっぱりあいちゃんとこうちゃんはセットなんだって」

それ見たことかと胸を張る一茶。その間に、女子二人は三人の元へ歩み寄る。

すると。

「な、ゴンゴンもそう思うっしょ?」

と急に修介に振ってきた。

(どうしてそこで部外者同然の相手に話を振る!? さっきの察しの良さは何だったんだ!?)

と内心で叫んでいると、女子生徒二人が修介を見た。

「……誰?」

冷ややかな言葉と共に、派手な女子生徒が顔を顰(しか)める。不愉快極まりないとばかりの表情は、さっきまで相瀬や一茶と話していたときとは雲泥の差だ。

「うちの脚本担当するゴンゴンだよー」

「おまえ……その紹介はどうかと思うぞ」

「に、二年六組の権堂修介です」

「ふーん」

「あ、私は森田優美(もりたゆみ)。よろしくね」

投げやりな相槌に被せるように、落ち着いた雰囲気の女子――森田が自己紹介した。

「で、こっちが坂本理恵(さかもとりえ)。私たち同じ二年三組なんだ」

それより、今日顔合わせなんだよねぇ? 綾咲さん遅くなーい?」

せっかくの紹介を華麗にスルーし、派手な女子――坂本は、好き勝手喋り始めた。

一茶は「でも時間まだ早いけどねー」と普通に会話を始めている。隣で相瀬がため息をついていた。

華やかな人たちの反応なんてこんなもんだろう。修介が内心で肩を竦(すく)めていると、視線に気づいた。

森田だ。小さく手をあげて「ごめんね」とでも言うように頭を下げている。

少しだけ、救われたような気がした。

「ちょっと優美ぃ、聞いてるのー?」

「聞いてる聞いてる」

だがすぐに坂本に呼ばれ、俳優コース陣の会話に入ってしまった。

自分の他に四人いるはずの空間に、ぽつんと一人になったような気分になる修介。

こういう役回りだからべつにいいけど。修介は半ばやけくそになりながら、意識を四人から外した。

「――派手なやつらに関わることになっちゃったなぁ」

「ぅわっ!」

横からの突然の声に、修介は飛びのいた。

隣にいたのは、ジャージ姿の男子生徒だ。そこまで華やかな印象はないが、人好きそうな顔つきだ。

「そんな驚くことないだろー。あ、俺、直木浩一(なおきこういち)。あの女子二人と同じ二年三組」

「俺は」

「二年六組の権堂修介。今回の脚本担当だろ」

「聞いてたのか?」

「まぁね。性格上、ついこそこそしちゃうタチでさ。俺地味だし」

「べつにそんなことないと思うけど」

と言いながら、相瀬や坂本とは違い、今自分は敬語ではないことに気づいた。地味かどうかはともかく、三人より親しみが湧いたのは事実だ。

「気ぃ遣わなくていいって。自覚してるから。まっ、地味だからこそできることってもあるんだぜ」

親指を立て、にかっと歯を見せて笑う直木。その顔は輝いていて、それが強がりでも何でもなく、本当にそう思っていることが伝わる笑顔だった。

この前向きさ、見習うべきだろうか。修介は真剣にそんなことを考えた。

「はー、とりあえず横暴そうなヤツがいなくてよかったわ。これからよろしく」

「こちらこそよろしく」

「脚本、楽しみにしてっから」

確かに他のメンバーよりは地味なのかもしれないが、いいやつだ。直木の親しみやすさに、修介はほっとした。

さらに直木が何か言おうとしたところで、

「あ、なおっちいつの間に来たんー?」

「いたんなら声かけなさいよぉ」

うるさい二人が、直木の存在に気づいた。苦笑した直木は「悪ぃわりぃー」と言いながら輪に入っていく。

あの中では地味でも、彼も同じ俳優志望。やはり入っていくことは造作もないようだ。

再び孤独に逆戻りか――そう思ったとき。

「――ほんっと一緒にやってくれるって言ってくれてよかった!」

絶望的孤独に舞い降りた、天使の声。四人の話し声に阻まれることなく聞こえた声に、修介の顔は瞬時に引き寄せられた。

廊下から入ってきたのは、ふわりとした嬉しそうな笑顔を携えた――綾咲姫乃。

この状況での唯一の救い。そう修介が思ったとき。

そんな姫乃の笑顔は――彼女の後ろから続く男子生徒に向けられていることに気づいた。

イケメンだ。どう足掻いてもイケメンにしか見えない。

整った顔立ちに、爽やかな笑顔。清潔感があり、どこかキラキラ輝いてすら見える。一茶も相瀬もかなりカッコイイし華やかだが――存在感が違う。

「お姫様に誘ってもらえるなんて、僕も光栄だよ。君のような、ステキな舞台にしようね」

お姫様。なんて歯が浮きそうなセリフ。だが彼が口にすると、それが摂理だとでも言わんばかりに、自然だった。

爽やかで品があり、煌びやか。まさに「王子様」とでも言うべき存在ではなかろうか。修介は呆然としていた。

「わたしのようなって何よもー! お世辞言ったって何も出ないんだからね!」

姫乃は言葉の割に嬉しそうだ。それはもう、本当に。

修介がこっそり衝撃を受けていると、相瀬が雑談の輪から抜け、最後に現れた姫乃たちを出迎えた。

「やっとお出ましか――理央(りお)」

「やぁ春哉。待たせたね。他の誘い断るのに手間取っちゃってさ」

「大人気だったもんね、香島くん。でも本当によかったの? わたしの誘いに乗っちゃって」

「もちろん。そりゃ他のお姫様や王子様からの誘いも捨てがたかったけど……今回は綾咲姫と演じたいって思ったからさ」

「まぁ、あれだけよく見ている人と一緒に演じるなら、やり甲斐もあるからな」

「ここだけの話、綾咲さんだけなんだよ? 春哉が認めた誘いって」

「そうなの!? ありがとう、相瀬くん!」

「べつに……やるんなら、やる気あるヤツとやりたかっただけだ」

当然のように、三人で会話が始まった。

「一組の香島理央だ。うわ、あんな有名人まで引っ張ってきたんだ」

直木が呟いた。有名人らしいが、同じ階にいるはずの修介はその名を初めて知った。やはりクラスが離れていて、かつコースも違うと接点は薄い。

とはいえ、あんなに存在感のある人間の存在に気づかないというのはどうなんだ。と、修介は自分の注意力に呆れた。

「すごいなー、綾咲さん。かと思えば俺みたいなのも誘うし」

「姫ちゃんが本気出したら、みーんな口説かれちゃうっしょ」

「そ、そうなのか?」

訳知り顔の一茶に恐る恐る尋ねる。そんな修介の様子を知ってか知らずか、のんびり一茶は述べた。

「姫ちゃん、かなり俳優コースの生徒研究してっからねぇ。クセとか良いところとか、細かいところまでよっく見てるから、そりゃ口説かれればイヤな気分にはならないね」

「た、確かに……あれだけ熱心に『一緒にやりませんか!』って言われると、ちょっとその気になるよなぁ」

しみじみ頷く直木に、一茶は「だしょダショ?」とさらに頷きで返した。

その様子を見ながら、修介は自分が誘われたときのことを思い出そうとする。

――誘われたことに浮かれて、姫乃自身の言葉を聴く前に話が終わってしまったことを思い出し、肩を落とした。

だからだろうか――一瞬、修介は不穏な空気に気づいた。

「――遅いよぉ綾咲さぁん。さっさと顔合わせ始めようよぉ」

声は明るいが、どこかトゲのある声。その主に目を向けると、坂本が腕を組んで立っている姿が目に入った。

「あ、ごめんね、待たせちゃって。でもこれで、全員揃ったね!」

姫乃はその空気を感じなかったのか、笑顔で手を挙げる。

その手首には、銀のブレスレットがついている。

ガラスの靴と「ⅩⅡ」の形のチャームは、シンデレラを彷彿とさせた。間に散りばめられた小さな石と、「H・A」のチャームもキラキラしている。

目を引くブレスレットだ、と思う修介を尻目に、他の人たちは姫乃に注目していた。

「みんなたぶん初対面だろうから、紹介するね!」

そう言いながら、てくてく歩き出した姫乃は――修介の隣で足を止めた。

「二年六組の、権堂修介くんです。今回、わたしたちのグループの脚本と演出のお手伝いをしてもらおうと思ってます!」

「え、その人演出もやるの? 大丈夫なのぉ?」

今初めて聞いたようなリアクションの坂本に、しれっと一茶は述べる。

「べつに問題ないっしょ。脚本って演出の勉強もしてるはずだし」

「そうかもしれないけどさぁ……」

坂本の視線が痛い。「まぁまぁ」と宥める森田がいなければ、誰かの背中に隠れたくなっていただろう。

「だいじょうぶ! だって権堂くんの脚本面白いもん!」

――予想外なところで、ストレートな言葉入った。

「だから、どうせやるなら脚本書いた本人の演出のほうが、きっといい演技になると思うんだ! だから他のグループとは違って、無理を言って権堂くんに協力してもらいました!」

煌びやかで遠い、俳優たちの世界。自分とは住む世界が違う――そんな疎外感を感じていたはずなのに。

姫乃の言葉が――修介の中のわだかまりを溶かしていく。

「――二年六組、権堂修介。ぜんぜんダメなところも多いけど……改めて、よろしくお願いします!」

気がついたときには、自分でも驚くほどの声量で自己紹介した後、腰を折って頭を下げていた。

(――綾咲さんの言葉に報いるためにも、頑張るしかない!)

そう思いながら睨んだ床に、影が差す。気になって修介は顔を上げた。

「――こちらこそよろしく。綾咲姫の騎士(ナイト)くん」

慈愛(じあい)と尊敬に満ちた――香島理央が立っている。

そしてその直後、片手を奪われ握られていることにも気づいた。

挨拶の握手――その手は、優男(やさおとこ)な見た目通り、少し細く感じた。

「偽りの好意」その3へつづく。

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