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(もう、本当に次から次へと……)
「アルベドこそ、何でここにいるのよ!」
「いちゃ悪いみたいな言い方すんなよ。俺だって、別に来たくて来たんじゃねえし……って痛い、殴るな!」
いきなり現われたアルベドに握った拳で叩きに行けば、アルベドはやめろ、と顔をしかめた。
ラヴァインと言い、アルベドと言い、何でレイ公爵家の人間はこんなに自由なのか。私達の前に姿を現す頻度が多いのか気になって仕方ない。本当につけられているんじゃないかって錯覚するからやめて欲しい。
ブライトも、グランツも何でここにいるんだみたいな顔しているし、まず説明が欲しかった。
「それで、何でいるのよ」
「こっちが聞きええぐらいだよ……ったく、その様子じゃさっきまでいたんだろ? 彼奴が」
「彼奴って、ラヴァインのこと?」
「そいつ以外に何奴がいるんだよ」
と、アベルドは怒鳴りつけた。そんなに大きな声を出さなくてもいいじゃないとむすくれれば、アルベドはふんっと鼻を鳴らしていた。
でも、今の説明はかなり分かりやすかったのでよしとする。
ラヴァインを追ってここに来たアルベドは、たまたまラヴァインと対峙していた私達と会ってしまっただけ、とそういうことなのだろう。何故アルベドがラヴァインを追っているか知らないし、基本ノータッチだと思っていたんだけど、本当にこの兄弟は分からない。仲が悪いのだけは分かっているけれど。
「しかし酷いな、これ」
そういうとアルベドは、周りに転がっていた死体の前にしゃがみ込んで顔をしかめる。そうして、大方何があったか予想がついた、と立ち上がって私の方にきた。
「それで? エトワール、怪我無いのかよ」
「今聞く!? タイミングちがくない!?」
「相変わらず、声がでけえって……いいだろ、心配の一つや二つぐらいしてもよぉ」
「そ、それはいいけど……後、大丈夫だけど」
私がそう答えれば、アルベドはよかったというように、胸をなで下ろした。そんな優しい顔も出来るのかと、見惚れていれば、グランツが私とアルベドの間にサッと割って入った。
「ぐ、グランツ」
「本当に、ラヴァイン・レイを追いかけていただけなんですか?」
「何だよ、疑ってんのか?」
(そうだった、グランツはアルベドの事嫌いだったんだ)
攻略キャラが集まるとろくな事にならないと、前に痛いぐらい分かったのに、ここで一番仲の悪い(一方的にだけど)二人がエンカウントしてしまって、誰もとめに入ることは出来なかった。グランツのアルベドに対する怒りは計り知れないし、全て真実を知っているであろうアルベドは何も言わない。そのせいで、一方的にグランツに攻め立てられているみたいになっていることが多いんだけど、最後にはアルベドの一言で決着がつくみたいな。
それでも、周りにはブライトも私もいるしやるなら他でやって欲しいと思った。
(というか、アルベドもグランツの正体って気づいているんだよね?)
この間というか、結構前のあの発言からグランツの正体についてはアルベドは知っていそうだと思った。逆にアルベドが知らないことがあるなら教えて欲しいぐらい、何故か情報通で、情報を教えてくれるのはいいけれど、はぐらかされることもあるし、本当に食えない奴だと思う。
けれど、この中で一番好感度が高いのはアルベドで、いざとなったら何かと私を庇ってくれそうな感じもあった。別に庇って貰うようなこと何てないだろうし、そもそも、好感度が最近役に立たないことが分かってきている。
そんな風に一人自問自答を繰り返しながら、グランツの服を引っ張った。
「ぐ、グランツそこら辺にしておいてよ。後々、面倒な事になりそうだし……ここでいがみ合ってても意味ないじゃん」
「エトワール様」
「いい子だからお願い。それに、殿下とも同盟を結んでいるし、邪険には出来ないじゃん」
「俺のことなんだと思ってんだよ」
「お、お得意様」
そういえば、アルベドは「ああ?」とヤンキーみたいに突っかかってきて、思わず私はグランツの後ろに隠れてしまった。元々目つきが鋭くて声も低いから、そんな風に睨まれると、オタクの私は萎縮してしまう。兎に角大きな声はダメなのだ。
グランツはそんな私を見ながら、アルベドに「俺に主人が怖がっているんですが」と、こっちもまた冷たく地響きするような声で言った。二人の間にバチバチと火花が散っている気がして、今すぐに離れたい。
私は、睨み合っている二人を置いてそろぉ、とブライトの方に移動する。
「え、エトワール様」
「ま、巻き込まれたくないからごめん、ブライト! 守って!」
「そ、そう言われましても」
ブライトはなんとも言えない顔で、そして何処か諦めたように肩を落とした。こういう時頼れるのはブライトだけしかいないと思った。一番常識人だし、魔法も使えるし。
(あの二人は、二人で睨み合ってるからこっちには飛び火しないわよね……)
飛び火なんてものじゃすまされなさそうだったが、取り敢えずはあの二人から離れることが最優先だった。案の定、ブライトの方を二人は睨み付けて、ブライトは可哀相なことになっていたが、すぐに二人は向き直って一歩も引かないと言った状況だった。
まあどうでもいいけど、色々終わったんだから正直言ってもう帰りたかった。リースに許しを貰ってきているのもあって、早く帰らないと何を言われるか分からない。一応、報告もしなきゃいないしと思っているし、疲れたこともあって帰りたい。定時で帰らせて欲しい。
「二人でそうやって、睨み合うのもいいけど、私達は目的達成したんだから、帰ろうよ……ね、グランツも押さえて?」
「……エトワール様」
「エトワールがそういってんだから、聞いてやれよ。お前、エトワールの護衛騎士に戻れたんだろ?」
「ちょっと、アルベド黙ってよ。火に油注いでどうするの」
本当のことだろ? とアルベドは笑っていたが、グランツの顔は笑っていなかったから、これ以上言ったらまたグランツがぷっちんするんじゃないかとヒヤヒヤした。アルベドも、ラヴァインがいなかったわけだから、もう帰っても良いんじゃないかとも思う。
でも、思えば、この遺体の処理はどうすればいいのかとも、少し思ってしまった。
(この教会が、ラスター帝国でどんな位置にあるか分からないけど、報告しに行って、今日回収……とかは出来ないだろうなあ)
治安維持隊がどうにかしてくれるかも知れないが、外は日が沈んでいるだろうし、そうなると明日。でも、遺体をそのまま放置して帰るのも……と思っていると、アルベドが何やら詠唱を唱え始めた。倒れた人達の下に魔方陣が現われ、飛び出した内蔵や、血が彼らの中に戻って行く。
「え、え、アルベドイイのそれ?」
「イイって何がだよ」
「蘇生魔法は、禁忌だって、前話してくれたじゃん。これって」
「あーちげえよ、これは応急措置つうか、遺体を綺麗に取っておくために、戻しているだけだからな。死んでることには変わりねえ」
「……そ、そんなことできるの」
アルベドはそう言ってのけたが、こんなこと普通じゃ出来ない。というか、遺体を綺麗に取っておくって、確かに大事かも知れないけれど、それを何てない顔でやってのけるアルベドは恐ろしかった。それも、複数人同時にやるのだから、彼の魔力は凄いのだと思う。ラヴァインがちら毛ていったものを、兄であるアルベドが片付けるなんて、何というか皮肉だけど、兄妹愛を感じるというか。
「エトワール変なこと考えているんじゃねえだろうな」
「へ、変な事って?」
「彼奴の尻ぬぐいをするわけじゃねえ、きっちり彼奴に払わせるつもりだ」
と、アルベドは強く言った。
アルベドは、無駄な殺生はしないから、こうやって命を無駄に扱われたことに対して怒りを覚えているのだろう。自分とは赤の他人なのに、そんな風に心を痛められるアルベドには、心があるんだと思う。やっぱり、闇魔法の人全員が悪い何て間違っていると。
そうして、アルベドが遺体全ての清掃を終えると、私の目の前にウィンドウが現われ、クリアの文字がデカデカと表示された。